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2022年7月14日 (木)

缶詰パン

 共同通信《賞味期限切れ缶詰パン配る JR東、乗客48人に》[配信日 2022年7月14日 0:49] から下に引用する.
 
JR東日本仙台支社は13日、大雨の影響で仙山線奥新川駅(仙台市)で運転を見合わせた快速電車の乗客48人に、賞味期限切れの缶詰パンを配ったと発表した。
 仙台支社によると、賞味期限は今年3月末だったが、体調を崩したとの連絡はない。大雨の影響で、快速電車が奥新川駅に13日午前から長時間停車する見込みになったため、車内で缶詰パンを配布。乗客からの問い合わせで、期限切れが分かった。
 
 食品の賞味期限については,法の定めがある.
 ここでは法の条文ではなくWikipedia【賞味期限】から,説明に必要な関連個所を下に示す.
 
日本において賞味期限は、食品表示法第4条第1項の規定に基づく内閣府令である食品表示基準第2条第1項第8号において、「定められた方法により保存した場合において、期待される全ての品質の保持が十分に可能であると認められる期限を示す年月日をいう。ただし、当該期限を超えた場合であっても、これらの品質が保持されていることがあるものとする。 」と定義されている。食品である以上、求められる衛生面での安全性や、味・風味などの機能が維持される期限である。
 
そもそも賞味期限とは、05年に統一された食品衛生法に基づくものが、2015年に食品表示基準に基づくものになったものであるが、賞味期限の決定は各食品企業に任せられているのが現状で、一般的には次の3つの検査を行った上で決められている。
・菌の繁殖などを調べる微生物検査。
・濁りや粘り、色や酸化などを調べる理化学検査。
・実際に食べてみた食感や味、臭いなどを評価する官能検査。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
 微生物検査,理化学検査,官能検査はいずれも,賞味期限の著しく長い食品の場合には実施が難しくなる.
 食品の保存条件を高温にすることで劣化を早める「促進試験」という手法があるが,現実的な保存条件 (例えば「常温暗所」など) で実施された場合の結果とは同じでないことが多々あり,やむを得ず,実際に長期間の保存試験を行って決定することが多い.
 ただし,品質の劣化が極めて少ないものとして加工食品品質表示基準 別表3に掲げる食品 (でん粉,チューインガム,冷菓,砂糖,アイスクリーム類,食塩,うまみ調味料,ある種の飲料水および清涼飲料水,氷) は表示を省略することができる.これは「表示を省略することができる」のであって,製造者が賞味期限の設定を免除されているわけではない.仮に品質劣化が発生すれば,製造者が責任を問われることはもちろんである.
 さて上記「別表3」の品目は,ある意味で楽なのである.問題は,賞味期限が非常に長いのに,「別表3」に記載されていない食品である.
 長期間の検査を続けても,一向に明確な品質劣化が認められない食品があるのだ.
 ある種の缶詰がそれで,いったいいつまで保存試験を続ければいいのかが不明なのだ.
 そのような食品はどうしたらいいかというと,普通は三年間の保存試験を実施し,三年後に品質劣化がないことを確認して,それで試験を終了してしまうのである.
 なぜこのようにするかというと,普通の製缶会社は,通常の食品用缶の品質を三年間保証しているからである.
 しかし実は,缶の品質は非常に長く保持されるのだ.缶の品質保証期限が例えば三年に設定されているのは,それ以上の長期間の品質保持を保証 (これを担保するために製缶会社は,保証期間が過ぎるまで実際に缶の製造ロット毎のサンプルを保存している) しても,工場で缶を保存する倉庫のスペースが足りなくなるだけで,実際上の意味がないからである.いつまでも保存試験をやってられないから,缶のメーカーは品質保証期間を三年にしているのだ.
 ということは,缶詰の賞味期限は通常は三年であるが,実際には缶詰はもっと長期間にわたり品質が劣化しないのである.
 ウェブ上で,「食品用缶の品質保証期間は三年」ということをもって「缶は三年で劣化するので缶詰は賞味期限を三年としている」と間違った解説をしている評論家がいるのは嘆かわしい.
  
 ところで缶詰の中でも,特にほとんど無期限に賞味できるものがある.
 もしかすると諸兄の家庭では災害に備えて缶詰の乾パンを備蓄しているかも知れない.
 あれは,私は若い頃に買ったものがまだある.昔,買ってから十年経過したときに開缶して食べてみたことがあるが,なんの問題もなかった.
 パンの缶詰も備蓄食料である.パンの缶詰の製造者は賞味期限を三年としているが,これは既に述べたように食品用の缶の品質保証期限が三年だといいうことが根拠になっている.
 一例を挙げると,株式会社パン・アキモトは同社の公式サイトに次のように記載している.(下の画像は,この原稿を書いた時点のスクリーン・ショット)
 
20220717d
 
 ところが,同社は次のようにも述べている.
  
