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2020年12月20日 (日)

産業構造の変革

 私たちには職業選択の自由があり,自分が何になるかは自分で決めてよい.
 しかし水が低いところに流れて行くように国民の職業選択を誘導することは可能であるし,それは私たちの政府が「こうありたい日本」をデザインすることでもある.ここでデザインとは,産業構造,経済構造のことだ.
 先日放送のNHK《日曜討論》の出席者は,日本労働組合総連合会会長・神津里季生氏,経済同友会副代表幹事 (サントリーホールディングス社長) 新浪剛史氏,日本感染症学会理事長・舘田一博氏,西村経済再生担当大臣であった.
 番組の冒頭で神津氏は「現在行われている新型コロナウイルス感染症対策 (持続化給付金,営業時間短縮協力金 etc.) はセイフティネットの確保であり,それはそれで大切だが,それだけではいけない」旨のことを述べた.
 考えてみれば,科学的な原因は不明だが,今世紀に入ってからの現代は,周期的に新型の感染症が世界的に流行するという状況にある.
 世界のどの国もその状況変化に対症療法的に応じているのだが,しかしそれでいいのかと考える必要がある,というのが神津氏の主張だ.
 もっと個別的具体的に言うと,酒を提供する飲食店の業界,つまり例えば銀座の高級クラブから新橋の居酒屋に至るまで,時代に取り残された業種業態の営業は,いくらツブれぬように国民の血税を投入しても,時代を牽引する業種業態の営業には金輪際ならないということだ.
 もっとあからさまに言えば,ただでさえ客がこない飲み屋に,営業時間短縮を要請する代わりに協力金を支払うという自治体の行為は,国民の血税をドブに捨てるようなものである.
 
 テレビ局の取材者が東京の夜の盛り場で,酒を提供する飲食店の経営者にインタビューすると,「都内に十店舗を経営しているが,そのうちの六店は休業あるいは閉店して今は四店だけ営業している」なんて店が非常に多い.このような有能な店主たち (テレビを見ている限りは若い) は,公的な融資を受けられるうちに「酒を提供する」事業を捨てて,「食」ジャンルの新しい事業に乗り出して欲しいし,たぶん彼らはそれをできるだろう.
 一方で,そういう能力のない連中が,営業時間の短縮要請に対して「おれたちに死ねと言うのか!」「自治体がくれる協力金なんかじゃ焼け石に水だ!」「うちは時短要請を無視して営業するぞ!」などと言っている.私たち納税者にしてみれば,あんたたち水商売を救うために勤労者国民は額に汗して働いているわけじゃないぞと言いたい.
 多人数会食中毒宰相 (首相に就任以来,一日に何度も会食し,会食しなかった日は数えるほどしかない) には無理だと思うが,政府のすべきことは「焼け石に水」をかけることではなく,「酒を提供する飲食店」業界からあふれてくる失業者を如何に他の業界に誘導するかということだ.
「新型コロナウイルス感染症が流行したおかげで売り上げが九割減りました」などという現象は,そもそも供給 (飲み屋の数) が需要 (酒を飲みに来る客の数) を上回っていることを示している.
 その種のバブリーな営業は早々に市場から退場していただきたい.これから進行する人口減少とさらなる高齢化は,労働人口の減少をもたらす.これは夜の街に繰り出して酒を飲んで騒ぐ男たちが減るということだ.そうなるとこれまでの飲み屋のビジネスにはもう先がない.生き残れないのである.
 料理が本当においしいレストラン,病みつきになるラーメン屋,個性のあるスイーツの店など,価値ある食べ物を提供する店は,酒なんか出さなくても客が来る.料理は業務用食材を多用して酒で儲ける飲み屋 (酒を提供する飲食店) は社会の仇花なのだ.コロナ禍の中でツブレていっても消費者国民は 一向に困らぬ.
 
 新型コロナウイルス感染症対策についてさらに言えば,個別労働者の失業対策だけでなく,労働人口の産業間移動が必要だ.すなわちこれは二十一世紀のニュー・ディール政策であり,連合の神津会長の主張の眼目はそこにある.さすがに労働界トップに立つ人物は慧眼である.
 NHK《日曜討論》で,神津会長の発言に続いてサントリーホールディングス社長の新浪剛史氏は「神津会長の言う通りであり,これからは菅首相の政策に従ってデジタル産業へ人材を移動する必要がある」と述べた.
 この人は,飲み屋の店員や旅館の従業員たちをデジタル産業に移動させよと言うのだ.そんなことが現実に可能かどうかもわからぬのか.馬鹿も休み休み言うがよい.
 つい最近も新浪氏は菅首相と会食していた.菅首相は新浪氏のような人物の話を飯を食いながら聞いて,それを政策に反映するのが政治スタイルだという.二階・麻生・菅らによって派閥リーダーから失脚した石破茂氏や,死に体になった岸田文雄氏なら,もう少しこの国のリーダーとしてまともだったかも知れない.残念だ.

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