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2021年5月 7日 (金)

嘘吐きな八百屋

 料理写真共有アプリ「SnapDish」を運営するヴァズ株式会社は,同アプリの利用者を対象にした調査「野菜の摂り方」を実施した.
 その結果が《コロナ禍以降「野菜を摂る頻度が増えた」45%。野菜を摂れている層でも「さらに増やしたい」61%。健康嗜好で高まる野菜摂取ニーズ》である.
 同社がまとめたこの調査の主要な内容は以下の三点である.
 
【食品カテゴリ別の変化】
   コロナ禍以降、45%が「野菜を摂る頻度が増えた」と回答。
【野菜摂取状況】
   93%が「野菜」を「意識して取り入れている」一方で、42%は「野菜不足」を実感。
【野菜の摂取意向】
   野菜を摂っている層でも「さらに増やしたい」61%。健康嗜好で高まる野菜ニーズ。
 
 なぜ「野菜を摂る頻度が増えた」かというと,《在宅ワークの増加や外食自粛などの影響で家庭での食事機会が増えた》からだというのが同調査の分析である.
 ところが,野菜の家庭内消費が増えた一方で,下のような記事もある.
 まいどなニュース《「野菜捨てるしかない」八百屋の悲痛メッセージ 「愚痴みたいな投稿」に広がる共感》[掲載日 2021年5月3日 17:00]
 
「まんぼうの影響がひどいです」「経済が動かないと出荷された野菜は捨てるしか無いです」。新型コロナウイルス感染拡大に歯止めがかからない中、京都市内で90年以上続く八百屋が窮状を訴えている。まん延防止等重点措置や緊急事態宣言に伴い、飲食店に休業や短縮営業が要請されていることから、野菜の流通が滞り、廃棄せざるを得ない商品もあるという。現状を知ってほしいとツイッター上で発信を続ける八百屋に話を聞いた。
 
 ヴァズ株式会社による調査は,家庭で料理をする消費者からの情報である.
 引用した記事に出てくる八百屋は,一般消費者にも売るが,主に飲食店に販売している業者であると思われる.
 それは次の箇所からわかる.
 
「八百屋の状況を知ってもらえてうれしい。こうした現象は全国の八百屋で起こっているはずなので、近所の八百屋さんぜひ野菜を買ってもらえたらなと思います」と言葉に力を込めた。》(文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
 そもそも食品は,時代の変化につれて消費される品目と消費量が変化するが,短い期間では消費量があまり変動しない.常套句で言えば「胃袋の大きさはかわらない」ということだ.日本人の食生活におけるパンやパスタの比重が高まったために,必然的に米の消費量が減ったのがよい例である.
 野菜もほぼ同じ事情であるが,収穫後にあまり長く貯蔵ができないものが多い.
 そのため,播種時に予想したよりも収穫が多いと,「豊作貧乏」という現象が起こる.
 Wikipedia【豊作】は次のように説明している.
 
豊作が過ぎた場合は需要に対し供給過多となり、しばしば価格低下を起こす。この現象を豊作貧乏といい、自動車や鉄道での遠隔地への流通が容易になった近年は、豊作は生産者にとって必ずしも喜ばしいことではなくなっている。
 価格が下がりすぎると流通コストなどを含めると利益が確保できなくなるため、本来なら質の落ちる農作物を使用する加工用原料にまわしたり、流通させずに廃棄したりすることもある。もったいないという意見があるがこれにはいくつかの理由がある。一つは凶作対策で多めに農作物を生産する背景があり、もう一つは廃棄せずに販売すると農作物の価格が下落を続け結局、農家の首を絞めることにつながるからである。
 近年では、2005年にタマネギが豊作となった北海道北見地方において、生産調整のため廃棄を行った例がある。また、2006年は愛知県の渥美半島でキャベツ、大根、白菜が大豊作で出荷価格は半分以下にまで落ち込み、生産調整のため廃棄処分が行われた。また、全体的には2006年はほかにもタマネギやレタスも大豊作で全体での廃棄量は約2万2000トンになった。
 これらの廃棄処分は、主に農業協同組合が農林水産省に届出、緊急需給調整として受理されて行う。協力した大規模農家には交付金が支給される。半分は農家の積立金のとりくずし、半分は税金から補填される。
 
