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2021年10月16日 (土)

茶葉

 先日再放送されたテレビ朝日《科捜研の女19 第13話「お茶の達人」》の話から始める.
 第13話の冒頭,事件の現場に到着した科捜研所員たちは,殺害された被害者の着衣に茶葉が付着しているのを発見した.
 事件の検討会議で所員の宇佐美裕也は「お茶の専門家は茶葉と書いて『ちゃよう』と読みます」と発言したのだが,所長の日野和正が「悪いけど『ちゃば』でお願い」と遮り,仕方なく宇佐美は「ああ,わかりました」と答えて,これ以後止むを得ず茶葉を「ちゃば」と発音することにした.
 
 言葉の誤読,誤用は,無教養な者が始める.
 しかるに「言葉は変化するものだ」と強弁して,自分の無知無教養を正さぬ日本人のなんと多いことか.(森田美由紀さん風)
 なるほど日本語は,意味も発音も変化が激しい.そのせいか,発音が間違っていても日本人の間では通じてしまうので,言語としてタチが悪い.
 これに対して英語は発音がかなり厳格で,英語ネイティブ・スピーカーの発音と少しでも異なると,全く理解してもらえぬばかりか,場合によってはトラブルになることもある.
 以下は,私と私の知人が,ユナイテッドだったかアメリカンだったか忘れたが,米国航空会社のハワイ行に搭乗した時の話.
 食事の時間になり,CAさんがワゴンを押しながら通路を進んできて「ビーフにしますか,それともチキン?」と希望を訊ねた.
 そこで知人は「ビーフ」と答えたのだが,CAさんはにっこり微笑んで,彼にビールをサーブしてくれた.彼が何いってんのかわからないが,「ビ」は聞き取れたのだろう.
 食事をもらえないと思った彼が慌てて「ノーノー,ビーフ,ビーフっ!」と言うと,困惑したCAさんはコップにコーラを注いで彼に渡した.
 彼が怒りつつ「コーラちがう!ビーフ,ビーフっ!」と声を荒らげると,CAさんは悲しそうな顔で彼にスープをくれた.
 これは実話である.私は彼の隣のシートにいた.
 
 かつて食品会社の研究員であった私は,昭和五十年代の初めに,茶の成分研究で有名な静岡大学農学部の故伊奈和夫先生の研究室に三年間の国内留学をしていた.
 研究テーマは香気成分の機器分析であった.
 当時,茶の生産から流通販売に至る業界,および茶の研究者と技術者は「茶葉」を「ちゃよう」と発音していたし,《科捜研の女》で宇佐美裕也が述べたように今でも専門家は「ちゃよう」と言うが,現在は一般に「ちゃば」という誤読が圧倒的に優勢になっている.
 今は高齢者となった食品研究者として情けない思いがする.
 日本語の誤読は,誰が最初に言い出したか不明なことも多いが,茶葉を「ちゃば」と読む誤りはサントリーが始めた.
 サントリーは,ウーロン茶のテレビCМで「ちゃば」を毎日連呼し,それがために国民は茶葉を「ちゃば」と読むようになってしまったのである.
 それがいつのことだったかも明確で,私が国内留学を終了した1981年のことだったのでよく記憶している.
 これについてはサントリーの「お客様センター」のQ&Aに以下のように書かれている.
 
Q 容器入りのお茶はいつから発売されましたか?
A 容器入りのお茶は、サントリーでは、1981年から発売されました。
  ウーロン茶の190g缶を発売したのが最初です。

 
 リンク切れに備えて念のためにスクリーン・ショットも示しておく.
 
20211016a
 
 無知無教養な会社でもテレビ宣伝するカネさえあれば,日本語を変えてしまうことなんか容易なのだということの見本である.

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