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2021年2月12日 (金)

偽装和三盆糖

 東京という土地は,こと食文化の点では関東の中でもちょっと特別である.
 江戸時代,上流階級の武家や暮らしぶりの豊かな商家は当然だが,長屋住まいの見栄っ張りな江戸っ子たちも,貧乏なのに砂糖を消費した歴史があるからだ.
 東京都を囲む関東諸県の郷土料理が東京風の料理ほど甘辛くはないのは,関東の農家は江戸時代には武家や商家のように砂糖を料理に使えるほど裕福ではなかったし,長屋暮しの見栄っ張り町人でもなかったからである.
 今でも江戸東京の味と言うと真っ茶色の甘辛味である.例えば会社員が昼飯を食う定食屋で金目の煮魚を頼むと,どこが金目「鯛」なのだと言いたくなるくらい濃い茶色だ.濃口醤油に酒と砂糖と味醂をしこたまブチ込んで煮しめた結果があれである.店によっては照りがどうのことのと講釈を垂れて砂糖と味醂に飽き足らず水飴まで入れる始末だ.
 私は群馬県の生まれだが,大学に入って上京し,初めて食べた東京の立ち食いうどん (「梅もと」という中堅立ち食い蕎麦チェーン) の汁が真っ黒い上に甘いので腰が抜けるほど驚いた.汁が濃くて丼の底が見えないのはともかく,東京のうどんや蕎麦の汁は飲むものではないと知って,腰が二度抜けた.東京人の言い分では「うどんの汁は調味料だ.調味料を飲むばかがどこにいる」なのであった.
 口の悪い関西人が「東京のうどんの汁は人間の食い物ではない」というが,確かにそうだと私も思う.人間の食い物にあらずは言い過ぎだとしても,砂糖の甘みを好むのは幼児の味覚だ.酢の物や,ビールの苦みのうまさは,大人でないとわからない.テレビの食レポタレントが,何を食っても「あまーい」と言うのは,甘み以外の感覚が発達していない幼児レベルだからである.
 
 余談だが,藤沢駅北口に「さいか屋」という老舗のデパートがあり,その地下食品階に「隠れ里 車屋」という日本料理店が惣菜コーナーを出店している.車屋は地元ではよく知られた店である.
 この惣菜コーナーのガラスケースを覗いたら「出汁巻き」があった.東京の厚焼き玉子は砂糖をこれでもかとブチ込んで舌がひん曲がるほど甘いものであり,小学生の弁当に詰めるくらいが相応しいものだ.これが大好きだというやつは,ボタ餅で熱燗を飲むに相違なく,わが友ではない.私が青年の頃,江戸前の鮨屋では通は最初に玉子焼きを食べるものだというまことしやかな伝説があったが,食事の最初に甘いものを食ってどうするのかこのデザート野郎っ,と思ったものだ.
 で,「隠れ里 車屋」の出汁巻きはどんなもんだか食べてみようと思った私は,念のために店員の中年女性に「この出汁巻きって,厚焼き玉子じゃないですよね?」と訊いてみた.
 するとその女性店員は「はい,甘くておいしい出汁巻きですよー」と答えた.がっかりしたが,物は試しに買って帰り,食べてみたが,やはりがっかりものだった.
 この店員は,出汁巻きも厚焼き玉子も甘いものと決めつけているが,東京の甘い厚焼き玉子は,出汁を入れようが出汁を使わずに焼こうが,厚焼き玉子と呼ぶことを知らぬのだ.
 出汁のメーカーであるヤマキの公式通販サイトに《関東と関西でだし巻き卵はどう違う?特徴とおいしい卵焼きの作り方》と題したコンテンツがあり,そこに次のように書いてある.
 
