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2021年12月22日 (水)

ひび・あかぎれの治療

 私は若い頃,といっても定年前の現役会社員だった六十五歳頃まで,手指の皮膚はハダカデバネズミの肌のように柔らかであった.
 それがこの五,六年ほど,手指の先の方がガサガサと乾燥 (老人性乾皮症というらしい) して角質化が進んでいる.
 乾燥はニベアで保湿すれば抑えられるが,問題は「ひび」である.
 コロナ禍のせいで外食をしなくなり,台所で炊事と皿洗いをすることが増えたためだろうと思うが,気が付くと手指に「ひび」ができている.
 これが痛い.
 なんとかならぬかと色々と検討したところ,池田模範堂製の「ひび・あかぎれ」治療薬「ヒビケア軟膏」(第3類医薬品) に卓効があることがわかった.
 
 池田模範堂といえば,ムヒである.
 大正三年,富山の池田嘉吉は配置薬販売業「池田模範堂」の初代社長として事業を開始した.
 大正十五年に缶入りワセリン軟膏のムヒを発売し,昭和二年にはこれをチューブ入りとし,昭和六年には白いクリーム状のムヒを発売して,これが大ヒットした.
 昭和三十年代,傷薬の赤チン,腹下しに効く正露丸 (征露丸),鎮痛薬のケロリン,痒み止めのムヒが,家庭常備薬の四天王であったと言われている.
 誰が言っているかというと私だ.
 
 ちなみに,赤チン (マーキュロクロム液) は大正時代から家庭常備薬として普及しており,主に大阪道修町の製薬業者が商った.昭和になって赤チンの製造元の倒産等が続き,令和元年 (2019年) に日本薬局方から削除されたが,以後も製造を続けていた三栄製薬も昨年末に製造を終了した.
 正露丸は,日露戦争開戦二年前の明治三十五年 (1902年) に大阪市の中島佐一が,日本薬局方木クレオソートを主原料とする「忠勇征露丸」の製造販売を開始したのが始まりである.周知のように,征露丸はロシアを征服する薬という意味だ.
 大幸薬品 (大阪府吹田市) の創業者である柴田音治郎が「忠勇征露丸」の製造販売権を中島佐一から継承し,昭和二十九年 (1954年) に「正露丸」の商標登録を行った.しかし大幸薬品は他社が「正露丸」の名称を侵害使用することを放置し続けたため,「正露丸」は同類医薬品の一般名称と見做されるに至り,昭和四十六年に商標権を失った.(資料;《大幸薬品「正露丸」パッケージ訴訟の考察》)
 ケロリンは,アスピリンに桂皮を配合したもので,鎮痛の他に解熱,抗炎症効果もある.大正十四年に富山市の笹山林蔵と順蔵の父子が開発販売した.学生時代に銭湯通いをした団塊世代の爺婆にとって,ケロリン桶は懐かしのアイテムだ.
 この他に,昭和の懐かし家庭常備薬は,オロナイン軟膏 (徳島県鳴門市の大塚武三郎が昭和二十八年に発売した皮膚用抗菌軟膏),メンソレータム (大正九年に近江兄弟社の前身会社が米国から輸入販売を開始),龍角散 (文政年間に創成された秋田藩の藩薬に起源を持つ喘息薬),浅田飴 (東京神田の堀内伊太郎が明治二十二年に発売した沈痰沈咳飴),今治水 (大阪心斎橋の森平兵衛が設立した丹平商会が明治三十一年に発売した歯痛薬) がある.
 ついでに書くと,団塊の爺婆は日本テレビ系列放送の『頓馬天狗』(1959年9月5日~1960年12月24日) を記憶しているだろう.これは大塚製薬の一社提供番組で,この当時の大塚製薬のCМには浪花千栄子が起用され,「浪花千栄子でございます」と語り始めてオロナイン軟膏の薬効を説明したあと「痔にもな,効きまっせ」と〆た.この「痔にもな」は現代の流行語のように世間に知られたフレーズとなった.
 もっとついでに書くと,戦後の仮名遣いでは,痔は「じ」と書くのが普通 (「はなぢ (鼻血)」「みぢか (身近)」「まぢか (間近)」など連濁の場合は「ぢ」とする) であったが,不思議膏で知られるヒサヤ大黒堂 (愛知県西尾市で創業) は敢えて「痔」の振り仮名を歴史的仮名遣いの「ぢ」で通した.不思議膏は家庭常備薬ではないが,ヒサヤ大黒堂が「ぢ」と書いたインパクトは大で,今でも痔は「ぢ」と仮名を振ることがほとんどである.
 痔を患っていないの人々のあいだでもヒサヤ大黒堂の知名度は高い.かつてヒサヤ大黒堂は香港支店があり,香港のビクトリア・ハーバー (香港島サイド) のビルに「ぢ」と記されたネオン看板を出していた (三十年ほど前に撤収) のはよく知られている.
 香港は,沢木耕太郎『深夜特急』の旅の出発点であったことから,私を含めて今の団塊高齢者には香港旅行のリピーターが多く,不思議膏を知らない人でもヒサヤ大黒堂の名を知っているのは,このネオン広告によるところが大きい.
 ちなみに,が長すぎるので話を元に戻す.
 
