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2022年8月22日 (月)

勝ち組にも負け組にも幸せがある

「勝ち組」「負け組」という言葉の本来の意味は,先の戦争の終戦直後に,ブラジル日系人の社会で発生した抗争を意味している.
 PRESIDENT Online《「日本の敗戦はインテリのデマだ」ブラジルに住む日本人の9割がそう信じて起きた悲劇 根底に存在した「金持ちへの嫉妬心」》 にわかりやすい解説が載っているので,冒頭のみ下に引用する.
 
「日本は戦争に勝った!」というフェイクニュース
あの人は“勝ち組”だ──と言ったら、どんな人のことを思い浮かべるだろうか?
 きっと何かしらの成功者、多くの場合は経済的な成功者のことをイメージするだろう。逆に何かしらがうまくいっていない人のことを“負け組”と呼んだりもする。
 しかしこれは比較的最近定着した言葉の使い方だ。かつてこの“勝ち組”そして“負け組”という言葉が、現在とはまったく違った(そしてかなり物騒な)意味で使われていたことは意外と知られていない。
 1945年の太平洋戦争終結時、「日本は戦争に勝った!」というフェイクニュースを信じてまった人々がいた。彼らを“勝ち組”、逆に敗戦を正しく認識した人々を“負け組”と呼ぶのだ。両者は激しく対立し、ついには殺人テロまで起き20人以上の死者が出る事態にまで発展した。そんなことあったの? と、驚く向きも少なくないだろうが、あったのだ。ただし日本ではなく、ブラジルで。
 
 本来の意味の「勝ち組」「負け組」で,日本の敗戦という事実を正しく認識していたのは「負け組」だったが,彼らはブラジル日系人社会における成功者でもあった.つまり実生活における敗者階層の人々は,帝国日本が戦争に勝利するという幻に縋り,信じ込んだのである.日本が戦争に勝てば,敗者は一気に異国ブラジルでの成功者に大逆転できるからであった.
 ところが戦後,いつしかこの言葉の意味が変容・大逆転した.
「勝ち組」は「人生の勝ち組」となり,「負け組」は「人生の負け組」となった.あからさまに言うと,人生の勝ち負けとは経済格差のことだ.現在ではむしろ,こっちの語義が広く用いられて普通になっている.人口比で喩えると,日本人の1%くらいが勝ち組だろうか.この1%組と残りの99%組のあいだに,ものすごい資産格差があるのは周知のことである.
 
 そんなことを,NHK《ドキュメント72時間 歴代ベスト10スペシャル》を観て考えた.
 視聴者投票歴代三位は《海が見える老人ホーム》(2022/8/14放送) であった.
 神奈川県三浦市にある有料老人ホーム「油壺エデンの園」(聖隷福祉事業団運営) に入居している高齢者たちの日常を撮影した記録映像である.
 この老人ホームはいわゆる高級~超高級老人ホーム (居室により異なる) である.
 例えば一人で入居した場合,もっとも安い居室の場合は入居一時金として2,000万円,介護費用として550万円を入居前に支払わねばならい.
 合計して一人入居の場合の総額は,2550万円~8020万円(税込) となる.(同施設の公式サイトに掲載されている)
 そして月額利用料がこれにオンされ,一人入居の場合,およそ15万円である.入居後に十年生きるとすれば,最低でも2550万円+1,800万円
=4,350万円が老後の住居資金として必要になる.(ただし十三年以内に契約解除すると一部が返金される)
 日々多少のお小遣いが必要とすると,ざっと五千万円が必要資金である.
 会社員の場合,仕事からリタイアした時に五千万円~一億円の資産を持っている人は少数派だ.人生の勝ち組に近いといえる.ほぼ勝ち組である.
 ところで放送では,一人暮らしの老人男性が登場して,しきりに自分の居室をオーシャン・ビューだと自慢したが,それほど羨ましくはなかった.
 私は貧乏なので,油壷エデンの園に入居するには一時金が足りない.しかし,死ぬまでかくしゃくとしていた場合の話だが,QOLは似たようなもんだと思う.私にはオーシャン・ビューの居室はないが,徹夜で懐かしい歌のCDをかけてがんがん聞いたり歌ったりする自由な時間割があるし,老犬と暮らす楽しみもある.(私は勝ち負けでいうと中間あたりなので,次善の策として,貯えを住居費ではなく終末医療に使うつもりだ)
 
 視聴者投票歴代一位は《秋田 真冬の自販機の前で》(2015/3/6放送) だった.
 自販機は,うどん自販機である.雪が降り風が吹き晒す道路の脇に置かれた自販機にやってきて,熱い汁のうどんを啜る人々のスケッチだ.
 素直な感想として,わたしはこれが第一位という結果に納得した.
 理由は,撮影に応じてくれた人々から感じられる暖かい幸福感である.もちろん,72時間の中で撮影に応じた人の率はわからないし,不機嫌な人もいたと思うが,それでも「暖かい幸福感」という編集結果を残せたのには,そのような力が,真冬の自販機にあったということなのだろう.
 インタビューに応じた人たちの中で,病院職員の女性と,七つ年下の建設業の男性のカップルがとてもすてきだった.
 女性は以前からこの自販機を利用していたのだが,男性と付き合い始めてから,お相手の男性を連れてくるようになったという.
スタッフ「うどんは,じゃあ彼女さんが…」
女性「うん,うん…連れてきて…たぶん絶対おいしいって言うし,また食べたいって言うと思った」
ナレーション;いつか大切な人に出会ったら必ず連れてきたい場所だった.
女性「出会う前から食べてたものを,一緒に共有してもらいたいっていうかな…」
 彼女は撮影しているあいだ,ずっとニコニコとしていて,そして食べ終わると男性の左腕につかまって夜道を歩いて行った.
 私は,これほど嬉しそうにものを食べる人を見るのは久しぶりだ.食べ物が人を幸せにするってことが,ほんとによくわかった.
 
 しかし世の中はおもしろいもので,上に述べた超高級老人ホームにも,幸せな顔でご飯を食べるひとはいた.
 世間が「おカネはないけれど幸せな人」と「おカネはあるのに幸せでないひと」でできていたら話は簡単だが,そんなうまい話はないのである.
 例えば,老人ホームに夫婦で入居したあとで夫に先立たれた女性と,一人で入居していた男性とが,お付き合いをするようになったという.
 この人生完全勝ち組のお二人が,実に幸せそうだったのである.
 この二人と,うどん自販機のカップルと,どっちが幸せ感にあふれていたか.
 これが,甲乙つけがたいのだった.
 人生はカネじゃないとは言うけれど,もちろんカネがあると不幸せになるわけじゃないから,世の中はおもしろい.
 つまりは人生の幸福は,勝ち負けとは別のことだと納得できるドキュメンタリ作品なのであった.
 先のことになるだろうが,もし再放送があったら,一位から三位まではぜひ視聴されることをお勧めしたい.
 
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ウクライナに自由と光あれ
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(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)


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