屏風道士
夢枕獏『陰陽師 蛍火ノ巻』(文藝春秋刊,2014年11月) の巻末「あとがき」に作者は次のように書いている.
《晴明と博雅の物語を書き続けて、そろそろ三〇年近くになる。
いやいやなんとも、はるばると時が過ぎてしまったものだ。》
『蛍火ノ巻』刊行時には読者の方も,読み続けてそろそろ三十年近くになったわけで,はるばると,は同感である.
これほど長きにわたり書き続けられたせいか,登場人物の晴明も博雅も道満も歳をとらぬが,物語の醸し出す雰囲気は初期作品よりもしみじみとしたものになってきた.
この『蛍火ノ巻』に収められた「屏風道士」はその一つ.
この物語の中で,「長く生きるということは,それだけの老いという歳月が身体に降り積もっていくことだ」と,三百年以上も生きた道士が述懐する.
私は道士のように苦しい修行をしたわけではないが,それでも同じように五十年,六十年という歳月が,かつての少年の身に降り積もった.
お前は無駄に長生きしたと云われても返す言葉はないが,しかしもう少し,『陰陽師』の最終話を読むまでは生きていたいものだ.
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