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2021年11月24日 (水)

麦飯を炊いてみた

 少し前に,宮崎県のスーパーマーケットが販売して話題になった弁当「昭和初期」(税込み二百十五円) を複製して,次の記事にしてみた.
* 昭和期の弁当を拵えてみる (2021年10月29日掲載)
* サイテーなたくあん (2021年11月2日掲載)
 
「昭和初期」のおかずはメザシと昆布の佃煮,梅干し,タクアンである.
 佃煮と梅干しは昔懐かしい作り方のものが市販されているのだが,伝統的な製法のタクアンは,そこら辺の店舗では市販されていないことが調べてみてわかった.つまりタクアンも昭和初期という時代にこだわるとすれば,安くはないが通販で取り寄せるか,あるいは自分で作るしかない.
 それ故おそらく,最低価格帯の弁当である宮崎県のスーパーの弁当「昭和初期」に入れてあるタクアンは,伝統的製法のタクアンではないと思われる.
 
 実は宮崎のスーパーが販売した弁当「昭和初期」には,タクアンの他に,もう一つ実際の昭和初期の弁当と異なっている点がある.
 それはおかずではなく,飯である.
 日中戦争は昭和十二年に始まった.日米開戦は昭和十六年である.昭和初期とは,日本が戦争に向かって突き進んで行く時代であった.
 この時代にあって,大日本帝国陸軍が編纂・発行・改定した兵食調理法が『軍隊調理法』である.(Wikipedia【軍隊調理法】)
 これは書籍として出版され,現在は国立国会図書館のデジタルコレクション『軍隊調理法』に収められているので,全内容を知るのは容易であるし,戦後にこれを下敷きにして書かれた書籍がいくつか出版され,それらは古書として入手できる.
 これを見ると,基本主食は米麦飯である.米麦の配合は,胚芽米二百グラムに対して精麦を六十二グラムとしている.
 明治・大正・昭和にかけて日本は,人口増大に食糧生産力が追い付かず,米不足に陥っていた.ジャポニカ米を生産できる朝鮮と台湾を支配下に置いて収穫した米を収奪したが,それでも足りなかった.専門家の研究によって,日本の中国大陸侵略の動機の一つは深刻な食糧不足だったことが明らかとなっている.
 
 国民に飯を食わせるための侵略戦争をするためには,その前にまず兵に飯を満足に食わせねばならぬ.しかし,軍隊の兵食は一般国民の食事よりも優遇されていたというが,『軍隊調理法』によれば,それでも胚芽米に精麦を二割五分混ぜていた.
 昭和初期に遡って一般日本国民の主食事情を調査した研究は見当たらないが,兵食から推定すると,おそらく精麦の割合は四割から三割にかけてであろう.
 従って,昭和初期の弁当を現代に再現しようとするなら主食は米麦飯であらねばならない.しかしスーパーの弁当「昭和初期」は当然ながら趣味ではなく商品なのだから,麦飯ではなく飯は白飯にするのが妥当である.
 
 さて,私の子供時代は戦後の昭和中期であるが,小学校の頃の我が家の主食は,政府配給米六と押麦四の麦飯であった.これは,大麦が安いからではなく,毎年収穫される米の絶対量がまだ不足しており,国民一人当たりの米配給量が充分でなかったためである.
 それが,日本の経済成長と共にどんどん麦の割合が減っていき,高校生の時に学校に持っていく昼飯の弁当には,白飯を詰めるようになった.この頃,日本の農業は米生産力が格段に増加し,日本史上初めて,全国民が米を食えるようになった.米の配給制度は歴史的役割を終え,米は自由に売買されるようになったのである.
 
 私は中学の頃まで麦飯を食っていたのは覚えているが,その後,大学に進学してから自分で炊飯したのは白飯である.つまり私は麦飯の炊き方を知らない.
 昭和初期の弁当を再現するには麦飯を炊かねばならないが,炊き方の参考になる情報はないかと検索してみたら,株式会社はくばくの公式サイトに至れり尽くせりの資料《おいしい大麦研究所》が掲載されていた.
 このコンテンツの中の《麦ごはんの炊き方/おすすめ配合量》には「飽きずにおいしく食べるなら 1.5割麦ごはん」「もっと効果を期待するなら 3割麦ごはん」「食物繊維をたっぷりとるなら 5割麦ごはん」というレシピ例が載っているし,自由な米麦の割合で炊くときの水加減を計算できる《麦ごはんの炊き方/お好みの割合で麦ごはんをつくる》もあるという充実ぶり.これはすばらしい.
 試しに,レシピ例に従って三割麦飯を炊いてみた.米は福島県産「福、笑い」の令和三年産新米,精麦は「オーサワの押麦 (五分搗き)」を用いた.
 結果,ややもすると昔の押麦には少し匂いがあったと記憶しているが,今回の三割麦飯はなかなかおいしい.押麦の品質がよいのだろう.これなら毎日食べてもいいように思う.
 おかずは昆布の佃煮,梅干し,葉唐辛子の佃煮,塩鮭など,なんでもおいしく食べられる.カレーライスやハヤシライスにもしてみたが,これもいい.次は三割麦飯の炒飯を作ってみようと思う.

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