« お気楽団体職員 | トップページ | 新規感染者数がピークアウトして減少するのは自然現象である (二) »

2021年9月12日 (日)

新規感染者数がピークアウトして減少するのは自然現象である (一)

 麻生財務相は閣議後記者会見 (9/7) で,政府の新型コロナウイルスへの対応について「曲がりなりにも収束して国際社会の中での評価は極めて高いと思う」と述べた.
 これが世間の認識と大いにずれているとして批判を浴びた.
 そこで失言を三日後に訂正したのだが,これがまた頓珍漢だったので,失笑ものであった.
 時事通信《「コロナ収束」発言を修正 麻生副総理兼財務相》[掲載日 2021年9月10日 14:42] から下に引用する.
 
麻生太郎副総理兼財務相は10日の閣議後記者会見で、「新型コロナウイルス問題が曲がりなりにも収束した」とした自身の発言について、「完全に収束したというのではなく、傾向を申し上げた」と修正した。その上で、「コロナ対策は引き続き、気を緩めないでやっていかないといけない」と強調した。
 最近の新規感染者数の動向に関しては、「確実に減少してきているので、収束しつつあるのではないか」と述べた。
 
 そもそも新型コロナウイルス感染症は,毎日発生する新規感染者数を棒グラフにすると,本質的にピークを描くものなのである.
 これは季節性インフルエンザでも同じである.
 例えば国内の感染者数の推移は,毎日テレビで報道されているので周知のことであるが,第一波から始まって現在は第五波がピークアウトした局面である.
 下にNHKの特設サイト「新型コロナウイルス」から《第1波~第5波 感染者数グラフ (全期間を1画面表示)》を引用する.
20210912a
 上図の,昨年十二月から二月にかけての第三波は形が崩れているが,第四波,第五波は整った山の形を示している.
 ここで第三波の形は不明瞭だが,ピークが一月だったと仮定すると,各波の発生は周期的であることが容易に理解される.
 そして重要なことは,各波がピークアウトしても,谷間の感染者数は次第に増加していることである.
 第一波から第四波まで,一見すると二項分布で近似できるように見えるが,ピークアウト後の裾がガウス分布のように指数関数的に減少せず,いわゆる「裾の重い分布」「ロングテール」と呼ばれる形になっている.このロングテールは,新規感染者が大きく減少しても少数の無症状感染者が残存していることを示しており,これを引き金として次の感染流行が起きたと解釈される.
 つまり,今後の感染状況を予想すると,十月に迎える第五波の裾の感染者数が,七月の谷間の感染者数よりも多いと,第六波は第五波よりも高い山になるはずだ.
 逆に,国民が行動自粛に飽きてしまった現在では望み薄だが,十月の感染者数が七月よりも少なく推移すれば,第六波は第五波よりも小さい山になる.
 
 上図は見慣れたものだが,多くの人は「どうして感染者数の推移は,周期的な山型のグラフになるのだろう」と疑問に思うだろう.
 その理由は,実は高校数学で理解できる数学的モデルで説明できる.
 といっても現役の高校生ではない社会人にも理解できる易しい解説はないかと探したら,《高校数学で理解する感染症の数理 (2021年1月4日版)》を見つけた.筆者は愛媛大学理学部理学科数学・数理情報コース教授の松浦真也先生である.
 この概説の9ページに次のように書かれている.
 
このようにして,感染者数は i0 = 2, i1 = 3, i2 = 5, i3 = 9 と増えていき,感染症が流行していく様子が見てとれます.
しかし,感染者の数は永遠に増加し続けるわけではありません.未感染者の数には限りがあるため,ある時から,新規の感染者が減り始め,流行は収束へと向かいます.そして,ついには新規の感染者が現れなくなります.
 
 文字を着色した箇所が,新規感染者のグラフが山型を示す理由である.
 すなわち「未感染者の数が減少すると,新規感染者数も減少する」という簡単な理屈だ.
 これについて,簡単な条件設定下での計算結果のグラフが10ページに示されている.
 上の引用部分では《ついには新規の感染者が現れなくなります》としているが,新型コロナウイルス感染症の場合は,実際には感染者の中から,ウイルスを体内に保持し続ける無症状感染者 (スプレッダー) が一定数生じるため,感染流行時期が過ぎたあと,また新たに次の感染流行が始まるのである.
 
 冒頭に麻生大臣の発言《曲がりなりにも収束して》を紹介したが,これは麻生大臣が,新型コロナウイルス感染症について高校生でも理解できることを全く知らないことを示している.
 すなわち,政府がどんな「対策」を打とうが打つまいが,そんなことに無関係に,新型コロナウイルス感染症は時期が来ると新規感染者数は減少するのだ.そしてまた一定期間後に再び感染流行が始まる.
 新規感染者数がピークに達したあと減少するのは自然現象である.自然現象を国際社会が「高く評価」するはずがないのである.
曲がりなりにも収束して国際社会の中での評価は極めて高い》などと,いい歳をして馬鹿も休み休み言うがよい.
 
 私見では,新型コロナウイルス感染症が波状攻撃的に流行を繰り返す現象を理解しているのは,政府内では,感染症専門家と一緒に仕事をしている西村大臣と,田村厚労相の二人だけである.
 菅義偉首相も河野太郎大臣も,発言を聞いていると感染症に関して無知丸出しである.この二人は知的レベルがあまりにも低いために,専門家が何を進言しようが聞く耳を持たぬ (理解できぬ) ところが共通している.自分が気に入らぬ相手を恫喝する (*註) パワハラ体質も同じだ.尻ぬぐい役の加藤官房長官がかわいそうである.我が国の明日は暗い.
 
(*註)
 大暗愚宰相菅義偉が Go To トラベルを強行しようとした時,分科会の尾身会長が国会答弁で反対意見を述べた.すると菅は「尾身を黙らせろ」と西村大臣に命じた.(週刊文春12月24日号)

|

« お気楽団体職員 | トップページ | 新規感染者数がピークアウトして減少するのは自然現象である (二) »

新・雑事雑感」カテゴリの記事