枝豆
先日,藤沢駅の北口にあるダイエー藤沢店で,枝豆を買ってきた.
昔は枝豆といえば,主茎から枝を切り離し,一つ一つの莢 (サヤ) はその枝に付いた状態で売られていた.
しかしこの状態では,どう見ても物流費が高くつきそうだ.
たぶんそのせいで,現在は袋に包装されて販売されていることがほとんどである.包装されていれば生産者情報なども消費者に伝達できるわけで,これは好ましいことだ.
で,袋に包装されている枝豆にも二つのタイプがある.
枝の部分を完全に取り除いて完全に莢だけになっているものと,短く切った枝を残してこれに複数の莢が付いた状態のものの二種類である.
ダイエー藤沢店で購入した際は,袋の中身をあまりよく見ないでカゴに放り込んだのだが,帰宅後,塩茹でしようと枝豆を袋から出して私は驚いた.
袋の中の莢はすべて,豆の粒が一つしか入っていなかったのである.枝は完全に取り除いてあった.
生活常識として枝豆は,栽培品種 (数百品種あるという) にもよるだろうが,莢に二粒あるいは三粒が入っているのが多い.一粒莢の割合は少なく,四粒入っている莢は大変にレアであるという.
一莢に四粒入っていると,どうしても粒が小さくなってしまうから,これはだめだ.
また,一粒莢の枝豆は貧相で嫌われる.枝豆は,一粒一粒味わってみみっちく食べるというものではない.二粒三粒を口に口に一度に入れて食うのがよろしい.
従ってもし,一粒莢しか生じない特殊な品種の大豆が世に存在するのでなければ,「一粒莢だけが包装されて販売されている枝豆」には,収穫後に何らかの人為的操作が加わっているに違いない.
そこで試みに「枝豆 一粒だけ」で検索してみた.
すると《サヤに豆が1個しか入っていない枝豆はお得?》[掲載日 2015年11月11日] が見つかった.この記事に次のことが書かれている.
《いつもの食べ方なのに、今日は何かがおかしい。しばらく食べるのを止めて考えてみるとあることに気付いた。今日の枝豆はどれを見てもサヤに1粒しか豆が入っていないのです。一瞬、新しい品種なのか?と思いかけたけどやめました。素直に聞いてみることにしました。すると返ってきた答えは「安かったからかも?」でした。
収穫された枝豆は通常サヤの中に1~4個の豆が入ります。ではなぜ今回のような1個しか豆の入っていない枝豆が売られていたのか?
それは、農家の人が1個しか入っていないものを選別していたからなんです。枝豆は、サヤに入っている豆の個数によって価格が違ってきます。豆が2~3個のものは、見栄えがよく料理屋などでの需要があるため、高値で取引されます。そのため、豆が1個と4個のものを取り除くことがあります。取り除かれた1個入り4個入りの枝豆は、安く販売されたり農家の人が自家消費するようです。》
しかし残念ながら「豆が2~3個のものは料理屋での需要がある」とか「高値で取引される」「農家が選別している」ことの根拠となる資料が提示されていないので,説得力が全くない.なぜなら料理屋方面での需要があって高値で販売される枝豆の価格決定要因は,莢の中の粒数が幾つかではなく,ブランド (例えば山形県鶴岡市の「だだちゃ豆」) なのだと素人でも知っているからだ.
余談だが,ここで一つ役に立つ情報がある.「山形 味の農園」という農産物通販サイトである.
そこに《だだちゃ豆の本来の粒数、サヤに入るのは何粒か》という節があり,次の記述がある.おもしろい生活情報なので長めに引用させていただく.
