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2021年12月10日 (金)

なめこのぴり辛佃煮風

 もう三十年も前のことになる.
 私は思い立って東北の夏祭りを見物にでかけた.重要無形民俗文化財に指定されて間もない青森ねぶた祭りを一度は見てみたいと思ったし,竿灯も他の地方には類のないものだ.
 親しみやすいのは仙台の七夕で,これは外せない.
 ねぶた祭り,竿灯祭り,七夕祭りを東北三大祭りといい,この三つに山形の花笠祭りを加えると東北四大祭りで,さらに盛岡のさんさ踊りを一緒にして東北五大祭りという.ただし,五大祭りは,さんさ踊りではなく郡山うねめ祭りだとすることもある.
 それだけではおさまらず,大震災のあと暫くは東北六魂祭というイベントも開催された.これはまあ夏祭りではなく,今はもう終了した震災復興企画だったが.
 
 さて東北の夏祭り.まず向かったのは青森である.ねぶた祭りのハイライトは夜だから,前日に奥入瀬の小さなホテルに宿を取り,周辺を観光してから青森に行った.
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 青森ねぶたは今でも記憶に残っているが,月並みな言葉でいいなら「感動」した.
 翌日は十和田湖に立ち寄ってから盛岡に宿を取った.
 その翌日の夜は秋田に移動して竿灯を見物し,それから仙台へと向かうあっちに行ったりこっちに来たりの旅行であった.
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 この昔話を持ち出したのは,盛岡の旅館で食べた夕食が,今でも忘れられないくらいのおいしさだったからである.
 その夕食はいかにも日本旅館のそれで,メインは牛肉と野菜山菜の鍋だった.
 野菜は牛蒡がたっぷり入っていて,その牛蒡の土の香りが素晴らしく,私はそれ以後これを超える牛蒡を口にしたことがない.
 うちの近所のスーパーで売っている牛蒡は,ただのごりごりした根っこに過ぎないと思う.
 日本旅館式夕飯の定番である天ぷらと刺身は,まあそれなりとして,小鉢にたっぷり盛り付けて膳に供された「なめこの佃煮」のうまさに私は驚いた.
 えのき茸の佃煮は瓶詰めでお馴染みだが,なめこの佃煮は生まれて初めて食べたのである.
 この佃煮は唐辛子で辛みを付けてあって,飯の上に載せ,口中にかき込んだ熱い飯は,三十年後の今も覚えているくらいうまかった.
 
 それ以来,何度か「なめこの佃煮」を再現しようと試みたことがあった.
 しかしうまく行った試しがない.
 佃煮というのは,少量の煮汁で煮詰めるのだが,なめこはムチンという粘質物質を含んでいて,煮汁が少ないと激しく泡立って吹きこぼれるからである.
 それなら煮汁を増やせばいいかというと,吹きこぼれないくらいに煮汁を多くしてとろ火で煮ることにすれば,やってできなくはないが,いかにも不経済な料理方法なので,こんなことを盛岡の旅館の厨房でやっているはずがないと思ったのである.つまり却下.
 
 そしてある日,日課のようにして観ているテレビ朝日《上沼恵美子の おしゃべりクッキング》で,日本の家庭料理担当をしている辻調の先生が,なめこの料理を実演した.そのとき先生は「なめこは,袋に入って売られてますが,これは必ず洗ってください」と言った.
 注釈すると,市販のなめこには二種類の包装形態がある.菌床から収穫されたあと軸をカットせずに石突きが付いているままトレーに入れて包装したもの (株なめこ,株採りなめこ) と,軸を切って水洗いしてからポリ袋に真空パックされているなめこの二種類である.なめこは傷みやすいので昔は真空パックされているものだけだったが,近年は資材の改良や流通過程の改善により株なめこが普及している.
 話を元に戻す.
 料理番組で「なめこは必ず洗って使う」というのを聞いた時に,もしかしたら,しつこく水洗いをすれば佃煮にすることができるのではないかと思いついたのである.
 早速やってみた.百グラム入りのなめこ真空パックを三個,大きめのボウルにいれ,両手で優しく揉み洗いする.
 洗ったあとの汚れた水を捨て,また水洗いする.これを六回繰り返したら,水の色は薄くなりヌメリも大分減った.
 次に洗ったなめこを鍋に入れる.
 調味にはキッコーマン製めんつゆの四倍濃縮品を使った.通常の煮物には四倍に希釈して使用するのであるが,今回は二倍希釈で使用する.
 鍋のなめこに,ひたひたよりも少し多い量の希釈めんつゆを加え,ティースプーンに一杯の輪切り鷹の爪を入れて加熱する.
 とろ火でコトコトと煮ると,今回は吹きこぼれずに済んだ.思い付きは成功したのである.
 めんつゆはメーカーにより味が随分と異なるから,いつも自分が調味に使用するお気に入りのめんつゆ (出汁醤油) を使えばいいと思う.
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 できあがった「なめこのピリ辛佃煮風」は,炊きたての熱い飯に載せて,納豆のようにして食う.
 材料のなめこは何度も水洗いをしたが,なめこ独特の風味はなくならず,米の飯のお供としてとてもうまいものができた.
 しかし普通の佃煮のようには日持ちはしないと思われるので,ニ,三日で食べてしまうのがよい.
 その際,冷蔵庫に保存するとヌメリが固まるが,箸で簡単にほぐせる.
 米の飯のお供には,市販のおいしいものがたくさんあるが,かように自分で作るのもよいと思う.

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