「厚焼き玉子」と呼ばれることもある関東風の卵焼きは、長方形に厚く巻かれていて、砂糖や醤油が使われている関係から、表面には適度にこんがりとした焦げ目がつきます。
厚く巻かれているため、ふっくらとした食感になるのも特徴です。
薄口醤油を使用する関西風の卵焼きは、薄くあっさりとした色味が特徴で、形も楕円形やかまぼこ型になることが多いです。基本的には「だし巻き卵」というと、関東風の卵焼きではなく、だしをたっぷり使った関西風の卵焼きのことを指します。
だしを多く使い、何回も繰り返して巻くため、柔らかくしっとりした食感でだしの味を楽しむことができます。》(文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
 東京の食い物は,厚焼き玉子が甘いのにとどまらない.
 稲荷寿司が,それ以上に甘い.稲荷寿司は,炊いた飯に寿司酢 (合わせ酢) を混ぜるが,この寿司酢が甘いのだ.酢に腰が抜けるくらいに大量の砂糖を入れて,それをまた大量に飯にブチ込むもんだから,この酢飯は握ってもハラリと崩れるくらいになる.稲荷寿司の酢飯でマグロの握りを作ったら,猫もまたいで通るだろう.江戸前の握り鮨は食事だが,稲荷寿司はデザート感覚だ.
 江戸東京の味付けの食い物はまずい.とにかく甘けりゃ食べる人が喜ぶと思っている.
 とまあ,江戸の味を貶してみたが,しかし我が国の砂糖の発祥,本場は江戸ではなく実は西日本なのである.
 
 九州の各地方,とりわけ長崎県と鹿児島県がとにかく甘い味を好むのはよく知られているが,両県それぞれに古く江戸時代に遡る歴史がある.
 長崎を窓口にして海外貿易 (中国,オランダ) により日本に輸入された砂糖は精製糖であった.しかし「精製」といっても当時の技術によるものだから,現代の白い砂糖とは品質がかなり異なる.製法の原理は,ショ糖の濃厚水溶液からショ糖の粗結晶と糖蜜を分離することによる.
 有名な『守貞謾稿』の「饅頭」の項目に《今の饅頭、表は小麦粉を皮とし、中に小豆餡を納る。小豆は皮を去り砂糖を加ふ。砂糖に白黒の二品あり。白を白餡と云ひ、黒をくろあんと云ふ》とある.
 ちなみに,守貞謾稿は江戸時代後期に執筆された一種の百科事典である.原本の所在は詳しくサーチしていないが,朝陽舎書店が1908年,国学院大学出版部が1909年に署名を『類聚近世風俗志』として再出版したものの一部が古書として流通している.また後に1934年に京都の更生閣書店から1934年,東京堂出版が1973年,名著刊行会が1979年に復刻した単行本と合わせて,すべて国会図書館が所蔵している.さらに,これらを底本にして岩波書店が平仮名書きに改めた五巻セットの岩波文庫版の『近世風俗史』もあり,当ブログの筆者の蔵書はこの岩波版である.また,この書物は挿画が重要なので,図版を集めた雄山閣『守貞謾稿図版集成 (上,下)』も値は張るが入手可能.
 で,《砂糖に白黒の二品あり》と著者がいうところの「白」は,現在も使われている和三盆糖あるいは和白のことである.食用ショ糖としては精製度が低く,糖蜜が残存しているので色は白くはなく,薄い黄褐色だ.「白」は,「黒」すなわち黒糖に対置すれば「白い」という表現である.
 Wikipedia【砂糖問屋】に次の記述がある.
 
砂糖は長い間、輸入に依存する高級品であったが、江戸時代に入ると薩摩藩が砂糖を産出するようになり、続いて徳川吉宗のよる国産化政策の結果、高松藩・丸亀藩・徳島藩などの諸藩においても砂糖生産が行われるようになった。江戸時代を通じて、輸入品と西国産がほとんどを占めていたために、砂糖の流通の中心は大坂となり、同地に砂糖問屋が形成されるようになった。大坂の砂糖問屋は中国・オランダからの輸入物である「唐紅毛糖」を扱う唐薬種問屋(砂糖は当初余りにも高級であったため、薬品としての扱いを受けていた)、薩摩藩産である「薩摩黒糖」を扱う薩摩問屋、その他の国内産である「各地和製砂糖」を扱う和糖問屋(余国問屋)に分かれていた。
 
