苦学
テレビ朝日《科捜研の女 20 第8話》の再放送を観た.
テレビドラマというと,偉人伝(公共放送) 以外はラブコメと医療モノと刑事捜査ということになるが,そのジャンルの中でも,この第8話は秀作だ.
この題材なら,事件の犯人と,その人物と関わる登場人物たちの生い立ちを丁寧に描けば,二時間近い映画にすることが可能であろう.そして,もしかすると『砂の器』に匹敵する作品になる可能性だってあると思う.
私は,貧しい最下級公務員の長男として生まれた.
住環境は酷く,六畳間と三畳間と狭い台所しかない四軒長屋のうちの一軒に,父母と姉弟の五人家族が住んでいた.
もちろん勉強机はなかった.昭和の後半の話としては冗談のようだが,ミカン箱に紙を貼ったものを机の代わりにして私は勉強した.
そういう状況だったが,父は私に高校卒業したら就職しろとは言わず,大学進学を許してくれた.
それだけでなく,入学後の二年間は仕送りまでしてくれた.
しかしその父親の苦労をみていた姉と弟は進学せず,高卒で就職した.
私の大学生時代は昭和四十三年から四十七年であるが,当時の高校から大学への進学率は三割を超えた程度であったか.
そして大学生の何割かは苦学生だという,そういう時代だった.
あれから長い時が過ぎて,みんなが貧しかった昭和に比べれば日本は豊かになったし,大学進学率は五割を超えた.
「苦学生」は死語になったと私は思っていた.
しかしそれは思い違いだということを,コロナ禍で私たちは知った.
たくさんの学生たちが,コロナ禍の中でアルバイトの働き口を失い,大学で学ぶことを諦めなければいけないところまで追いつめられていることをメディアは報道したのである.
《科捜研の女 20 第8話》は,新型コロナウイルス感染症流行の第二波の中,昨年十二月に放送された.
追い詰められた大学生たちの状況を思わせる物語の進行にはリアリティがある.
秀作のドラマであると思う.
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