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2021年3月 3日 (水)

「まとめて買えば安くなる」の謎

 Amazon prime 価格は「無料配達」を謳い文句にしているのだが,これが実は,商品価格そのものに配送料をオンしたものなのである.
 prime 会員はそのことを承知しているが,prime 会員であることのメリットはあるので,会員をやめないのである.
 ただし,これが法的にどうかというと,公正取引委員会が手を入れないのが不思議である.
 prime 価格には配送料が内包されていることから,通販価格体系に色んな矛盾が生じている.
 一つには,注文する商品の個数を複数にすると,配送料が二重三重に重複してカウントされるということがある.
 またそれとは別のことで,Amazon prime の価格決定ロジックが怪奇な現象をもたらすことがある.
 これはおそらく,配送料が重複するという欠陥を修正しようとして修正しきれていないのだろう.
 
 話は家庭常備医薬品のことである.
 よく知られた池田模範堂という会社は,明治に創業し,大正十五年に「ムヒ」を発売して以来,痒み止め一筋に歩んできた会社である.
 日本国民でムヒのお世話にならなかった者は一人もいないのではないか.
 池田模範堂の商品一覧を見ると,「耳の穴が痒い」とか「バストトップが痒い」などのピンポイント的な痒みの場合から,皮膚が広範囲に痒い場合の内服薬まで揃っている.
「耳の穴が痒い」は痒みの症状としては著しくニッチで,そんなやつおるんか,とテレビCMを見ると私はいつもツッこんでいるが.
 さて私のような高齢者の痒みは,乾燥肌が原因のことが多い.これは広範囲に痒い.
 背中一面が痒いとか,脚のひざ下が全部痒いなんて時に,軟膏のムヒを塗布していたのでは,何本あっても足りるものではない.
 そこで内服薬「ムヒAZ錠」の登場だ.
 私はこの冬,背中を孫の手で掻くことをやめて,AZ錠を服用している.なかなかよく効く.
 ところがこの薬,ドラッグストアでは定番ではないらしく,棚に置かれていないことがある.そこで私はこれを通販で買っている.
 なんでムヒAZ錠の話を持ち出したかというと,下の画像にある価格表をみたからだ.
 
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 Amazon prime 価格が本当に配送料無料であるなら,ムヒAZ錠 (一箱796円) を二箱買ったら,合計は1592円でなければならない.
 しかし実際の合計価格は1861円であり,269円高くなる.
 同様に,三箱買うと,理屈では 796円×3=2,388円のはずだが,実際は2,660円で272円高い.
 四箱なら796円×4=3,184円のはずが,どういう勘定か,3,695円で販売されるから,511円も一気に高くなる.
 そして五箱になると,796×5=3,980円のところが実際は4,210円で,230円高い.
 
 どうしてこんな不思議な価格体系なのか.
 本来はAmazonが消費者に説明すべきことであるが,質問してもAmazonは決して答えない.
 そこで私たちのほうで合理的な謎解きを試みる.
 おそらく間違いないが,ムヒAZ錠一箱を販売している薬店と,二箱,三箱,五箱を販売する薬店は別だということである.
 また四箱を暴利で売っている薬店もまた別である.
 つまり三つの薬店が,Amazon prime という同じ名目で同時に,別々の価格体系で販売しているのである.
 実はこういう例は,医薬品だけでなく,食品でも数多く見つかる.
 なぜこんな不合理な商売をするのか,Amazonの内部事情だから私たちにはわからない.少なくともAmazonが消費者保護という観念をもっていないことはわかる.
 例えば災害時の防災用品などが,転売ヤーによって無茶苦茶な値段で販売されても,楽天は対処するがAmazonはほったらかしである.
 私たち消費者としては,Amazonの価格はよくよく計算してみないと損することがあるので,自衛する必要がある.
 ムヒAZ錠の例でいえば,三箱買いたくても,一箱ずつの注文を三度にわけて発注するのがよい.これは面倒だし環境にも優しくない.まとめて買うと高くなるのは,常識人には理解しがたいが,致し方ない.
 
 さて,以上が実に長ったらしい前フリである.以下が本題.
「まとめて買えば安くなる」というのは洋の東西を問わず事実である.
 これを英語では“Cheaper by the Dozen”という.「一ダースなら安くなる」というのが和訳である.これは決まり文句/常套句で,私がこの表現を知ったのは中学生のときだった.
 ここまではいいのだが,ややこしいのは邦題『一ダースなら安くなる』(原題“Cheaper by the Dozen”) という映画 (1950年公開) があることだ.試みにGoogleで「一ダースなら安くなる」で検索してみるとよろしい.
 検索結果は,映画『一ダースなら安くなる』に関することだけである.結果の中でトップであるWikipedia【一ダースなら安くなる (映画)】を下に一部引用する.
 
あらすじ
 両親は時間動作研究(en)および能率向上技師のフランク・バンカー・ギルブレス・シニア(en)と心理学者のリリアン・モラー・ギルブレス(en)。一家総出で車で出掛けて赤信号で止まっていると、歩行者から「なぜそんなに子供を連れているの?」と聞かれることが度々あり、父フランクはわざとじっくり考える振りをして信号が青になると「一ダースなら安くなるからね」と言ってすぐに発車していたことからこの題名がついた。
 
 父であるフランクが,なぜそんなに子供が多いのかと他人に問われた時に,いつも《一ダースなら安くなるからね》と答えていたのはなぜか.
 それは,1950年当時の米国で「一ダースなら安くなる」という商品販売における常套句が既にあったからである.「一ダースなら安くなる」は映画『一ダースなら安くなる』からできた言葉ではない.その逆だ.
 映画の中でフランクは,スラングというか決まり文句の「一ダースなら安くなる」を「洒落」で使っていたのである.もちろんこれは質問に対するまともな答えではない.はぐらかしである.子供がたくさんいると,何が安くなるか意味不明だからである.
 私が中学生の頃,大きめの英和辞典には,dozen の熟語“by the dozen”(ダース単位で売り買いすること) の例文として,“cheaper by the dozen”が載っていた.
 例えば鉛筆を買う場合,一本や二本を買う時には単価×本数で販売されるが,一ダースが箱入りになっているのなら,割安になることをいう.日本なら一箱に十本入りだったりして,ダース単位はあまり使われないが,これは日常生活で用いられる単位が日米で昔から違うからである.(英語圏でも,国によって,生活における基本的な単位が十進法と十二進法の違いはある)
 それはともかく,本家本元である常套句の「一ダースなら安くなる」がいつの間にか忘れ去られ,映画『一ダースなら安くなる』のタイトルとフランクの台詞だけが今も残っているのである.
 こういう死語的な言い回しは日本語でも多々ある.
 実は最近,理由はわからないが,私が書いたブログ記事《目ン無い千鳥》がかなりたくさんの人に閲覧されている.
 この「目ン無い千鳥」という言葉はまだ生きている.死語ではない.この題名の歌謡曲を挿入歌とした娯楽映画作品は忘れ去られ,フィルムも散逸したが,この歌を懐メロとして歌った大川栄策をまだ覚えている高齢者がたくさんいるからだ.
 しかし,なぜ千鳥が失明しなきゃいかんのか,そこんところの事情がもう忘れ去られたために「目ン無い千鳥」という言葉は意味不明になってしまった.これは「一ダースなら安くなる」にちょっと似たところがあると思う.映画の話は別として,なぜ一ダースなら安くなるのか (→ダース販売という商習慣があったこと) を知っているのは高齢者だけになってしまったのである.

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