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2021年6月27日 (日)

焼きネギ味噌 (一)

 豆腐を油で揚げた油揚げが,豆腐よりも日持ちしないのは,多孔質だからである.
 油で揚げると豆腐の内部から水が蒸気となって放出され,その水の抜け出したところが泡状の孔 (あな) となって残る.これを膨化といい,スポンジ状になる.
 実際の製法は全国豆腐連合会のサイトのコンテンツ《豆腐加工食品詳細》に紹介されている.
 多孔質になると,表面積が著しく増える.その結果,油揚げに含まれている揚げ油の酸化速度が非常に大きくなる.
 また表面積が大きいと細菌の繁殖も速くなる.
 圧搾脱水して薄くカットした豆腐 (油揚げの材料) を油で揚げている最中は,表面は高温になるが,豆腐の内部は沸騰水程度の温度であるため,耐熱性菌が残存してしまう.
 また,スーパー等の店頭で油揚げが置かれている場所はあまり温度が低くないので,菌の繁殖が進行している上に,照明光 (油脂の酸化を促進する) に晒されているので酸化も進んでいる.
 そのため午後遅くになると,消費期限の迫った油揚げが値引きされて販売されるのだが,その日の夜に食べるというのでなければ,これは避けた方がよい.
 このような少々劣化が始まった値引き品を買って,すぐ帰宅して食べる場合に一番よい調理方法は,煮ることである.
 まず油揚げに熱湯をかけて,いわゆる「油抜き」をしたあと,汁の具にしてもいいし,稲荷寿司のような味付けに煮て,飯のおかずにしたり,熱いうどんに載せて食べるのが私の好物だ.
 それはそうなのだが,値引き品の油揚げを焼いて食べるにはどうしたらいいか,諸兄は御存知か.
 
 藤沢駅北口のスーパー「サミットストア」の棚に値引き販売の「栃尾の油揚げ」(あぶらげ) があった.消費期限はあと二日.
 安かったので買ったが,この越後長岡名物の油揚げは米の飯のおかずにしにくい.
 レシピサイトを覗いてみても,この油揚げは焼いて酒の肴にするしかないと思われる.
 他人のレシピで多いのは,中に切り込みを入れて納豆やネギ味噌を詰め込むというやつ.
 しかし,栃尾揚げは普通の油揚げとは異なり,元々が袋状にはならないものだから,何のために中に納豆なんぞを詰めるのか,その理由がわからない.普通の油揚げを巾着にする料理方法に発想が引っ張られているだけだ.わざわざそんなことをせずに,焼いた栃尾揚げと,小鉢の納豆を一緒に口に入れて食べれば同じことだからである.
 納豆だけでなくネギ味噌も,栃尾揚げの中に詰め込む理由がない.面倒なだけである.
 だが私のやり方は違う.それを以下に紹介する.
 
 賞味期限が迫った栃尾揚げを,ポリ袋のパッケージに入ったまま,パッケージの一部をほんの少し開封し,電子レンジで数分加熱する.
 加熱時間の目安は,パッケージの中に水蒸気が満ちて外にシューッと出てくるまで.
 これを「達温100℃」といい,繁殖しつつあった耐熱性菌は死んでしまう.菌の一部は耐熱性の高い芽胞を作って生き延びるが,加熱後はすぐ食べてしまうので,問題なし.
 この加熱処理は色々と応用が広く,冷蔵庫に入れてある常備菜を一日に一度「達温100℃」処理することで,かなり日持ちをよくすることができる.ただし,ジャガイモのように煮崩れてしまうものが入っているおかずはだめ.しかし牛肉とタマネギだけでカレーを作り,これをポリプロピレンやガラス製の耐熱保存容器に入れ,毎日加熱して「達温100℃」を繰り返すせば,長期保存もできるし風味も増すので,電子レンジの活用方法として優れている.
 
 さて「達温100℃」にした栃尾揚げはすっかりフニャフニャになっているが,これをオーブントースターで焼く.
 そのトースター用のトレーに載せて,上面だけを焼く.そのままトースターに入れて上面下面を同時に焼くと,油が垂れてトースターの中を汚してしまうので,トレーがなければアルミホイルを皿代わりにするとよい.
 焼いている間に,ネギ味噌を作る.
 深谷ネギのような普通の太ネギをみじん切りにする.白いところだけでなく緑色がかった部分も使える.
 栃尾揚げ一枚に対して,ネギは白いところを一本分くらいかと思うが,使う量のことは深く考えず,ネギ味噌は御飯の菜になるのだし,ネギ一本をみじん切りにして目分量でたくさん作ってしまえばいい.
 使う味噌の量は,常備している味噌の種類によって変わるから,これは各自の好みだ.
 私は小鉢いっぱいのみじん切りネギに対して,味噌をカレースプーンに一杯くらい使う.味噌は少ないかと思えるくらいでちょうどいい.減塩タイプがおすすめ.
 次に,器に入れたネギと味噌に,水または湯を加えて軟らかく練る.
 ネギ味噌は,他人のレシピ通りに作らず,初めての人は試行錯誤で自分が旨いと思う作り方を覚えるとよい.
 
 ネギ味噌の準備ができてトースターを覗くと,フニャフニャだった栃尾揚げの表面がカリッとして,いかにも旨そうになっているだろう.
 そうしたら,上下をひっくり返して,下面も焼く.
 下面も焼けたら,その上にネギ味噌をたっぷり塗り,再びトースターに入れて焼く.
 やがてネギ味噌の焼けるいい匂いがしてくるから,そうしたら取り出して四つに切って皿に盛り付ける.
 
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 焼いたネギ味噌は,しみじみと旨いものだ.もうとうに亡くなった私の父親の好物で,私は小学生の時に,父にネギ味噌の作り方を教えてもらった.以来,六十年の間,私はネギ味噌を作っては食べてきた.
 私の父親は,越後の長岡から東へ山深くに入ったところにあった中蒲原郡村松町 (合併して現在は五泉市) の生まれ育ちで,隣の長岡の栃尾地域に旨い油揚げがあると小学生の私に語った.
 当時は,油揚げは日持ちしないので,栃尾揚げは長岡に行かないと食べることができなかったのだが,昭和の後半に食品のチルド流通が発達したおかげで,首都圏のスーパー店頭に置かれるようになった.そしてすぐに居酒屋の定番メニューにもなった.
 熱い炊きたての飯にネギ味噌を載せて食うのも旨いが,握り飯や油揚げに塗って焼くのは格別だ.栃尾揚げは,ネギ味噌を塗って焼くのが一番美味だと私は思う.
 
 ところで,越後長岡のローカルな食べ物だった栃尾揚げが世間の人に知られる前に,普通の油揚げとネギ味噌の取り合わせは,昔からあった.私は学生時代に自炊してよく食べたものだ.
(続く)

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