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2022年12月21日 (水)

たばこをやめたらどうだろう

 citrus《"喫煙目的" の貼り紙がある喫茶店で、子連れの客とトラブルになった件について》[掲載日 2022年12月20日 17:30] に山田ゴメスが愚痴を書いていた.
 
とある都内の街に遠征(?)したとき、たまたま入った喫茶店──そのエントランスには「喫煙目的店」の貼り紙があり、店員さんも入店前に「ウチは全席喫煙ですが大丈夫ですか?」との一言まで添えてくださった。
 そこで、紙巻きたばこ(=アメスピのゴールド)を燻(くゆ)らせながら、ノートパソコンを開いて原稿を書いていると、となりに3歳くらいの息子を連れた母親が客としてやってきた。しばらくすると、子どもが「けむた〜い」と、ケホンケホン咳をしながら母親に告げ口を……。すると、その母親はとなりの私に向かって
「あのぉ…子どもがいるので、たばこは遠慮してもらっていいですか?」
……と言ってくる。私は、その母親にこう返した。
「一応ここは『喫煙目的店』を公称しているお店ですから。もし、クレームがあるなら、ボクではなくお店の人にお伝えください。そのうえでお店の人から『たばこはご遠慮ください』と促されたら、そのときにまたどうするかを考えます」
……と。結局は、店員さんが
「先にも申しましたが当店は喫煙目的店なので、それが厳しいようなら退店をおすすめします」
……と、口調こそおだやかではあったものの、毅然たる態度で接してくださり、その母親は
「イマドキ、全席喫煙のお店なんて信じられない!」
……といった捨て台詞とともに、ぶんむくれ状態で店を出て行ってくれて、事なきを得たわけだが(※オーダーした品が来る前だったので、お金は払っていなかった)、コレって……どっか私(と、お店側)に落ち度はありますか???
 子どもを副流煙から本気で守りたいなら、お店選びも真剣に……最大限の注意を払うべきだとおせっかいながら私はその母親に忠告したかったのだが、いかがだろう。徒歩1分くらいの場所に、スタバだってちゃんとあったのに……。
 
 防衛費増額のための増税の議論が先週決着した (12/15).自民党は同日の税制調査会で法人,所得,たばこの三税を増税することに決めた.
 法人税増税については,高市早苗・経済安全保障担当相が公然と反対した.賃上げが喫緊の課題であるこの時に法人税を上げてどうするのか,という主張だった.
 いくつかのメディアは「高市の乱」と書いた.あの「加藤の乱」になぞらえたのである.「加藤の乱」は今も語り継がれる自民党の内紛であり,Wikipedia にまで項目が立てられている.
 高市大臣は意気軒高に「罷免されても構わぬ」と語ったが,いざ自民党内に「高市を罷免せよ」との声が高まると「党議に従う」と述べて簡単に腰砕けした.つまり高市大臣の増税反対は,最近全く存在感がないからここはひとつ騒いでみようかという,ただのお騒がせ茶番に過ぎなかったのである.早苗ファンは,さぞやがっかりしたであろう.その程度の政治家か,とメディアもがっかりしたに違いない.
 所得税については当初,復興特別税を転用する案が浮上したが,余りにも無原則な財源手当てであるとして,自民党内からも批判が出た.
 そこでデタラメとも見える転用ではなく,防衛費増額の財源税を新設し,その増税分を復興税の減税分で充当することにした.東北の復興なんかにもう興味はないと言わぬばかりの弥縫策である.
 さて,たばこ税 (これは正式名称である) は,いくら増税しても国民の関心を呼ばない税である.酒税とこの点が異なる.
 ここで喫煙者に関するデータ《成人喫煙率 (JT全国喫煙者率調査)》を見てみる.公益財団法人健康・体力づくり事業財団のサイトに掲載されている資料である.(日本専売公社と日本たばこ産業株式会社による「全国たばこ喫煙者率調査」に基づいて作成されているが,「全国たばこ喫煙者率調査」は2018年調査をもって終了しているため,今後は同調査は行われない)
 
成人喫煙率(JT全国喫煙者率調査)
 たばこ産業の「2018年全国たばこ喫煙者率調査」によると、成人男性の平均喫煙率は27.8%でした。 これは、昭和40年以降のピーク時(昭和41年)の 83.7%と比較すると、約50年間で56ポイント減少したことになります。 年代別にみると、急激な喫煙率の減少傾向が見られる60歳以上は21.3%ですが、30歳代から50歳代はまだ35%前後を推移しており、一番高い年代は40歳代で35.5%でした。
 成人男性の喫煙率は、減少し続けていますが、諸外国と比べると、未だ高い状況にあり、約1400万人が喫煙していると推定されます。
 これに対し、成人女性の平均喫煙率は8.7%であり、ピーク時(昭和41年)より漸減しているものの、ほぼ横ばいといった状況です。 喫煙率が一番高い年代は40歳代の13.6%、最低は60歳以上の5.4%です。
 