 江戸時代中期になると輸入品の砂糖を扱う糖薬種問屋は,輸入品の減少により消滅し,薩摩藩の砂糖 (黒糖;薩摩藩が琉球王国に侵攻して奄美群島を直轄支配し,琉球から製糖技術を導入して薩摩藩の財源とした) を扱う問屋は,薩摩藩が直販体制を敷いたためにこれも消滅した.
 結局,四国が砂糖生産地として残り,この砂糖は大阪の問屋が大消費地である江戸への流通を行った.
 ではその四国の砂糖はどのようなものだったか.現在のスーパー等で販売されている砂糖は近代的な工業製品だが,江戸時代に家内工業で製造された四国産の砂糖は和三盆 (同製法の中国産が唐三盆あるいは三盆白と称したのに対する「和」の三盆であるとの意) と呼ばれ,製造の職人技術は主として香川県と徳島県に今も伝えられ,それぞれ讃岐和三盆,阿波和三盆と呼ばれる.
 砂糖全般の製法知識は,農畜産業振興機構調査情報部《白い砂糖の真実、そして三温糖との関係》[掲載日 2012年12月] がわかりやすい.
 また,そのうちの和三盆の製法は三谷製糖羽根さぬき本舗《和三盆について》がある.
 さてこの和三盆は,日本三大銘菓の一つである金沢森八の「長生殿」や名古屋両口屋の「二人静」など高級和菓子の原料であるが,手作業的製造である上に歩留まりが悪く,高価である.従って,家庭の料理に単に砂糖として使うなら和三盆を使うのはあまり意味がない故,コンシューマ・ユースとして通販で入手できるものは限られている.しかも三盆糖製造業者の遵法意識が低いのであろう,商品の包装に原材料表示をしていない違法な製品が多い.
 包装に法で定められた表示事項をしていないのはもちろん違法であるが,製造者の公式サイトにも何も商品情報を掲載していない製造あるいは販売業者は,(1) そもそも表示が法法定義務であることを知らない,(2) 表示したくないとの意図をもって表示していない,のどちらかであろう.
 ここで「表示したくない」のは,言うまでもなく当該商品が偽物だからである.
 通販サイトやネット上の情報を調べてみたら,正真正銘の阿波和三盆が見つかった.Amazonに出品されている《日本健康堂 和三盆100%》である.
 同商品に関するAmazonの商品説明には以下のことが書かれている.文字の着色強調は当ブログの筆者が行った.
 
商品紹介
  商品説明:まろやかで独特の風味があり、こまやかな粒子と口溶けの良さが特徴の高級砂糖・和三盆です。和菓子、洋菓子、料理、コーヒー、紅茶もひと味変わります。
  四国東部伝統の手づくり和三盆100%
  名称:和三盆糖/原材料:竹糖(サトウキビの一種)徳島産/内容量:100g /JAN4995657007341
  保存方法:直射を避け冷暗所で保存/製糖所: 徳島県阿波市
  販売者:株式会社日本健康堂 静岡県下田市白浜2073-9 TEL0558-23-3810
 原材料・成分
  原材料:竹糖(サトウキビ)徳島産
 
 この商品が和三盆であることを過不足なくきちんと表示しているが,販売者の所在地は静岡県であることからすると,日本健康堂は和三盆の製造者ではなく,徳島県阿波市の製造者からの仕入れ販売だろう.残念ながら製造者名が不明である.
 
 Amazonには岡田製糖所 (徳島県板野郡上板町泉谷) の《阿波和三盆糖 (岡田製糖所 製造)》も出品されているが,グラニュ糖などで増量していないとの確証がない.岡田製糖所の公式サイトを閲覧しても,原材料表示が一切掲載されていない.きれいに制作された企業サイトだが,肝心の商品情報が秘匿されていてはロクなものではない.ここまでして原材料表示を秘匿するにはなんらかの理由があるはずだ.岡田製糖所の販社である岡田糖源郷 (食べログに記載あり) も同じ商品をAmazonに出品していて,その購入者レビューには次の通りに書かれている.文字の着色強調は当ブログの筆者が行った.
 
