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2022年5月12日 (木)

じゃがいもの安全性

 PRESIDENT Online《「これを選べば間違いない」経営コンサルタントが成城石井で買う"3種の商品"と経営学的理由》[掲載日 2022年5月11日 10:15] に,経営コンサルの鈴木貴博氏が成城石井について書いている.下に一部を引用する.
 
さてお買い得な商品を見分ける第二の視点は、成城石井の差異化戦略として成城石井オリジナル商品に注目することです。特に買うべきは惣菜とスイーツです。これは何度もメディアで取り上げられているので有名な話ですが、ほとんどのスーパーのポテトサラダはジャガイモの皮を機械でむくのですが、成城石井のポテトサラダはジャガイモを手でむきます。こだわりの理由が「じゃがいもの一番おいしい部分は皮のすぐ下の部分だから」というもので、言われてみればその通りです》(引用文中の文字の着色強調は当ブログ筆者が行った)
 
 鈴木貴博氏は,あまりトンデモなことは書かない人であると私は思っているが,上のじゃがいもに関する文言は如何なものか.
じゃがいもの一番おいしい部分は皮のすぐ下の部分》と書いているが,それは食品科学的に確かめられた根拠があることなのか.
 昔から例えば「リンゴは皮のすぐ下がおいしい → だから皮を剥かずに食べよう」という類の「生活の知恵」が都市伝説的に語られ続けてきた.
 確かにリンゴの場合は果皮に近い部分の糖度がわずかに高いので,甘けりゃおいしいという幼児的な舌の持ち主たちが,そのようにブログで主張しているのが散見される.しかし糖度の高さがおいしさなら,厚く皮を剥いて皮の部分だけ食えばいいじゃないかと私は思うが,そういう食い方を推奨している奴は,ネット上を私が調べた限りにおいて,一人もいない.
 また「おいしい」の他に変奏曲として「栄養価が高い」というのもあり,「牛蒡は皮のすぐ下の栄養価が高い」などがある.
 では,牛蒡の栄養価とは何を指しているのか.説明できるやつはいない.なぜなら牛蒡には色々な栄養成分が含まれているからだ.
 私見だが,この種の「皮のすぐ下」問題は,明治時代の陸軍軍医であり,「栄養」を科学ではなく思想として主張した石塚左玄に行きつく.
 石塚は「一物全体」という思想を掲げて,食材の皮を剥かずに使用することを説いた.「皮のすぐ下」がおいしい,あるいは栄養がある,はその実践スローガンである.
 リンゴの場合は,皮を剥かずに食べても剥いて食べても,個人の信念なので別に構わぬが,糖度という尺度のない食材にまで話を拡げる者がいるのは困ったものだ.
 さて成城石井は《じゃがいもの一番おいしい部分は皮のすぐ下の部分》だと言っている (成城石井を取材した最近のテレビ番組でナレーターがそう言ったのは私も聞いた) わけだが,そこで問題になるのは「じゃがいものおいしさとは何か」ということである.
 当然のことだが,じゃがいもは生食する食材ではない.料理して食べる.
 つまり「じゃがいものおいしさ」は「じゃがいも料理のおいしさ」なのである.
 だから,「じゃがいもの一番おいしい部分」なんてものは存在しないのだ.
 じゃがいもの皮を,薄皮一枚を剥ぐようにして (新じゃがは,そのように皮を取り除くことができることは,料理をする諸兄は既に御案内のとおりである) 除いたとしても,料理がへたなら,不味いじゃがいも料理となる.
 包丁で厚く皮を剥いて「皮のすぐ下」を取り除いても,おいしく料理すれば,おいしいじゃがいも料理ができあがる.
 要するに,食材の知識を持たず,おまけに実際に料理したことのない者は,成城石井に《じゃがいもの一番おいしい部分は皮のすぐ下の部分》なんてことを言われると,簡単に《言われてみればその通りです》と納得して騙されてしまう.
 消費者は「手作り感」に弱い.成城石井はこれまでに何度もポテトサラダ製造ラインをテレビ番組に公開し,じゃがいもの皮を手で向いている作業を消費者に見せてきた.そして有名タレントたちに「成城石井のポテトサラダはすごくおいしい」と食レポさせて大評判を勝ち取ってきた.なかなか宣伝巧者だなあと私は思っている.(しかしあからさまに言うと,自分でポテトサラダを作れる者には,成城石井のポテサラはそんなにおいしいとは思えない.普通の工場製惣菜の味だ)
 で,このように見てくると,鈴木貴博氏の本業であるマーケティング評論に疑問符がつく.鈴木さん,吉野家あたりの戦略にも簡単に騙されているんじゃないですか?
 
 ところで,じゃがいもがこれほど世界中に普及したのは,じゃがいもの安全な調理方法を昔の人々が確立してくれたからである.
 じゃがいもには,店頭で市販されているものでも,皮部に約50mg,可食部に100gあたり約1.5mgのソラニンが含まれている.
 このソラニンが有毒であることは常識なのに,それでも我が国では毎年,中毒事故が発生している.件数で一または二件,人数にすると十人から三十人ほどが発症している.
 さすがに,芽が盛大に伸びたじゃがいもをそのまま調理して食べる人はいないと思うが,小さな芽をうっかり取り残したり,茶色い皮の「すぐ下」が緑色に変化 (この状態はソラニンが蓄積していることを示している) しているのに,気づかないで調理すると危険だ.じゃがいものソラニンは,買ってきて保存しているうちに増えるのである.
 皮のすぐ下が緑色になって毒化したのに気づかず「じゃがいもは皮のすぐ下がおいしいのだよ」とか言って,皮付きでカットしたものをフライドポテトにして食べる 阿呆 人はそこら中にいる気がする.
じゃがいもの一番おいしい部分は皮のすぐ下の部分》には科学的根拠がない.有害な都市伝説のようなものだ.じゃがいもは,芽だけに毒があるのではない.むしろ皮部に多く含まれていると言っていいからである.
 農水省も公式サイトに《皮に緑色の部分があったら、皮を厚めにむき、緑色の部分のまわりもしっかり皮をむきましょう。できるだけジャガイモは皮をむいて食べましょう。未熟で小さいジャガイモをたくさん食べないようにしましょう。特に、皮ごと食べないようにしましょう》と書いて注意を喚起している.
 成城石井がどう言おうと,じゃがいもは丁寧に芽取りと皮剥きをして調理しよう.
 
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ウクライナに自由と光あれ
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(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)


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