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2022年5月 2日 (月)

野口悠紀雄先生の解説に疑問

 現代ビジネス《なぜこんなに弱いのか、ロシア軍の正体を給与面から解剖する 徴兵の最低給与、月1780円では》[掲載日 2022年5月1日 06:00] を読んで疑問に思ったことがある.この雑誌記事の筆者は一橋大学名誉教授の野口悠紀雄先生だ.
 下に疑問のある個所を引用する.
 
ロシア軍はなぜ弱いのか?
 軍事費が大きな経済負担になっている
 ロシアの軍事費は、世界第4位だ。しかし、GDPに対する軍事費の比率を見ると、図表1のとおり、ロシアでは他国に比べて、圧倒的に高い(2020年。世界銀行のデータによる)。ロシアは4.3%。イスラエルとヨルダンを除けば世界1位 。異常な高さだ。
 
 上の引用箇所の次に「GDPに占める軍事費の比率」グラフが載っている.(作成者は野口悠紀雄,著作権者は「現代ビジネス」)
 このグラフから概数を読み取ると,ロシア (4.3%),ウクライナ (4.1%),米国 (3.7%) なっている.
 このグラフを見た読者は「ロシアとウクライナの[軍事費/GDP]は似ているな」と思うに違いない.
 野口先生は,これに続く文章で「ロシア経済は,大きすぎる軍事費を支えきれていない」それがロシア軍が弱い理由であると論を進めている・
 しかしウクライナも事情はロシアに似ている.[軍事費/GDP]は高すぎるのである.ロシア軍が弱いなら小国のウクライナ軍はもっと弱いは
ずだが,野口先生は,グラフにウクライナの値を描いておきながら,ウクライナのことに触れようとしない.おかしいではないか.
 米国と西側諸国が防衛兵器を強力に供給開始したのは,ロシアが圧倒的な戦車群による侵攻を開始してから少し経ってからである.しかし戦力的に著しくロシアに劣るウクライナ軍は,数日で首都陥落するに違いないという軍事ジャーナリストたちの予想に反して持ちこたえたのである.このタイムラグの後に,米国が怒涛のように兵器をつぎ込み始めたのであった.
 そこで軍事評論の専門家たちは,なせ圧倒的と思われたロシア軍が意外に弱いのかを分析し始めた.
 日本の軍事評論家たちの現在のコンセンサスは「おそらくウクライナは,クリミアをロシアにあっさりと奪われたあと,NATO諸国を手本にして,あるいは指導を受けて,軍の改革と戦術の近代化に取り組んだ.これが首都防衛に成功した理由である」というものだ.
 ロシア軍の戦争遂行能力については,野口先生のように「兵の待遇の悪さによる士気の低さ」だけでは説明できないと思われる.
 ロシア軍の能力については,元自衛隊幹部だった評論家が既にいくつかの解析を書いている.それらはデータも豊富だ.
 野口先生のようにたった一つのグラフだけで,プーチンの戦争を評論するのは無理があると思われる.
 私たち一般人でもわかるのは,一国の戦争遂行能力を推定するにはたくさんのデータが必要だろうということだ.
 例えば,野口先生のようにペラペラのグラフ一枚ではなく,マクロには《グローバルノート - 国際統計・国別統計専門サイト》を参照しつつ,兵制,組織論,兵器の質と量,戦術の多岐にわたって論じてもらわねば困る.
 プーチンの戦争の現状について一言言いたいのはわかるが,それは経済学者の手に余ることだと思われる.
 
大きすぎる軍隊を経済が支えられない。
 では、ロシア軍が給与を引上げて、兵の士気を高めたら良いのだろうか? しかし、給与を引上げようにも、上げようがない。なぜなら、軍隊の規模が大きすぎるからだ。
 ロシア軍の人員101万人がロシアの労働人口6964万人に占める比率は、1.5%だ。日本では、労働人口6814万人のうち、自衛官の現員22.7万人は、0.3%に過ぎない。
 
 この引用箇所もそうだ.
ロシア軍の人員101万人》と野口先生は書かれているが,これはどこから引っ張り出したデータなのか.
 ロシア軍 (ロシア連邦軍) の定員は100万人であるとされているが,徴兵制度が崩壊して志願制度が主となり,2019年現在の実人員は90万人であるとされている.その差10万人は誤差では済まされない.
 しかもこの正規軍の他に,大統領直属の親衛隊が公称34万人存在する.これだけの規模であると,無視して論じるのは不可能だ.
 このように,野口先生の論は粗雑に過ぎる.かつて先生の書かれるものを拝読した者としては,このような文章を書いて頂きたくないと思うのである.
 
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ウクライナに自由と光あれ
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(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)


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