敬語表現は,実社会でどう使われているかが問題だ
東洋経済ONLINE《「了解いたしました」に不快感持つ人の意外な盲点 失礼?あくまで受け手の個人感覚だが模範解答も》[掲載日 2022年12月18日] に宮本ゆみ子さんというフリーのアナウンサーが敬語表現について書いている.
《「了解いたしました」は失礼?
ビジネスメールでのマナーや敬語について、次に多い質問も決まり文句についてです。
「『了解いたしました』は、失礼にあたるから使ってはいけないと聞いたことがあります。ではなんと言えばいいのでしょうか?」という質問です。
「了解いたしました」が失礼に当たるかどうか。これはたびたび、論争が起きる話題です。私はこれがなぜ「失礼だ」とされたのか、その事情を承知していません。調べてみたのですが、根拠の背景もよくわかりませんでした。
「『了解いたしました』」は別に失礼な言葉ではない」とする国語の専門家もいます。その説明によると「了解」は「わかる」の漢語表現で、この言葉自体に特に敬意のニュアンスは含まれていないため、「了解」だけだとたしかに失礼かもしれない。けれど、「いたしました」という丁寧かつへりくだった表現をつけた「了解いたしました」は、敬語として十分である、とのことです。
文法的や意味的に正しいとか正しくないとかを超えて、時として言葉は、個人の感覚によってニュアンスが変わってしまうものです。「了解いたしました」は、失礼な表現ではありません。でも、もしも上司や取引先の人、つまり、敬語を使わなければならない「外側の人」が「了解いたしました」を失礼だと感じる感覚を持っていることがわかったら、相手の感覚に寄り添い、言い方を変えてあげることが、相手に対しての敬意を表する行動といえるかもしれません。
では、肝心の言い換えです。「了解いたしました」と使いたいとき、つまり「わかりました」を丁寧な表現で使いたいときにはどうしたらいいでしょうか。その解答の第1候補はこれです。
「かしこまりました」
これで十分です。これなら、「わかりました」を丁寧に表現しているし、敬語として誤りではないし、多くのかたが失礼だとは感じない言い方です。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
宮本ゆみ子さんは《私はこれがなぜ「失礼だ」とされたのか、その事情を承知していません。調べてみたのですが、根拠の背景もよくわかりませんでした》と述べている.宮本さんはフリーランスという職業柄か,敬語が仕事の現場でどのように使われているか,その実際のところをよく知らないようだ.
というのは,自分で《でも、もしも上司や取引先の人、つまり、敬語を使わなければならない「外側の人」が「了解いたしました」を失礼だと感じる感覚を持っていることがわかったら、相手の感覚に寄り添い、言い方を変えてあげることが、相手に対しての敬意を表する行動といえるかもしれません》と書いておきながら,それとは異なる次の主張をしているからである.
《「承知いたしました」ではダメ?
「承知いたしました」ではダメですか? と訊かれることがあります。もちろん「承知いたしました」でもOKです。
ただ、ちょっと気になる点があります。「承知いたしました」は「了解いたしました」と同じ構造です。「承知」も、大雑把に言えば「わかる」の漢語表現で、この言葉自体に敬意のニュアンスはありません。「いたしました」をつけることによって敬語表現として成立しています。
ですから「了解いたしました」をNGとする人が「承知いたしました」をOKとするかどうか、ちょっと微妙です。もし「了解いたしました」がNGで「承知いたしました」はOKとしている人がいるとしたら、その人の言葉の選択には根拠がなく、あくまで個人の感覚で判断しているのだな、ということがわかります。でも現実には、そういう人も案外多いものです。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
実際に会社組織に属していないとわからないかも知れないが,宮本さんの意見《「承知いたしました」は「了解いたしました」と同じ構造です》は,文法的には正しいが,実生活的には正しくない.
「承知しました」と「了解しました」は,会社員 (公務員も含めて) の世界では,異なった使われ方をする.
例えば,上司部下の関係が比較的フラットな会社で,部下が課長に「課長,明日の商談に同行をお願いしますね!」と言い,そして課長が「了解!」と返すのはよくあることだが,「承知!」とは言わない.「了解」と「承知」は,似たような意味でも使われかたが違うのである.
そして,「了解」は立場が上の者が下の者に対して用いるのが慣用だ.従って,部下が上司に「了解いたしました」と言うのは,形は敬語表現になっているが,実社会では失礼だとされているのである.
宮本さんは《「承知」も、大雑把に言えば「わかる」の漢語表現》だと言うのだが,大雑把すぎる.「承知」と「了解」は似ているが別の言葉である.この違いを例示すると,「皆さんご承知のように……」と「皆さんご了解のように……」では意味が異なるのである.ニュアンスとして,「了解」は「承知」よりも「同意している」程度が大きいといえる.極端なことをいえば「承知はしたが了解はしていないぞ」という表現が成立するのだ.
また課長が部下に「明日の会議資料,今日中に作ってね」と指示した時,部下は絶対に大きな態度で「了解!」と言ってはいけない.ましてや「承知!」は論外だ.これは「わかりました」と答えるべきなのに「知ってますよ」と言うに等しい.
この「了解」と「承知」の違い (立場の上下) は,「了解いたしました」と「承知いたしました」に引き継がれる.「承知いたしました」は許されても「了解いたしました」はNGというのが実社会だ.敬語表現である「了解いたしました」よりも無敬語の「承知しました」の方が,上司と部下の関係においては,まだマシなのである.
繰り返すが,宮本さんは《私はこれがなぜ「失礼だ」とされたのか、その事情を承知していません。調べてみたのですが、根拠の背景もよくわかりませんでした》とか何とか怠惰なことを言ってないで,組織の中で仕事をする人たちの中に飛び込んで,敬語の慣用表現,つまり実際の使われ方を勉強するべきだ.フリーランスの人にも必要な知識だと私は思う.
[追記]
銭形平次が「八っ,神田明神下の上州屋に行くぜ!」と言うと八五郎は「へい,合点承知の助!」と答える.
下っ引きが親分に,上から目線で「おお,合点了解の助!」と言ってはいけない.
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ウクライナに自由と光あれ
(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)
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