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2022年12月27日 (火)

論文は,書けばいいってもんじゃない

 Gigazine《「子どもをたくさん産んだメスほどバカな鳥」が報告される》[2022年12月27日 16:00] に,納得できない記事が掲載されている.
 
シロクロヤブチメドリはボツワナ・ナミビア・ミナミアフリカ・ジンバブエといったアフリカ大陸南部のサバンナに生息するスズメ目の一種で、群れで協力して子育てを行う習性を持っています。西オーストラリア大学の進化生物学者・Camilla Soravia氏らの研究チームは、グループ内における認知能力の変動について調査するため、人間に慣れている野生のシロクロヤブチメドリ38羽を対象に認知テストを実施しました。
 テストは報酬としてエサを与える3つのタスクで構成され、各タスクでは関連性の学習や実験の変化に対する適応、するべきでない行動の学習といった個々の項目について測定されました。一般に、1つのタスクで好成績を残した個体は別のタスクでも成績がよく、general cognitive performance(GCP/一般認知能力)が高いことが示唆されたとのこと。
 実験の結果、シロクロヤブチメドリの一般認知能力はオスとメスの両方で個体ごとに違いが見られましたが、全体的に年齢の高いメスにおいて比較的低い傾向がみられることがわかりました。さらに関連する要因を調査したところ、メスは年を経るごとに繁殖力が高くなる傾向があったと研究チームは述べています。
 以下の図は、シロクロヤブチメドリの年齢と性別による認知能力の変動を示したもの。縦軸が認知能力の高さで横軸が年齢を示しており、黒く塗りつぶされた点がメス、白く塗りつぶされた点がオスの個体を表しています。全体的に、メスは年齢が高いほど認知能力が低い傾向が見て取れます。
… (中略) …
 研究チームは、「10年以上にわたるシロクロヤブチメドリの繁殖データを分析した結果、一般認知能力が低い個体ほど年間により多くの子どもを産むことがわかりました。この結果は、認知能力が生殖能力とトレードオフの関係にあることを示唆しており、自然選択が認知能力にどのように作用するのかを理解するためには利益だけでなく、そのコストも考慮する必要があることを示すものです」と述べました。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
 上に「納得できない」と書いたのは Gigazine が翻訳して掲載した記事そのものではなく,この記事の元である英国王立協会紀要に掲載された論文のことである.(Gigazine 記事のタイトルにある「バカな鳥」は問題があるが)
 王立協会紀要 (Proceedings of the Royal Society) は英国の王立協会 (または王立学会;Royal Society) が発行する自然科学の学術雑誌で,王立協会は,最初は科学者のサークル的な組織であったが,現在は「世界最古の民間学術団体」である.(ただし,王立と称しているが民間団体であり,英国王室が運営しているわけではない)
 王立協会紀要は十九世紀に創始 (1831年) され,Paul Dirac, Werner Heisenberg, Ernest Rutherford, Erwin Schrödinger, James Clerk Maxwell, Stephen Hawking ら著名な科学者の論文を掲載したことで知られる.
 この学術雑誌は二十世紀 (1905年) になってから下記の二分野に分離されて発行されるようになった.それぞれは現在 (2017年) では次の名称で呼ばれている.
Proceedings of the Royal Society A: Mathematical, Physical and Engineering Sciences
Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
 
 Proceedings of the Royal Society A は数学,物理学および工学的科学分野における査読済の論文を掲載し,Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences は生物科学分野における論文,総説等を掲載している.“B”には査読がないから,掲載記事や総説は玉石混交である.
 さて冒頭の Gigazine の記事は,Proceedings of the Royal Society B に載った論文“General cognitive performance declines with female age and is negatively related to fledging success in a wild bird”と,情報サイト ScienceAlert に掲載された記事“Female Southern Pied Babblers Seem to Get Stupider as They Have More Babies”(原文のURLはここ) を翻訳紹介したものである.Gigazine の記事のタイトルにある「バカな鳥」は ScienceAlert のこの記事中の“Stupider”に影響されていることがわかる.英語の stupid は馬鹿,間抜けの意味であるが,野鳥を stupid と表現するのは愚かな (stupid) 者がやってしまう擬人化である.“Babies”も同じく間抜けな (stupid) 擬人化であり,正しくは bird chichs である.
 
 では,まず王立協会紀要B に載った原著論文から見てみよう.(URL はここ)
 当該論文を発表した研究チーム (筆頭著者は西オーストラリア大学の Camilla Soravia) は,人間に慣れた野生のシロクロヤブチメドリの行動の観察ではなく,その行動に人間が介入する形で行われた.実験方法の詳細は原著論文に譲るが,この時点で既にこの鳥の「自然な行動」ではないことを論文読者は指摘せざるを得ない.
 実験方法の問題はさておいて,実験結果の図を下に引用する.
 
20221227a
 
 このグラフの縦軸は,実験者らが「認知能力」としている値.横軸は被実験個体の年齢である.
 また●はメス,○はオスである.
 上に引用した図2において,破線はオスの個体の認知能力値と年齢のデータから得た回帰直線である.
 同様に実線はメスの個体の認知能力値と年齢のデータから得た回帰直線である.
 私が現役の技術者であり研究者だった時,私の学問的基礎は有機化学と酵素化学および微生物学であった.その私の目から見ると,図2は,壁に向かって散弾銃をぶっ放したような散布図であり,データ数も少ない.これに回帰直線を引くとは実に強引かつ大胆不敵であると驚き呆れる.
 
 とはいえ,強気になれば,どんな散布図でも回帰直線を描き入れて相関の有無を論じることはできる.しかしそこで強調されねばならないことは,相関関係と因果関係は異なるということであり,これは高校数学の知識だ.
 ところが C. Soravia は「繁殖能力の高いメスは,認知能力は低い」ことから,結論を次のように記述した.
Our findings suggest that cognitive performance is traded-off against reproduction
 つまり C. Soravia は「繁殖能力の高いメスは,認知能力は低い」という負の相関関係を「メスは繁殖能力が高くなると,認知能力は低くなる」という因果関係 (traded-off) に歪曲したのである.
 この論文のおかげで stupid な情報サイトが「シロクロヤブチメドリのメスは産卵すればするほどバカになる」などと,さらに歪曲してしまった.C. Soravia の責任は重大である.論文はテキトーなことを書けばいいってものではない.
 このような程度の低い論文を書いた C. Soravia はどんなやつだと怒りつつプロフィールを調べたら,博士課程の学生だった.それならば指導教官がもっとしっかり指導せにゃあかんではないか.
 と思ったが,ツイッターに彼女の画像が載っている.ちょっとかわいいので,今回は不問に付すことにする.これからもっと勉強しなさいね.よかったよかった.
 
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ウクライナに自由と光あれ
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(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)



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