戦国の食文化
テレビを点けると,毎日のように食べ物に関する番組が放送されている.
レストランやパン屋にタレントが出かけて行き,「まいうー」とか言うだけのことが多いが,林修先生が登場して「○○を食べると血液がサラサラになることが期待されます」とウンチクを語ることもある.
林先生は「血液がサラサラになることが期待されます」とは言うが,「血液がサラサラになります」とは決して言わない.なぜかというと科学的根拠が乏しい (牽強付会なものが多いし明らかに嘘なのもある) からである.
つい先日も「納豆を食べると免疫力の向上が期待されます」と言っていた.彼は一種の宗教家であり「期待されます」の伝道師だ.
NHK《ガッテン!》は,林先生の番組よりは多少マシで,科学番組ではなく娯楽番組として視聴しておけばよいのだが,先日の大特番《《お取り寄せ不可!? 列島縦断 宝メシグランプリ 2021》は時間つぶしの娯楽にすらならなかった.
今回の《宝メシ…》では,番組冒頭で,六人しか住んでいない離島の漁師が蛸を干して食っているのを紹介したのだが,ただそれだけなのだ.
かつて沢山いた島民が,なぜ高齢者六人にまで減ってしまったのか,とか,本土側との食文化的交流を歴史的に調べてみるとか,干し蛸を作る地方は全国にどのように分布しているか等々,日本の食文化についていくらでも掘り下げた番組作りはできただろうに,干し蛸を料理人や評論家が食って,ただそれだけなのだ.こんな番組を作っていると菅首相が放送に介入するぞと言いたい.
さて「食文化」の研究というと大仰だが,そんなことはない.私たちの身の回りの食べ物を取り上げて,それにまつわる歴史を調査・考察すれば,それが立派な研究になる.
食文化的考察という点で,黒澤はゆま『戦国、まずい飯!』が滅法おもしろい.刊行されてから一年近くなるのに,私はこの本を知らなかった.
著者は歴史小説作家で,この本では文献にある戦国武将のエピソードを多数紹介している.しかしそれだけに終わらず,実際に戦国時代の料理や食材を再現して実食しているところに感心した.
例えば「ほしいい」だ.
よくある間違いなのだが,「ほしいい (干し飯,糒)」には色々なものがあるのに,現在の災害時非常食として市販されているアルファ化米と混同されることがある.「ほしいい」とアルファ化米は乾燥工程に大きな違いがあるのだ.
糒の最も洗練されたものは道明寺粉で,これも糒なのである.しかし洗練されているだけに製造に手間暇がかかる.
そこで著者は,戦国時代の雑兵たちが作ったであろうやり方で「ほしいい」を作って食べてみた.この顛末が「第四章 干し飯」に書かれているが,話のオチもスマートで,楽しい読み物になっている.戦国小説のファンにおすすめの一冊.巻末の「参考文献/参考論文」が親切で貴重だ.
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