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2021年7月16日 (金)

怒声マニア

 平成三十一年四月,東京の池袋で,旧通産省工業技術院の元院長,飯塚幸三被告の乗用車が暴走し,母子二人が死亡,九人が負傷した「池袋暴走事故」で自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた同被告の公判が東京地裁で開かれ,検察側は飯塚被告に対し禁錮七年を求刑した.
 私はTBSテレビ《ゴゴスマ》を観ていて,その途中で東京地裁前からの中継が入った.
 テレビ各局のクルーが待ち構える地裁前に飯塚被告の乗ったタクシーが到着し,右折して地裁構内に進み,テレビカメラが飯塚被告の姿をとらえたその時,誰やらわからぬが男の「恥を知れっ」という怒声が響いた.
 瞬間的に,私は大向こうからの「成田屋!」の掛け声を聞いたかのような錯覚を得た.
 図ったかのような絶好のタイミングであった.
 これはもちろん役者への賛辞ではなく,被告への怒声であるが,この男の声には怒りのリアリティがなかった.
 用意周到,今日この日まで練習を重ねてきた作り物の怒声であった.
 
 男の位置はTBSテレビのカメラの近くで,男の眼はレンズの先を見据えている.
 音声スタッフが持つマイクの位置も,タクシーが到着する前にしっかりと頭に入れてある.
 そうして,テレビカメラの前を飯塚被告が通り過ぎた時,男はマイクに向かって,全国の家庭の視聴者に明瞭に聞こえるように「恥を知れっ」と掛け声を発したのだと思われる.それほど見事なタイミングであった.
 
 男は,飯塚被告の公判に関心はなかったと思う.
 東京地裁で求刑が始まった頃には,男は帰宅して缶ビールを開け,次はどこの裁判所前で怒声を張り上げようかとプランを練ったのではないか.
 くらーい情念である.

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