 成人男性の喫煙者は増税のたびに減少を続け,現在は平均すると約四人に一人が喫煙者である.現役世代はもう少し多い.意外に多いなあと思う.
 成人女性の喫煙率は昔からあまり変わらない.この女性たちは筋金入りの愛煙家であり,いくら増税されても吸い続けるだろう.
 私が大学生になった昭和四十三年に一番人気銘柄になったハイライトは一箱八十円だったが,それ以後は価格上昇の一途を辿って今は五百二十円だそうだ.
 たばこが値上げ (すなわち,たばこ税増税) されるたびに,禁煙する成人男性が増えるので,結果的にたばこの税収は増えない.
 YAHOO!ニュース《値上げが続くたばこ 「たばこ」による税収の推移を振り返る(2022年公開版)》[掲載日 2022年8月5日 11:01] によると,2000年頃にたばこ税収は二兆五千万円ほどあったのに漸減して,現在は二兆円を切りそうなところに来ている.
 たばこ税を増税しても税収は増えないことが過去のデータで明らかになっている.いくらたばこを値上げしても,たばこ税収は防衛費増額の財源にはなり得ない.むしろたばこ税は,増税すると税収が減るという特殊な性質を持っている.それがわかっていながら,たばこ税を増税すると決めた自民党税調は何を考えているのだろう.
 ただし,自民党税調の意図はどうか知らぬが,たばこ税を増税すると,医療費の削減効果はあるだろう.
 喫煙の直接的な害は肺がんだが,深刻なのは循環器の傷害だ.喫煙者が減れば,狭心症や心筋梗塞などの生活習慣病は減ると言われている.
 私自身が,冠動脈が詰まってバイパス手術を受けた人間であるが,原因は長年の喫煙習慣だと深く反省した.
 
 さて本題.ゴメス山田はある日,喫煙目的店 (喫煙を主たる目的とする営業であり,主食以外の飲食の提供を可とする) に入って一服した.
 ところが,喫煙者御用達である喫煙目的店に入ってきた女性が,自分からその店に入ってきておきながら「喫煙しないでくれ」とゴメス山田にクレームを付けた.ゴメス山田はその女性客に困惑した.彼女の言い分はおかしくないか?というのである.
 それはまことにその通りで,私はゴメス山田に同意する.
 でも,その女性客のような人は昔からいたなあ,と遠い目で思い出す.
 なんというか,そういう人たちは,他人の喫煙を放っておけない.文句を言いたいのである.だから,近くに全面禁煙のカフェがあるのに,そこに入らずにわざと喫煙目的店に入ってきて揉め事を起こすのだ.
 
 私は現役会社員時代に喫煙者だった.東京から関西へ出張で東海道新幹線に乗ることが多かったが,以前は喫煙車両があった.
 喫煙車両は数が少ないから空席は少なく,乗客がみんなスパスパとたばこを吸うから,換気が追い付かなくて車内は煙でモウモウとしているのが普通だった.
 ある日,静岡への出張で東京駅から新幹線に乗った私が喫煙車両 (「こだま」の自由席) の席で発車を待っていると,喫煙車両に入って来た中年女性がいた.
「こだま」は乗車率が低いので禁煙車両はいつも空席があるが,喫煙車にはたくさんの乗客が乗っていた.そして発車前からハコの中には紫煙が漂っていた.このような状態では,たとえ間違いでも非喫煙者の若い女性は入ってこない.ヤニ臭いおっさんたちで充満しているハコに入って来るはずがない.だとすれば誰だって,入ってきた中年女性は喫煙者だと思うだろう.
 しかしその中年女性は,たまさか空いていた私の隣の席 (二列席の通路側) に着くと,汚れた空気を払うように片手を顔の前で振る仕種をしてから,「あー臭い!」と言った.
 やがて「こだま」が小田原辺りに差し掛かった頃,私はたばこを咥えて火を着けた.
 すると隣席の ババア 中年女性が私に食って掛かった.
 
