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2022年9月16日 (金)

キレる国王 モレる万年筆

 ウェブ上のメディアや個人のブログには,コンビニなどのレジで突如キレて怒鳴り出す老人 (ほとんど男) を非難する記事が多い.
 暴走老人という新語もある.
 なぜ爺はキレるのか.
「アンガー・マネジメント」の専門家と呼ばれている安藤俊介 (プロフィール) 氏によると,嘘か本当か知らぬが,キレる理由は三つある.以下は,PRESIDENT Online《「怒りをぶつける相手を常に探している」キレる高齢者に共通する特徴3つ》[掲載日 2021年7月3日 11:00] からの受け売りである.
 
(1) 執着
 何に執着するかは,人によって異なる.過去の成功体験だったり,大切にしていた物や思い出だったりする.これが失われそうになったり,他者から批判,攻撃されたりするとキレる.
 
(2) 孤独感
 孤独を好む人は問題ないのだが,望まぬ孤独感 (家族と同居していても孤独ということはある) に苛まれるとキレる.この孤独感とは,自分の居場所がないという感情である.
 
(3) 自己顕示欲
 承認欲求のことだ.孤独と関係がある.孤独だと他者に自分を承認してもらえないからである.
 
 社会的な成功体験がとても大きなものであれば,年老いても周囲から大切にされて孤独になることはないから何の問題もなかろうが,成功が中途半端であるとややこしいことになる.会社員の場合,取締役 (最上の成功体験だ) にはなれなかったが執行役員 (社員の身分だ) になって定年退職を迎えたなんて男が,よく例に挙げられる.こういう男は,退職して暇なので地域の趣味サークルに入ったはいいが,新参の初心者なのにやたらと仕切りたがるらしい.
 
 というのが,安藤氏の見解である.
 なるほどねー,ありそうなことだなーとは思うが,なんのエビデンスもないのが情けない.ただの仮説だ.
 ところが安藤説よりはまともな見解が以前から提出されている.老人がキレるのは大脳前頭葉の委縮 (=機能低下) が原因であるという脳科学的な説明である.
 介護ポストセブン《キレる老人その理由|老化による「性格の先鋭化」」とは?対処法を解説》[掲載日 2020.05.12] で,老年精神医学の専門医・和田秀樹氏が次の様に述べている.
 
長寿で脳の前頭葉が萎縮している人の数が増えたことも問題行動の要因の1つです。加齢による脳の老化には順番がありますが、最初に老化が表れるのが前頭葉。ここは意欲を司るとともに、感情のコントロールをしている場所なのですが、マンネリ化した生活をしていると、真っ先に萎縮してしまうのです。
 
 この前頭葉委縮説はもっともらしいが,実は前頭葉の委縮 (機能低下) は中年くらいから始まるという致命的な矛盾がある.
 事実として,会社で働き盛りの男たちがキレているのは見たことがない.思い通りにならぬことに腹を立てるのは,仕事から引退した高齢者たちである.
 それに,キレる老人は男であるということが前頭葉説では説明ができない.女性は前頭葉が委縮しないというなら話は別だが,そのようなことを述べた論文は見当たらない.
 それにもっと重要なことは,キレる老人は,年寄り全体のごく一部であるということだ.
 さらには,一説には老人がキレるのは日本人に特有な現象だという.世界的視点からすると,キレる老人はレアなのである.
 
 後期高齢者である私自身のことを言うと,たぶん老人の前頭葉の機能低下,つまり感情の抑制ができなくなることは,「キレる=怒り」ではなく「涙もろさ」をもたらす.これは老人全員が同意してくれるだろう.
 以前《チコちゃんに叱られる》で簡単な実験をしたのを観た.その実験では,悲しいお話の映像を見せられた老人は泣くが,若い人たちは感動しても涙を流したりはしなかった.実験の結論は,老人は前頭葉の機能低下で,泣きたいという感情のコントロールができなくなる,ということだった.
 つまり老人は,孤独や不遇が理由でキレるのではない.前頭葉の機能低下でキレるわけでもない.
 私に言わせれば,両説とも非科学的である.仮説以下の単なる推測に過ぎない.
 もし科学的に「キレる老人」の本質を解明するのであれば,キレるジジイを何十人も集めてきて,キレるジジイと心穏やかなおじいさんを対比し,精神医学的にあるいは脳科学的に,統計学的な比較研究をするべきである.(「キレるジジイ群」に入れられたと知ったジジイたちはキレまくるだろうが)
 なのに科学者たちはなぜそのような実験研究をしないか.当然だが,ジジイがキレようが泣こうが,ほっておけばいいからである.w
 
 さてつい先日,老いも若きも世界中の人々たちは,キレるジジイの見苦しい姿をテレビの報道画面で見てしまった.
 東京新聞《万年筆のインクが漏れて…チャールズ英国王「いまいましくて耐えられない」 SNSで「事件」が話題に》[掲載日 2022年9月17日 11:36] から下に引用する.
 
【ロンドン=加藤美喜】英国のエリザベス女王の死去に伴い即位したチャールズ国王(73)の「万年筆事件」が話題になっている。国王は即位宣言に署名する際、万年筆のトレーが邪魔になって側近にどけるよう指示。その瞬間、歯を食いしばるようにして不快な表情を見せた映像が、交流サイト(SNS)で拡散した。
 13日には、カミラ王妃(75)とともに訪問した英領北アイルランドで、記帳の際に万年筆のインクが漏れて指が汚れたことに立腹。「いまいましくて耐えられない」と吐き捨て、指をぬぐいながら立ち去った。
 
 補足すると,新国王は,英領北アイルランドの首府ベルファストを初めて訪問し,訪れたヒルズボロ城で芳名帳にサインする際に,9月13日と書くべきところを12日と書いてしまった.ここで怒り始めたのだが,訂正しようとしたら万年筆からインクが漏れて指が汚れた.それで遂に怒りをこらえられなくなった.イライラの半分は,ボケて 今日が何日だかもわからぬ自分が悪いのに.(日テレNEWS《「耐えられん!」チャールズ新国王…“ペン”でイライラ 早くも“2度目”》[掲載日 2022年9月14日 21:28])
 
 英国新国王は私よりも一歳年上だが,私はその日その日の日付くらいはしっかり認識している.その代わり,その日にする予定のことは忘れてしまうが.泣
 さて,問題は英国新国王を怒らせた万年筆のメーカーである.
 英国王室御用達の万年筆は,現在はパーカーであるが,かつては既に消滅した英国コンウェイ・スチュワート社 (Conwey Stuwart) の製品をエリザベス女王は愛用していた.これは職人の手作り製品で,今はヴィンテージ品が流通している.
 報道の画面では件の万年筆は小さくてよくわからぬのだが,軸の長さが短いのが特徴的だ.
 そこでパーカーのカタログやコンウェイ・スチュワートの製品の画像を検索してみたのだが,ヒルズボロ城に用意されていた万年筆は両社の製品ではないと考えられる.
 英国人は,すぐにインクだだ漏れ万年筆のブランドを突き止めるだろう.そして今後,もはやそれを購入する人はいなくなるだろう.だが品質が悪いのではなく,ヒルズボロ城の職員の手入れが悪い可能性もあるから,お気の毒に,と思う.
 
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ウクライナに自由と光あれ
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(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)


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