模造甘酒 /工事中
先週土曜日に放送されたNHK《うまいッ!》は《震災10年SP (1)山形で醸す!福島の日本酒〜山形・長井市〜》は,震災で被災した福島県浪江町の鈴木酒蔵が,山形県長井市に移転して復活させた日本酒の話だった.
鈴木酒造は大震災の前に,偶々麹菌を研究機関に預託していたので,工場が大破したあと山形県長井市に移転して酒蔵業を再開しようとしたが,まず最初の問題は,長井と浪江とでは水の質が異なることであった.気温も違う.酒造条件があまりにも違えば,できた酒の味が異なってしまう.
それを乗り越えて,元々の鈴木酒造が作ってきた酒を,長井で再現するまでの苦闘を紹介したのが先週の《うまいッ!》の内容であった.
今週 (今日) の放送は,鈴木酒造のおかみさんも録画出演して「酒粕料理」についてであった.
それを見て私は「酒粕料理は旨そうだが,おれは作ったことがない」「で,酒粕はどこで売ってるんだ?」と思った.
すぐに調べたが,現在は大手の清酒酒造会社では酒粕が生じない発酵方法を主としているため,酒粕生産量は昔より大幅に減り,酒粕の入手は困難なのだそうである.酒粕の入手は地方小規模酒造が通販しているものに頼るしかないというので,地方銘酒の酒粕通販サイトで商品を探したが,既に完売だった.
それならば,というわけでAmazonで販売されているものを注文した.静岡県の《志太泉純米吟醸酒粕》である.この酒は飲んだことがあるので,なんとなく馴染みを感じたからだ.
それはともかく,この酒粕の購入者のレビユーに次の投稿があったので驚いた.投稿したのはtonysという人で,評価は星二つという酷評だ.
《2021年2月9日
Amazonで購入
甘酒にしました。細かな米粒が大量に出ます。味はまあまあ甘酒ですが、ゆるいお粥みたいに米粒が大量に残るので、好みに合いません。粕漬け向きですね。リピしません。》
今時,こんな人がいるのかと思った.
というのは,近代的な清酒醸造工程の副産物である酒粕を湯に溶き,これに砂糖で甘味をつけた代用甘酒は,戦前から昭和三十年代にかけて作られた模造食品 (飲料) だからである.
日本の酒,特に清酒の醸造は室町時代に勃興し,江戸期に関西の灘が大産地となった.
それより前,万葉の時代以前からプリミティブな酒の醸造は行われていたが,当時の酒は,現在の私たちが考える酒とは随分と異なるものだった.
酒の醸造は,アルコール発酵の前に穀物に含まれるデンプンを分解して糖にすることが必要である.分解に用いられるのは,ヒトの唾液中のアミラーゼまたは麹菌が生産するアミラーゼが一般的である.アミラーゼとは,デンプン中のアミロースやアミロペクチンを,単糖類であるグルコース (ブドウ糖) や,二糖類であるマルトースおよびオリゴ糖に変換する酵素の総称である.醸造に用いられるアミラーゼには,古代の酒に用いられたヒトの唾液に含まれるアミラーゼがよく知られるところだが,その他に麦芽や,日本の酒においては麹菌 (ニホンコウジカビ;Aspergillus oryzae) が生産するアミラーゼを用いてデンプンを分解する.
日本の酒は,麹菌が米 (特に適した品種を酒造米と呼ぶ) のデンプンを分解して生じたグルコースを,清酒酵母と総称される酵母がアルコール (エタノール) に変換する二段構えの醗酵で行われる.ワインでもビールでも,それぞれ独自の醗酵過程がある.またこれらの焼酎などの蒸留酒は,醸造酒の製造工程の延長線上にあるとみなすことができる.
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