「ちょっとあなた!たばこを吸う時は隣の私に,吸ってもいいかどうか訊くのがマナーでしょ!」
「はあ?許可も何も,ここは喫煙席なんですけど」
「喫煙席だからって勝手にたばこを吸っていいってわけじゃないでしょ!」
「すみません,じゃあたばこ吸ってもいいでしょうか?」
「やめてください!こんなにケムいのにこれ以上たばこを!どんだけー!」(少し脚色した)
 
 うわあ,やばいのが隣にきちゃったよー.
 私は箱から一本抜いたたばこを元に戻し,辺りは気まずい空気になった.前のシートの乗客は声もなく俯いた.
 ここで私が「禁煙車両はすいてますよ」なんてことを言うと事態はこじれるに違いない.理由は不明だが,クソババア 中年女には触らぬ神にたたりなしである.
 そのまま落ち着かぬ時間が過ぎて,ようやく静岡駅に到着し,私は「すみません,降りますので,すみませんすみません」と通路側の 中年女 クソババアに謝りつつ下車したのであった.「ちょっとあなた!降りる時は隣の私に,降りてもいいかどうか訊くのがマナーでしょ!」と言われたらどうしようと思ったことである.
 
 ゴメス山田と子連れ客とのトラブルの話を読んで思い出したのが,上に書いた新幹線で遭遇した嫌煙女性のことである.今風の言葉で言えば「嫌煙警察」といったところか.唐突な造語ですまぬ.
 嫌煙というのはたばこの煙を嫌うという意味だが,私の唐突な造語「嫌煙警察」は喫煙者に嫌がらせをする.
 かつては新幹線の喫煙車両に突入し,今では喫煙目的店に突入して喫煙者に嫌がらせを行う.喫煙者は既に社会的にかなりマイナーな存在になったから,嫌煙警察は今後,嵩にかかって嫌がらせを強化するであろう.
 そこへもってきて,追い打ちのたばこ税増税だ.これでまた喫煙者は減り,たばこ税収も減り,防衛費増額が達成できない政府はさらなるたばこ増税に踏み切る.二十本入りの一箱が千円という時代が来るだろう.デたばこスパイラルとでも言うべきか.唐突な造語ですまぬ.
 そして一箱千円に耐えられぬ喫煙者は喫煙を諦める.喫煙者が減れば,喫煙目的店は経営が立ち行かなくなる.やがて,たばこの吸えるバーや喫茶店は都会の隅に残された喫煙者のサンクチュアリと化すだろう.
 
 かつて,喫煙は文化であった.
 明治大正昭和の文豪たちは,出版社のカメラマンが近影を撮影する時は,かならず紙巻に火を着けて煙をくゆらせた.太宰も朔太郎もたばこを手から離さなかった.詩人も事業家も,皇族もプロレタリアも,等しくたばこを吸った.
 かつて戦前の皇室には天皇と皇后,皇太后に専用のたばこがあった.臣下ならびに軍には特製のたばこが下賜され,これを恩賜のたばこといった.この箱には賜の一文字が印字され,中の紙巻たばこには菊の紋が入っていた.恩賜のたばこは,葉の調合は戦前の銘柄「金鵄」と同じだったとの説があるが文献上の確証はない.ちなみに金鵄とは神武東征のときに現れて天皇を導いた鵄 (トンビ) である.
 チャーチルも吉田茂も葉巻を愛した.特別機で厚木基地に到着し,タラップを降りるマッカーサーはコーンパイプを咥えていた.昭和史に残るシーンである.
『ティファニーで朝食を』の中で,A.ヘプバーン演じるホリーが黒のロングドレスを着て,細長いシガレット・ホルダーで喫煙するシーンはオールド映画ファンの目に焼き付いている.
 ジェームズ・ボンドはバルカンとトルコの葉をブレンドしたカスタム・メイドの紙巻を一日に六十本喫煙した.作者のイアン・フレミングも同じたばこを一日に八十本くらい煙にした.
 ドラマ『北の国から』に登場する女性たちは,ほとんどが喫煙者だった.作者の倉本聰は,たばこを感情表現に用いることを得意としたからである.いしだあゆみ や竹下景子の喫煙シーンがあるのは『北の国から』だけのはずである.
 コロンブスが1492年に新大陸の先住民に遭遇したとき,彼らはコロンブスに香り高い乾燥葉を友好の印としてプレゼントした.彼らはコロンブスに,これは薬草だと語った.コロンブスが「本当か」と問うと彼らは「インディアン嘘つかない」と答えた.
 
 それもこれもみんな昔の話になった.
 来年予定されるたばこ税増税で,喫煙者は十人に一人もいなくなるだろう.
 ゴメス山田も,そろそろたばこをやめたらどうだろうか.
 
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ウクライナに自由と光あれ
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(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)


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