 気候等が通常の年であれば,野菜の多少の収穫量変動によって生じる出荷価格の変動を,生産者 (農家) は織り込み済みである.
 生産者にしてみれば,粗利の多かった年と少なかった年はあるとしても,それが極端でなく長期間の平均で安定した経営ができれば,収穫時の生産調整は行わなずに出荷する.
 この場合は出荷価格の多少の変動に応じて小売価格も小幅に変動する.
 ところが,野菜の収穫量が平年よりも大幅に多い場合,そのまま何も処置を講じないと上の引用にあるような小売価格の大きな低下が発生する.
 下落幅が大きくて出荷売上が生産者 (農家) の固定費を下回ってしまうと,売れば売るほど赤字が増えてしまう.
 そこで生産した野菜を出荷せずに廃棄し,見かけ上は平年の収穫量に相当するように生産調整を行う.
 では実際にそういう「豊作貧乏」があるのか.
 実は昨年末に冬物野菜の価格が大きく下がり,生産者は需給調整を行ったと報道された.
 しかし現在は,統計的に野菜の小売価格は持ち直しているので,生産者は特に生産調整をしてはいないと思われる.冒頭に示したヴァズ株式会社の調査結果にあるように,家庭での食事機会が増えて野菜の家庭内消費が増加したためであると言われている.
 ということは,現時点で日本の野菜市場は需給バランスがとれているはずだ.
 だとすると,《まいどなニュース》に登場する京都の八百屋の「まん延防止等重点措置や緊急事態宣言のために野菜の流通が滞り,野菜を廃棄せざるを得ない」という主張は腑に落ちない.
 結論を先に言えば,この八百屋で野菜が売れなくて,廃棄せざるを得ないというのは嘘である.
 この八百屋は,青果市場ルートの流通業者 (仲卸) から圧力をかけられて,野菜を「押し込まれている」のである.流通業者との力関係の都合で,いったん断るとその後の商売に支障が生じるから,分不相応な数量の野菜を仕入れているのだ.
 自分の店で販売可能な数量以上の野菜 (飲食店向け) を仕入れて (仲卸に仕入れさせられて),そのために売れない野菜を廃棄せざるを得ないのは,自分の店の経営上の都合に過ぎない.
 
 質の良い野菜をスーパーよりも廉価で販売すれば,客は買いに来る.SNSで「本気で売る気もないけど廃棄もしたくない」と我儘な愚痴を垂れている暇があったら,働け.
 事実,私の買い物行動範囲にある複数の優良な八百屋は,客が三密状態に近いくらいに押し掛けている.
 スーパー以上に集客する才覚もなく,努力もしない八百屋が,
 
八百屋の状況を知ってもらえてうれしい。こうした現象は全国の八百屋で起こっているはずなので、近所の八百屋さんでぜひ野菜を買ってもらえたらなと思います
 
とは聞いて笑わせる.
こうした現象は全国の八百屋で起こっている》はずがない.自分の怠惰をコロナ禍のせいにしている「全国の無能な八百屋で起こっている」のだ.
 飲食店向けの販売がコロナ禍のために落ち込んだのは事実として,ならば一般消費者に買ってもらえるように努力するべきである.それをめんどくさいと思う無能な八百屋が,仕入れた野菜を廃棄すると言うなら勝手に廃棄すればよい.自業自得だ.
 消費者はこんな八百屋に騙されずに,スーパーだろうが八百屋だろうが,自分の目で品質と価格を確かめて買い物をすればいい.
 それは結局,生産者にも利する消費行動なのである.

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