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2022年5月 8日 (日)

貧乏国のくせに戦争する身の程知らず

 一般の日本国民は,兵器に関する知識を持っていないのが普通だ.
 戦車と自走砲の違いを答えられる人はごく少ないだろう.
 しかしこのプーチンの戦争で,私たちは,戦争がいかに多額の費用を破壊に費やすものかということを知った.
 この戦争に米国が既に投下した戦費について,読売新聞オンライン《ウクライナへの多額支援急いだ米、支援用に確保した予算「ほぼ尽きた」》[掲載日 2022年5月7日 12:21] から下に引用する.
 
米政府は6日、ウクライナに対し、1億5000万ドル(約195億円)の追加軍事支援を行うと発表した。大砲の一種である 榴弾りゅうだん 砲の砲弾2万5000発などを供与し、ロシア軍が集中的に攻撃するウクライナ東部での戦闘を支援する狙いだ。多額の支援を急いで行ったため、ウクライナ支援用に確保した予算がほぼ尽きたとし、武器供与を続けるため、議会に追加予算を認めることも求めた。
 米政府はこれまで榴弾砲90門と砲弾18万発超の供与を表明。今回は砲弾に加え、対砲兵レーダー3台と電子妨害装置などを供与する。2月の露軍侵攻後、米政府の支援は計約38億ドルとなった。バイデン大統領は声明で「ウクライナが次の戦局で成功を収めるため、武器・弾薬の供給を絶え間なく続けるという決意を示す必要がある」と強調した。
 米政府は3月15日に成立した2022会計年度(21年10月~22年9月)予算で、35億ドルをウクライナへの武器供与枠として確保していた。4月に330億ドル(うち軍事支援は200億ドル)の追加を議会に要請しており、バイデン氏は追加予算計上を改めて求めた。
 
 米国は,二月のロシアの侵攻後に,2022会計年度に合計38億ドル (35億ドル費消済),さらにこの四月に追加で200億ドルを追加し,合計238億ドル,日本円で3兆円超.これは東京都の令和三年度一般会計規模の四割に相当する.この巨額を兵器弾薬に費やすのである.
 消耗する弾薬・ミサイルを除くと,実際には旧ソ連が第二次大戦時に製造した古い戦車等が旧ソ連圏のNATO加盟国に残っており,各国がこの旧式兵器をウクライナに供給する代わりに,米国の最新兵器がNATO加盟国に供給されるという.(ソ連製旧式兵器は,ウクライナ軍は訓練なしに扱えるからむしろ好都合なのだという)
 従ってNATO全体としてみれば,米国の予算計上は兵器の更新投資という側面があることになり,単純に損金化するわけではない.(といっても私は戦費の会計処理法を知らないで言ってるので,間違っているかも知れない)
 
 それとはともかく,米国だけでこの額だ.先月に開催された西側諸国の会議で,ウクライナへの軍事支援が強化されることになり,防衛的装備品の供給をしていたフランスが155mm榴弾砲を搭載した自走砲と砲弾を供給することに方針転換した.またこれまでウクライナに武器購入資金は提供するが直接に武器を供給はしないとしていたドイツが対空戦車の供給に踏み切った.(毎日新聞《ドイツ、ウクライナに対空戦車50両供与 西側諸国と足並みそろえ》[掲載日 2022年4月28日 03:00])
 さらにはスロバキアとオランダが榴弾砲を供給するという.イタリアとスウェーデンも自走榴弾砲を供給する他,米国,オーストラリア,カナダの三国はこれまでに牽引式榴弾砲を多数ウクライナに引き渡し済みだ.(資料;乗りものニュース《続々集まるNATO規格「155mm砲」でウクライナどう戦う? 対ロシア第二ラウンドへ》[掲載日 2022年5月4日 06:22])
 西側諸国の中にもハンガリーのように親ロシアの国はあるのでそれは除くとして,上記のように大略は欧州vsロシアの総力戦の様相となってきた.インドは元々武器輸入国であるし,中国もウクライナに近いロシアの地域にまで兵器を供給するのは困難だ.ロシアは独りで戦争することを強いられている.
 西側諸国は,この長期戦を維持し続ければ必ずロシアの弱体化に成功する.
 戦えば武器弾薬は損耗・消耗する.従って長期戦となれば,そもそも貧乏国であるロシアが勝てるはずがないのである.
 下の表を見るまでもなく,韓国以下の国力しかないロシアが侵略戦争をできるわけがなかった.
 
