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2021年3月28日 (日)

十三人か13人か

 私は,数あるNHKの番組の中で,この数十年間まったく視聴していないのがいわゆる大河ドラマである.
 最初に観たのは私が中学生の時に始まった大河第一作『花の生涯』だった.言わずと知れた舟橋聖一作の歴史小説をテレビドラマ化した作品だ.
 なにしろ日本史なんか全く勉強したことのない中学生だから,このドラマは筋書きもよく理解できず,今はもう「観た覚えがある」程度の記憶しか残っていない.
 翌年が,最高視聴率53.0%という大河ドラマ史上不滅の大記録を打ち立てた『赤穂浪士』で,その次が『太閤記』だった.そしてこれで私の「大河ドラマ」は終わった.そのあとは高校受験と大学受験の日々が続いたせいである.
 嘘ではなく,私は大河ドラマよりも高校の数学の方がおもしろくて,テレビなんか見る気がまるっきり起きなかったのである.
 それにしても,『赤穂浪士』の人気は凄かった.大石内蔵助を演じたのは大役者長谷川一夫であったが,この大石が浪士の面々に「おのおのがた,……」という台詞が世間で流行した.長谷川一夫の発音は独特の鼻音であり,「おのおのがた」は「をのをのがた」とでも表記したくなるもので,その物まねがはやったのである.
 長谷川一夫は,大石内蔵助はこの役者をおいて他にないと思わせる貫録があったが,別の意味で貫録充分の演技をみせたのが架空の登場人物である蜘蛛陣十郎(盗賊)を演じた宇野重吉だった.
 宇野重吉の発音もまた独特で,ニヒルな浪人堀田隼人に呼びかけるとき「ほったしゃん」と言った.
 これもまた流行して,おかげで全国の堀田さんはこの年,周囲の人たちから「ほったしゃん」と名前を呼ばれたのである.ような気がする.
 
 当時のNHK時代劇は格調が高かった.主に映画界と演劇界から優れた俳優たちが集まったからである.
 たぶんNHKの大河ドラマ制作陣も格調第一だったと思う.それはドラマのタイトルにも表れていた.
 第五作は大佛次郎の『三姉妹』であったが,『三姉妹。』ではなかったのである.
 違う.
 そういう話ではなくて,昔の日本人は文章中に安易にアラビア数字を用いなかったと言いたいのである.それが日本語の格調に繋がるというセンスを持っていた.だから『三姉妹』は絶対に『3姉妹』とはされなかったのである.
 格調がむしろ邪魔な場合に敢えて『うちの3姉妹』としたのである.ような気がする.
 大河ドラマ以外では,映画のタイトルはどうだろう.
 例えば黒澤明監督作品で,タイトルに数字が入っているのは以下の通りである.
 
姿三四郎     (1943年,東宝)
一番美しく    (1944年,東宝)
続姿三四郎    (1945年,東宝)
七人の侍     (1954年,東宝)
隠し砦の三悪人  (1958年,東宝)
椿三十郎     (1962年,東宝)
八月の狂詩曲   (1991年,松竹)
 
 他の名作では『二十四の瞳』『八つ墓村』『三十六人の乗客』があるが,これらは原作の題だから当然そのまま.
 オリジナル脚本作品には『八月の濡れた砂』(1971年,藤田敏八監督,日活) がある.
 で,「姿34郎」とか「椿30郎」「8つ墓村」はともかくとして,私の世代の感覚としては「1番美しく」「7人の侍」「隠し砦の3悪人」「8月の狂詩曲」「8月の濡れた砂」はあり得ないのである.(講談社漫画賞に輝いたあの名作『1・2の三四郎』でも,作者は『1・2の34郎』とはしなかった w)
 洋画はどうか.これはほとんどがアラビア数字をタイトルに用いているが,漢数字が字幕に出てこない洋画では,特に違和感はない.数少ない例外は,『第三の男』『三十四丁目の奇跡』『三十九夜』『三十九階段』『ポケット一杯の幸福』『三人の名付け親』『荒野の七人』あたりだろうか.『荒野の七人』は黒澤作品のリメイクだから「七人」とする以外にない.
 映画から軽めのテレビドラマのことに戻ると,昔『七人の孫』というのがあったが,一方で『男女7人夏物語』てのもあった.
 刑事ものには東山紀之の『刑事7人』があるが,過去に名作『七人の刑事』があるから,「7人」でいいだろう.
 というようなことを,つらつらと調べてみたが,映画でもテレビドラマでも,時代劇のタイトルにアラビア数字を用いたのは,大河最新作予定『鎌倉殿の13人』が最初である.
 脚本を書く三谷幸喜は,なぜ突拍子もなくアラビア数字で「13人」としたかについて,メディアに一言も説明していない.おそらく間違いなく,話題作りのための思い付きなんだろう.タイトルをこういう見苦しいものにするようでは,史実も時代考証も考慮の外に違いない.(時代考証については早速トラブルが発生している)
 また,脚本の三谷幸喜は視聴率最優先でいくだろうから,時代劇の格調もへったくれもないだろう.
 そういうことならいっそ『かまくらどのの13人。』とかにすればよかったのだ.

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