購入にはいたりませんでした
 2018年10月16日に日本でレビュー済み
 値段的にも気になりましたので出品者に問い合わせを事前にしたところ和三盆100%ではなく普通の砂糖とのミックスでした。とても残念でしたが、きちんと100%と表記されている物に決めました。お値段三倍くらいになりますが・・。
 細かいこだわりがなければ、お手頃な値段ですのでこの商品でも十分だと思います。
 
 安かろう悪かろう.「やっぱりね」というところだ.
 消費者が家庭で和三盆を使いたいと思った場合,和三盆は高価だから普通の砂糖と混ぜて使うということはあるだろう.しかし混ぜる比率は消費者が決めればよいこと.岡田製糖所が勝手に三盆糖に砂糖を混入して,それを阿波三盆糖という直截的な商品名で売ることは,たとえパッケージ裏面に砂糖が混入してあることを書いてあっても,商道徳に反する.これは阿波三盆糖という伝統食品の首を絞める行為に他ならない.
 
 デパ地下に出店していることが多いのでよく知られている富澤商店もAmazonに《和三盆糖》を出している.
 これは原材料について次の通りに書いている.
 
原材料・成分
 さとうきび(徳島県産)、砂糖
 
 確かに現在の食品表示ではこう書くことになり,これを読んだ消費者は,混入された砂糖よりもさとうきびの方が重量は多いということはわかる.原材料として使用した重量が多い順に書くのが,法で決められたルールだからである.
 しかし,一例として,原材料の重量比で,サトウキビ (徳島県産の竹糖というサトウキビの一種) が51%で砂糖が41%だとしよう.
 サトウキビ100gから採れる砂糖は約5gであるから,原料の竹糖由来の砂糖 (三盆糖) /混入させた砂糖 (グラニュ糖など) = 1/8 ということになる.つまりこの場合は,圧倒的に混ぜ物のほうが多いのである.
 呆れた事実だが,現在の食品原材料表示方法では,偽装食品を消費者は見破ることが不可能なのである.
 これは,現在の法律が消費者の保護ではなく,産業保護の立場を優先していることの現れにほかならない.偽装食品,模造食品を流通させることが産業保護であるとは私は思わないが.
 三盆糖に関していえば,賢明な消費者は,岡田製糖所や富澤商店の似非三盆糖を買わぬことで,似非三盆糖を私たちの生活から排除していくことが求められる.
 
 さて,通販サイトで三盆糖を調べていたら,すごいのを見つけた.野田ハニー株式会社という業者がAmazonに出品している三盆糖である.
 野田ハニー株式会社の公式サイトに掲載されている「阿波和三盆糖」の商品資料からスクリーン・ショットを作成し,下に引用掲載する.削除または素知らぬふりで訂正された時のために証拠として残すためである.
 なおAmazonの商品ページはここ.この商品に関して実際に使用して「なんかへんだ」という感想を持ち,証拠を画像付きで投稿している購入者もいるが,ステマのレビューが堂々と掲載されている.実に悪質極まりない.
 こういうことをするのは中国人かと思いきや,野田ハニー食品工業株式会社 (〒776-8582 徳島県吉野川市鴨島町内原144) は徳島県に実在する企業のようだ.
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20210213a
20210213b
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 上の二画像のうち下側の表を見てみよう.原材料が《グラニュー糖、さとうきび》と書かれている.
 既に述べたように,これが「さとうきび,グラニュー糖」となっていて,サトウキビが主原料のように見えても偽装和三盆である可能性が排除できないのに,この野田ハニーは,こともあろうにグラニュ糖が主原料だと堂々と書いているのだ.
 鉄面皮とはこのことである.
 岡田製糖所や富澤商店が,それなりの節度を持っていると思われるのに対して,野田ハニーの原材料表示は,この商品が伝統的な和三盆の製法に従っていないことを強く示唆する.
 例えば,サトウキビの抽出液をグラニュ糖に吹き掛けて着色し,乾燥して包装すれば,これの原材料表示は「グラニュ糖,さとうきび」となるのだ.
 以前書いた《半田そうめんを買ったら》に詳述したように,四国の会社は,自分たちの財産である伝統食品をずたずたにしている.そこまでして金を儲けたいか.情けない限りである.

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