【2021年最新の世界各国GDP】
IMF (国際通貨基金) が発表した世界各国のGDPに基づくランキング.
順位  国名      単位(百万US$)
 1位  米国       22,675,271
 2位  中国       16,642,318
 3位  日本       5,378,136
 4位  ドイツ      4,319,286
 5位  イギリス     3,124,650
 6位  インド      3,049,704
 7位  フランス     2,938,271
 8位  イタリア     2,106,287
 9位  カナダ      1,883,487
10位  韓国       1,806,707
11位  ロシア      1,710,734
12位  オーストラリア  1,617,543
13位  ブラジル     1,491,772
14位  スペイン     1,461,552
15位  メキシコ     1,192,480

GDPランキングの上位国が世界のGDPに占める割合.
順位  国名    世界のGDPに占める割合
 1位  米国       24.1 %
 2位  中国       17.7 %
 3位  日本        5.7 %
 4位  ドイツ       4.6 %
 5位  イギリス      3.3 %
 6位  インド       3.2 %
 7位  フランス      3.1 %
 8位  イタリア      2.2 %
 9位  カナダ       2.0 %
10位  韓国        1.9 %
 
 日本と西側諸国のメディアが伝えているように,通常兵器による地上戦ならばロシアは必敗である.
 戦争開始前にはロシアは軍事大国のイメージを保っていた.しかし実際に戦争してみたら,機甲部隊主力のT-72戦車 (1970年代の旧式戦車) は著しく脆弱で,まるでオモチャのようであった.ウクライナ兵の手持ち型対戦車砲に被弾すると砲塔が吹き飛ぶ様子が「ビックリ箱」と揶揄される始末である.(CNN日本《まるで「ビックリ箱」、ウクライナで戦うロシア軍の戦車が抱える設計上の欠陥とは》[掲載日 2022年4月29日 20:30])
 このように兵器の近代化に遅れたロシアは,既にウクライナ東部では守勢に回っている.(防衛省防衛研究所・高橋杉雄氏@テレ朝news《戦勝記念日を目前にロシア“守りの戦略”……》)
 となればプーチンに残された選択肢は戦術核兵器の実戦投入ということになる.
 だがそれは,ウクライナ穀倉地帯を放射能汚染することになる.
 
 プーチンの戦争動機の一つはロシア領内の化石燃料資源に陰りが見えてきたことだという.
 講談社現代ビジネス《プーチンは「焦ってる」…ロシアで起きている「3重苦」の危ない正体》[掲載日 2022年2月8日] から下に引用する.
 
筆者は「ロシア経済は危機に瀕しつつあり、欧米諸国から追加制裁を科されることを非常に恐れている」と考えている。
 天然ガスが話題になることが多いが、ロシア経済の屋台骨は原油である。ロシアの石油産業は同国のGDPの15%、輸出の40%、連邦財政の歳入の30%を占めている。
(中略)……
 だが、いまそんなロシアの命運を握る石油産業に異変が生じつつある。
ロシアの昨年12月の原油生産量は日量1090万バレルで前月と同水準だった。
 OPECとロシアなどの大産油国で構成されるOPECプラスは毎月日量40万バレルの増産を計画しているが、ロシアは自国に課された生産量の目標に4万バレル届かなかった。
 ロシアの昨年の原油生産量は前年比25万バレル増の日量1052万バレルだったが、ソ連崩壊後で最高となった2019年の水準(日量1125万バレル)に達していない。
(中略)……
 ロシアの原油埋蔵量自体が減少していることが明らかになりつつあるからだ。
 ロシアを石油大国の地位に押し上げたのは、西シベリアのチュメニ州を中心とする油田地帯だった。巨大油田が集中し、生産コストが低かったが、半世紀以上にわたり大規模な開発が続けられた結果、西シベリア地域の原油生産はすでにピークを過ぎ、減産段階に入っている(過去10年で約10%減少)。
 ロシアが原油生産量を維持するためには東シベリアや北極圏などで新たな油田を開発しなければならないが、2014年のロシアによるクリミア併合に端を発する欧米諸国の経済制裁の影響で技術・資金両面から制約を受け、期待通りの開発が進んでいない。
ロシア政府が2020年に策定した「2035年までのエネルギー戦略」では「2035年時点の原油生産量は良くても現状維持、悪ければ現在より約12%減少する」と予測している。その後ロシア政府高官が相次いで「自国産原油の寿命は20年に満たない可能性がある」とする悲観的な見方を示している。
 