《本来、だだちゃ豆ではサヤにつく豆の数は1粒:2-3割、2粒:4ー6割、3粒:2-3割あるとされています。この美味しい豆の粒の割合を種子の選抜によって2粒の割合を多くする改良を重ねているとも言えます。
特に産地鶴岡市のJA鶴岡では「だだちゃ豆専門部会」を組織し、伝来の形以外のたとえば1つ豆や4つ豆を取り除くなどして、決して収穫量を多くする目的ではなく、あくまでも食味にこだわった選別に徹しているということです。》
《実際、現場の感覚からすると「だだちゃ豆」の鞘に入る豆の数について生産者の伊藤稔さんにお聞きすると1粒が15%、2粒が70%、3粒が15%という割合になるといいます。
圧倒的に2粒の鞘がおおいのです。品種やその年の天候でも変わって来るし、あくまで数字で平均的な「だだちゃ豆」ということも前提条件になります。
以前、知ったかぶりをしたある専門家と名乗る方が、「だだちゃ豆は2粒だけだからそれ以外3粒の鞘があるのはニセモノだ」と言ったことでそれを聞いた消費者が「3粒が入っているからだだちゃ豆じゃない」とクレームが頻発したこともあったそうです。》
《1粒の場合は選別の段階で取り除かれますので、だだちゃ豆の全体のうち実質80%が2粒で、20%が3粒の鞘が混入することになります。時には間違って1粒、4粒が混じることもあるかもしれないという、これはあくまで人手で選別する以上可能性があるということですが、現場の努力に期待するところです。
高価なだだちゃ豆だけに高品質の生産技術と厳格な選別の基準の明確化が長く愛される特産品の使命と考えてのことになります。》
JA鶴岡市のブランド枝豆「だだちゃ豆」の生産者は,手作業による選別で一粒莢 (15%くらいある) と四粒莢 (これは少ない) を取り除き,可及的に二粒莢と三粒莢だけになるように品質管理をして,価格を維持している.
これがブランド価値を維持する努力であるわけだが,選別基準は「二粒莢と三粒莢は食味がよい」ということによる.
この「二粒莢と三粒莢は食味がよい」に私は同感である.確かに,一粒莢を指で押して豆をひとつ口に入れる感覚はみみっちくて情けない.枝豆らしくない.「二粒莢と三粒莢は食味がよい」はそういうことを言っているのだと私は思う.
既述の《サヤに豆が1個しか入っていない枝豆はお得?》の筆者氏は,この辺りを完全に誤解していることがわかる.
この人は,料理屋で使われるブランド品の「だだちゃ豆」と,自分の家族が買ってきた 安物 一般品の「青豆」とを混同している.この人が買ったのはブランド枝豆ではない.そもそも風味が違うから食えばわかるはず.
だから《取り除かれた1個入り4個入りの枝豆は、安く販売されたり農家の人が自家消費するようです》は大間違いのコンコンチキである.ブランド枝豆は「不良品である一粒莢」を絶対に出荷しない.そんなことをしたらブランドの自殺行為だからである.
では,この筆者氏や私が購入した「一粒莢だけを袋詰めした」枝豆は,いったい何か.
ブランド枝豆の「不良品」ではなく,一般品種の「規格外品」だと思われる.私が買ったのは,粒の色も風味も茶豆ではなかったからだ.
ここから先は私の想像であって確認はしていないのだが,冷凍食品の枝豆には一粒莢は入っていないような気がする.
もしかすると冷凍枝豆の原材料規格は,二粒莢と三粒莢に限られているのではなかろうか.
だとすると,規格外品である一粒莢だけを集めて包装販売されてもおかしくはない.
おかしくはないが,私は消費者として,安くもない規格外品 (本当に普通の価格だった) をダイエー藤沢店のバイヤーにつかまされたということは非常に気分がわるい.[追記3へ]
[追記1]
既述のサイト上に《以前、知ったかぶりをしたある専門家と名乗る方が、「だだちゃ豆は2粒だけだからそれ以外3粒の鞘があるのはニセモノだ」と言った》と書かれているのを引用したが,「だだちゃ豆は二粒莢だけで三粒莢はない」という嘘はネット上にも広まっていて,下の画像で赤い下線を引いてあるのがその嘘だ.これは生産者が言っていることと異なる.
[追記2]
枝豆を莢の中に粒がいくつあるかで選別するのは,人手でやると大変な作業だ.
そこでこんな農業機械がある.《サタケの枝豆選別機》
[追記3]
冷凍食品の枝豆を二袋,買ってきた.(7/17)
中身を調べてみたところ,一粒莢は一個も入っていなかった.これは明らかに人為的な選別が行われていることを示している.
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