20220717b
 
(1) 日本の食品缶メーカーの保証は、概ね3年とされています。したがって、缶容器以上に長い保証をすることはできません。安全上、そしておいしく食べていただける期間として、37か月と設定させていただいております。
 
(2) 賞味期限の決定は、製品種類に応じて社内実験及び外部検査機関の検査を行い設定しています。
パンの缶詰として「風味を損なわないと認定した期間」に、安全係数を掛けて算出したものを賞味期限としています。その結果、素材の種類と製法により製造日より概ね37か月、13か月の賞味期限を記載しております。弊社では、製造品を検査した後、製品として出荷しています。
 
(1) では「缶容器以上に長い保証をすることはでき」ないので,賞味期限を「安全上、そしておいしく食べていただける期間として、37か月」に決めているという.
(2) では「社内実験及び外部検査機関の検査を行い」「『風味を損なわないと認定した期間』に、安全係数を掛けて算出」した結果,「概ね37か月、13か月の賞味期限」としているという.
 
 実は同社のパンの缶詰には,賞味期限37ヶ月品の他に,13ヶ月,6ヶ月の製品がある.しかるに上記の(2)では《その結果、素材の種類と製法により製造日より概ね37か月、13か月の賞味期限を記載しております》としている.6ヶ月品があることは秘密なのか?
 そして,さらに悪いことには,下に示すように,同社の製品には賞味期限5年の製品があるのだ.
 
20220717f
 
社内実験と外部検査機関の検査》によって賞味期限を最長37ヶ月としたのか,あるいは《缶容器以上に長い保証をすることはでき》ないから賞味期限を最長37ヶ月としたのか,どっちなんだ!と消費者は怒りたいところだ.
 しかも《日本の食品缶メーカーの保証は、概ね3年とされています。したがって、缶容器以上に長い保証をすることはできません》と言い切っておきながら,平然と《アキモトのパンの缶詰に賞味期限5年シリーズが登場しました!》と書いている.ということは,賞味期限5年シリーズに使用している缶は日本の製品ではないのだな? ほんとか? 本当に実験をやったのか?
 もうおわかりであろう.
 この会社は「消費者に対する食品の品質保証とは何か」について何も考えていないのである.口から出まかせの商品説明を,公式サイトに書き殴っているのだ.その結果,商品説明ページは嘘と矛盾撞着だらけになっている.
 なぜこんなことが起きるのか.周知のように日本の食品企業はほとんどが中小企業であるが,中小企業には出荷検査を行う品質検査員はいても,賞味期限の設定等の品質保証業務を行い,これを消費者に訴求する仕事を行う専任担当者のいない会社が大部分である.
 上に例示したパンの缶詰の製造者も,公式サイトの記載のデタラメぶりを見る限り,その例に漏れないと思われる.つまり法に定められた正しい方法で賞味期限が決められたか疑わしい.従って,製品に表示された賞味期限は信用できないというべきである.
 
 YAHOO!ニュース《大雨で停車、乗客に缶詰パン「賞味期限切れ」配布を毎回報じるメディアはいったい何を伝えたいのか》[掲載日 2022年7月15日 6:32] に井出留美さんが,本件 (JR東日本仙台支社が,電車の乗客48人に賞味期限切れの缶詰パンを配った件) について評論している.
 
以前は賞味期限の過ぎた備蓄食品を全部廃棄していた府省庁は、現在、賞味期限の過ぎた缶詰も含めて、廃棄せずに食料支援などに活用し始めている。
 農林水産省は、国の災害用備蓄食品の提供ポータルサイトを立ち上げた。
 もちろん、提供するにあたっては安全性を確認した上ではあるが、国が、賞味期限切れの缶詰を廃棄せず積極的に活用しているのだ。メディアは、これこそ声を大にして伝えるべきではないのか。
 
 上に引用した井出さんの主張は正論である.ただしそれは,食品製造者が,正しく賞味期限を設定しているということが前提になっている.
 井出さん自身が書いているように,賞味期限の切れた食品を活用するにあたっては《提供するにあたっては安全性を確認した上で》が不可欠だが,中小企業の製品に関しては,それが実はあやしい.製品に表示された賞味期限が信用できないことがある.そのことを指摘しないのは井出さんの主張の瑕疵である.
 
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ウクライナに自由と光あれ
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(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)


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