 つまりプーチンは,原油に代わる資源が欲しかったのだ.もちろんプーチン自身が生きているうちに原油が枯渇するわけではないが,そういう国家的課題をほったらかして能天気に巨大なヨットで遊んだり,糟糠の妻を離縁して金メダリストの愛人にポコポコと子供を産ませたりしていると,国軍の離反を招くだろう.その事態に備えて,プーチンは35万人を越える親衛隊を創設した.国軍と親衛隊が共同謀議しない限りはクーデターの可能性はない.これで独裁者の地位は安泰だ.
 それはよしとして,ウクライナ国土の穀倉地帯に戦術核兵器を使用 (ジリ貧の戦況を一気に押し戻すため) したとすれば,今後長期間にわたってウクライナでは小麦もヒマワリも作付け不能となる.しかも占領したウクライナ東部には軍を駐留させ続けなければならない.
 この占領コストはじりじりとロシア経済を窮乏化させる.
 だとすれば,ロシアには戦術核兵器を使用するメリットはないことになる.
 かといって既に占領しているウクライナ東部から撤退するわけにはいかない.これまでに費やした戦費と損耗した兵器が無駄になるからだ.
 しかしウクライナ東部の占領を続ければ,西側諸国から絶え間なく兵器を供給されるウクライナ軍と闘い続けなければならない.
 そうなるといずれはロシアのT-72戦車も火砲も損耗して底を尽く.逆にウクライナ軍の兵器は次第に最新型に強化されていく.
 それもこれも,ロシアが身の程知らずに,トータルすれば国力がロシアより一桁上回る西側陣営に対して戦争を仕掛けたからである.
 先月の末 (4/26) に米国オースティン国防長官は「ロシアが,ウクライナ侵攻のようなことをできない程度に弱体化することを望む」と述べたが,それは充分に達成可能な目標だと世界は受け止めた.戦場でロシア国軍がウクライナ軍と対等に戦えたとすれば,ロシアの戦費が先に枯渇するからである.
 ロシアには核兵器使用という選択肢があるが,しかしそれを実行するとそもそも戦争の目標の一つ (ウクライナから資源を収奪する) が達成不可能になる.
 ロシア経済は進むも窮乏化,退くも窮乏化する.経済的戦果の見込めない侵略戦争の継続にプーチンはきっと耐えられないだろう.
 これを見ると,かつて極東の貧しい国家にすぎなかった日本が,身の程をわきまえずに太平洋戦争に突き進んだ歴史を想起せざるを得ない.
 これから戦況がどのように進行するか.BBC News《【寄稿】 「プーチン氏の前にはもはや種々の敗北しかない」 英の国防専門教授》[掲載日 2022年5月9日 09:39] から下に一部を引用する.これはこのプーチンの戦争について,妥当な見解を示したものだ.
 
いずれにしても、ロシアはウクライナで戦い続けなくてはならない。住民と敵対しながら、あるいはウクライナ軍と敵対しながら。その両方と同時に敵対しながら、という可能性もある。そして、ロシア軍が撤退しなければ譲歩の検討などあり得ないという現在の姿勢をウクライナ政府が取り続けるならば、プーチンはかたくなに突き進むしか、ほかにできることはあまりない。
 西側諸国は今後も、ウクライナ政府に武器と資金を提供し続けるし、強力な対ロ制裁をそうそうすぐに解除することもない。ロシア産エネルギーへの欧州の依存度がいずれ大幅に下がれば、欧州が本当に欲しいものをロシアはほとんど持っていない。そしてアメリカも欧州も、自国経済への打撃は小さく抑えたまま、ロシアを苦しめる厳しい制裁はそのまま残すことができる。
 
 これまでのところ米国は,核戦争を回避しながら巧妙にロシアとの闘いを進めてきた.
 注意すべきは,破れかぶれのプーチンが核兵器と化学兵器を使うことだが,日本の軍事専門家は次のように述べている.
 BS-TBS《ロシアが“敗ける日”これだけの理由『報道1930』5月2日放送》から下に一部を引用する.
 
この点、プーチン大統領による核の使用を食い止めることは出来ると、高橋氏は言う。
 防衛研究所防衛政策研究室 高橋室長
 「核兵器の使用は最高指導者の決断にかかっていますから、その段階での人格、能力、責任力、すべてが問われて決める話になります。逆に言えばそれを防ぐ方法はあって、ロシアが恐れていることはNATOの介入、アメリカの介入ですから、核兵器や化学兵器が使われることになれば確実にアメリカが介入するだろうとロシアが信じれば、その使用を防ぐことが出来る。そのための努力をアメリカは今すべてやる、そうすれば未来は変えられるんです。それがアメリカに今必要なことです」
 
 これも妥当な見解だと考える.
 
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ウクライナに自由と光あれ
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(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)


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