 池田模範堂のヒビケア軟膏 (第3類医薬品) は,「ひび・あかぎれ」によく効くという話だった.
 さて一口に「ひび・あかぎれ」というが,「ひび」と「あかぎれ」はどう違うのか勉強してみた.
 ロート製薬の公式サイトにある《ひび・あかぎれの原因・仕組みを解説》によると次の通りである.
 
「ひび」とは、いわゆる亀裂のこと。表皮の深い部分、あるいは真皮に達する細くて深い線状の切れ目を指します。一方の「あかぎれ」は、ひびが進行して出血を伴ったり、ひびのある部分が炎症して赤身を帯びたりしたものをいいます。つまり、あかぎれはひびが悪化した状態と考えていいでしょう。あかぎれになると、見た目も痛々しく、痛みを感じたり水がしみたりして、日常生活に支障をきたすことが多くなります。
 
 この解説に従えば,私の手指に生じる皮膚疾患は「ひび」であり,「あかぎれ」には進行していない.よかったよかった.
 次に,アマゾンに出品されている「ひび・あかぎれ」治療薬は次の通りである.成分名はアマゾンの商品説明からコピーした.成分含有量は省略した.
 
〔メーカー名と成分〕
[1] 株式会社池田模範堂 ヒビケア軟膏a (第3類医薬品)
成分:アラントイン,パンテノール(プロビタミンB5),トコフェロール酢酸エステル,グリセリン,ジフェンヒドラミン

[2] ロート製薬株式会社 メンソレータム ヒビプロα (第3類医薬品)
成分:ビタミンA油,ビタミンE誘導体,アラントイン,グリチルレチン酸,イソプロピルメチルフェノール,ジフェンヒドラミン

[3] 興和株式会社 ケラチナミンコーワ ヒビエイド (第3類医薬品)
成分:アラントイン,パンテノール,ビタミンE誘導体,グリチルレチン酸,グリセリン

[4] 三友薬品株式会社 ラクケストひび・あかぎれW PB (第3類医薬品)
成分:酢酸トコフェロール,アラントイン,パンテノール,グリセリン,グリチルレチン酸二カリウム,イソプロピルメチルフェノール
 
〔註記〕
上の表では,同じ成分化合物でもメーカーによって異なった名を表記しているが,統一せずそのままとした.
(a) トコフェロール酢酸エステル=ビタミンE誘導体=酢酸トコフェロール トコフェロールはビタミンEの一つで,血行を促進する.
(b) メンソレータム ヒビプロα の成分であるビタミンA油は,日本薬局方記載の医薬品である.
(c) 上記の成分表において文字の色を変えて強調したアラントインが,割れた皮膚の修復効果を有する成分で,これが主要成分である.パンテノールも肌の修復作用を示す.パンテノールは酸化されてパントテン酸になる.
(d) 上記の成分表にあるグリチルレチン酸は甘草の抽出成分で,抗炎症作用,抗アレルギー作用を有する.そのナトリウム塩は甘味料として使用され,化粧品や医薬品にはカリウム塩 (グリチルレチン酸二カリウム塩) やアンモニウム塩が用いられる.
(e) 「ひび・あかぎれ」は痒みを伴うことがあり,ジフェンヒドラミンは痒みを抑える作用がある.
(f) イソプロピルメチルフェノールは殺菌剤. グリセリンは保湿剤である.
 
