ESSEonline《60代夫婦2人で小さく暮らす。お金をかけなくても満たされる秘訣は》[掲載日 2022年7月27日 20:00] に信じがたいことが書かれていた.同記事の冒頭に次のようにある.
《現在64歳、夫婦2人の小さな暮らしのコツをYouTubeで発信する、pokkomaさん。60歳で体調を崩し退職、年金生活へ。このタイミングでコンパクトなマンションに住み替え、お金の使い方を見直し。お金をかけずに日々楽しみながら暮らししているpokkomaさんの暮らしのアイデアをご紹介します。》
こじんまりと慎ましく暮らしているというpokkomaさん (妻) の家計 (ただし支出のみ) を見てみよう.
ちなみに,pokkomaさんは“pokkoma life”という老後ライフの動画ブログ (vlog) を配信しているYouTuberである.(そのサンプル動画)

これを見ると,驚くべきことに月平均支出が32,0000円もある.
ここで比較のために,総務省統計局が公表しているる家計調査年報から2020年の平均データ (総世帯及び単身世帯の家計収支) を抜き出してみる.わかりやすいように,pokkomaさんと同じ夫婦二人の年金生活者世帯だとする.ESSEの記事によれば仕事はリタイアしたという話なので,とりあえずここでは収入は給与はなく,年金 (ただし厚生年金) だけであるとする.
データを以下に示す通り,一般家庭では毎月36,000程の赤字である.
しかし,これは各費目の平均値の合計であるから,個々人の家計の実態とは異なる.実際には通信費の格安プランとか色々と切り詰めてトントンの生活に収めていると思われる.無い袖は振れぬからである.
【65歳以上の夫婦のみの世帯】
[収入]
厚生年金 219,976
[消費支出]
食料 65,804
住居 14,518
光熱・水道 19,845
家具・家事用品 10,258
被服及び履物 4,699
保健医療 16,057
交通・通信 26,795
教養娯楽 19,658
その他の消費支出 46,753
[非消費支出]
税 12,589
社会保険料 18,551
[支出合計] 255,555 (△35,574)
まず,記事によればpokkomaさんは,負債を完済するために現役時代に住んでいたマンションを売却し,コンパクトな現在のマンションに住み替えたはず (当然,ローンはない) だが,なぜか住居費が48,661円もかかっている.
首都圏のマンションでは,月額管理費と修繕積立金合計は約22,000円である.
家計に限らず収支の記帳の常識からすると,固定資産税は住居費とは別費目 (非消費支出) なので,pokkomaさんの住居費である48,661円は月額管理費と修繕積立金の合計であるが,首都圏の相場よりも高い.
ということは,現在の住居は「コンパクトなマンション」と書いているので,pokkomaさんは,広くはないがかなりの高級マンションにお住まいであるということになる.
次に目につくのは,食費が一般的な支出金額よりも非常に高額だということである.しかし「食費にはお金をかける」とのことなので,高齢者世帯の食費月額平均値は66,000円ではあるが,pokkoma氏の96,857円はまぁあり得る金額である.高級食材を多用すれば,このくらいにはなるだろう.
だが不可解なのは医療費12,605円である.住居費に固定資産税が含まれないのと同様に,国民健康保険料は非消費支出なので,医療費に含めてはいけない.従ってこの12,605円は窓口で払う自己負担金を示す.金額としては妥当なところであるが,それじゃあ国民健康保険料は支出リストのどこに記載されているのだという疑問が湧く.
このようにpokkoma氏の家計リストには,税 (所得税,住民税,固定資産税,自動車税) と社会保険料 (国民健康保険料,介護保険料) が記載されていない.
実は,会社員が仕事をリタイアして年金生活を始めて驚くのは,非消費支出,つまり税と社会保険の負担がバカにならない金額だということである.
以前,生命保険文化センターが高齢者を対象にして「余裕ある老後を送るために欲しい資金」をアンケート調査したことがある.
この調査の結果では「余裕ある老後を送るために欲しい資金」は361,000円だった.
これは高齢者たちの「希望金額」だったのであり,実際の家計収支とは異なるのであるが,政府 (2019年金融庁の金融審議会報告) がこれを鵜呑みにして,年金だけでは老後の生活費資金が不足する (二千万円も!) と宣伝して資産運用を国民に要請したために,「公的年金制度は破綻した」と大騒ぎになった.
この時の「余裕ある老後を送るために欲しい資金」はいくらかというと,ちょうどpokkomaさんの家計支出リストに税と社会保険料をプラスした金額にピッタリ一致する.ということは,慎ましい暮らしのように記事の読者に誤解させるために,税と社会保険料を記載しなかったともいえる.
つまり,ESSEは《60代夫婦2人で小さく暮らす。お金をかけなくても満たされる秘訣》とか ほざいて 書いているが,pokkomaさんは《小さく暮ら》してなんかいない.資金は資産運用益か個人年金か知らぬが,充分にお金をかけている.実際に動画を観ると,おしゃれで豊かな暮らしをしておられる.すなわちESSEの記事は羊頭狗肉である.
ESSEのこの記事は現代日本の高齢者層の貧富格差を示している.pokkomanさん夫婦の半分の食費で生活し,爪に火を点すように暮らしている一般の高齢者がpokkomaさんの配信動画を視聴したら,どんな思いがするだろうか.
いや私はESSEを批判しているのであって,pokkomanさんを非難しているのではない.
上に例としてあげた動画を観ると,書架には,女性の憧れの的であるあのベニシアさんの著書がさりげなく並んでいたり,食器棚には海外旅行の時に買い求めたと思しい素敵な皿がある.
使いやすくてきれいなキッチンで,ピカピカの新しい鍋でポトフを作るpokkomaさんの豊かな老後の暮らしが私は 妬ましい うらやましいのだ.ほんとである.ほんとだってば.
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ウクライナに自由と光あれ
(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)
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