 配合成分の効果効能を勉強し,自分の症状にどれが適しているか各製品について検討したところ,興和のヒビエイドはアラントインの配合量が特殊 (他社製品よりも非常に大量配合) であったので,対象から外した.
 ロート製薬のメンソレータム ヒビプロα はビタミンA油とビタミンE誘導体 (酢酸トコフェロール) の効果を期待する配合のように思われたし,それに目薬会社であるというイメージが強すぎるので,今回は使わないことにした.おい
 三友製薬のラクケストひび・あかぎれW PBは,聞いたこともない会社だったので使用を控えた.おい.
 そういうわけで,池田模範堂のヒビケアa を私の「ひび・あかぎれ」治療に採用した.なにしろ,ヒビをケアするからヒビケアというネーミングがよい.頭痛がケロリと治るからケロリンだというのに似た 安易な わかりやすい名称の好感度が高い.
 それに,ヒビケアヒビケア,ヒビケアーと繰り返して唱えてみたら,ビューティビューティービューティペアーという歌を思い出した.北斗晶vs神取忍の死闘 (1993年4月2日) が平成の名勝負なら,ジャッキー佐藤とマキ上田の伝説の引退試合 (1979年2月27日) は昭和の花ともいうべき試合で (以下略)
 
 治療の手順は,まずパックリと割れた「ひび」に,マッチ棒の頭ほどのヒビケア軟膏をチョンと付ける.塗り拡げてはいけない.
 次にその上から「あかぎれ保護バン™スポット用」を貼る.これで万全.
 この「あかぎれ保護バン™スポット用」が実に優れモノで,発売時のメーカーのニュース・リリースに次のようにある.
 
荒れた肌をしっかり保護・保湿する「あかぎれ保護バン」シリーズ
「あかぎれ保護バン™スポット用」新発売
 ~小さい部位にピンポイントで貼れる~
 弊社ユーザー調査で、あかぎれが複数できる人が多いこと、部位に合わせて保護テープを切って使う人が多いことがわかりました。そこで本製品は、様々な部位や大きさでもピンポイントで貼れるよう、15mm×22mmと小さいサイズにしました。あかぎれの出来やすい「爪横」にも簡単に貼ることができます》(文字の着色は当ブログの筆者が行った)
 
 この製品は,一般的な傷保護テープとは異なり,薄いテープだけで,パッドがない.しかも割れた傷の上にチョンと貼るだけでよい.そのため,どんな箇所の皮膚が割れても完全に密着保護できるのだ.《あかぎれの出来やすい「爪横」にも簡単に貼ることができます》とニュース・リリースに書かれている通りである.巻きつけるタイプのテープでは,爪の横や指の股にできた「ひび」に密着して貼ることは不可能だ.
 防水性の高い透明フィルムの傷保護テープも試してみたが,ものの役に立たなかった.
 私たちは一日に何度も台所で水仕事をするから,巻きつけるタイプの防水フィルムが耐久性があってよいと思いがちだが,それは違う.
 水仕事を終えたら,スポット保護バンを剥がして,微量のヒビケア軟膏を傷にチョンと付け,その上にスポット用バンを貼り直すのが清潔である.高い透明フィルムを貼ったままにせず,安いスポット保護バンをどんどん貼り直して,傷を清潔に保つこと,これが大事.
 で,ヒビケア軟膏とスポット保護バンで傷をケアすると,あら不思議.ものの数時間で痛みを感じなくなる.そして翌日には傷を押しても痛まず,傷口の再生が始まっていることがわかる.こんなによく効く薬は珍しい.
 一つの傷の治療に使うヒビケアの量は微量である.私はチューブ入りを一本買ったのだが,これは死ぬまでにとても使いきれぬ.棺桶に入れてもらおうと思っている.死後は「あかぎれ」地獄に堕ちるかも知れぬからである.
「ひび」の治療は以上であるが,傷口が深く大きく割れてしまうひとは,池田模範堂のヒビケアよりも興和のヒビエイドがよいかも知れない.こっちはアラントインの配合がかなり多い処方だからである.

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