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2020年12月26日 (土)

不可思議なアビガンの臨床試験

 新型コロナウイルス感染症に効果があるのではないかとされた治療薬候補の一つにアビガンがある.
 アビガン (=ファビピラビル;アビガンは商品名) は富山大学医学部・白木公康教授と富士フイルムホールディングス傘下の富山化学工業 (現:富士フイルム富山化学) が共同研究で開発した抗インフルエンザウイルス薬である.2014年 (平成26年) 3月に富山化学工業が日本での製造販売承認を取得したものの,動物実験で胎児に対する催奇形性の可能性が指摘されたことから,緊急の場合のみ製造可能という条件がついた.新型のインフルエンザが流行した場合に備えて備蓄はされてきたが,実際には使用されたことはなかった.
 しかし新型コロナウイルス感染症に有効なのではないかとの観測があったことから,厚労省の承認を待たずに新型コロナウイルス感染症患者に投与が開始された.
 安倍前首相がどういうわけかアビガンがお気に入りで,治験を急げとハッパをかけたことでも知られる.
 医療現場での使用が先行したが,治験も進められた.Wikipedia【ファビピラビル】から下に要約する.
・5月26日に発表された藤田医科大学の「【中間報告】ファビピラビル観察研究中間報告(2020年5月15日現在)」によれば,アビガンの投与を受けた軽症患者の87.8%に症状改善が認められたものの,アビガンを投与された患者を観察した結果であって対照を用いた比較試験ではないこと,そもそも発症者の8割は軽症のまま治ることから,有効との結論は控えられた.
・7月10日,特定臨床研究「SARS-CoV2感染無症状・軽症患者におけるウイルス量低減効果の検討を目的としたファビピラビルの多施設非盲検ランダム化臨床試験」(註;医薬品や治療法の臨床試験のなかでも,製薬企業等から研究資金等の提供を受け,医薬品等を用いる臨床研究や,未承認・適用外の医薬品等を用いる臨床研究を特定臨床研究と呼ぶ;特定臨床研究は臨床研究法に基づいて認定臨床研究審査委員会及び厚生労働省に必要事項の報告・確認が義務付けられている) の最終結果の暫定的な解析が報告された.この試験では,アビガンに統計学的に有意な効果は認められなかった.
・9月23日,新型コロナウイルス感染症患者を対象としたアビガンの国内臨床第Ⅲ相試験結果が富士フイルムホールディングスのニュースリリースで報告された.
 156例を解析対象とした主要評価項目(症状(体温、酸素飽和度、胸部画像)の軽快かつウイルスの陰性化までの時間)の中央値は,アビガン投与群で11.9日,プラセボ投与群では14.7日となり,非重篤な肺炎を有するCOVID-19患者にアビガンを投与することで早期に症状を改善することを統計学的有意差(p値=0.0136)をもって確認した.
・10月16日に富士フイルムホールディングスが,抗インフルエンザウイルス薬「アビガン®錠」について富士フイルム富山化学株式会社が新型コロナウイルス感染症に係る効能・効果などを追加する製造販売承認事項一部変更承認申請を厚生労働省に行ったことを発表した.
 
 上記,富士フイルム富山化学株式会社が新型コロナウイルス感染症に係る効能・効果などを追加する製造販売承認事項一部変更承認申請を厚生労働省に行った結果を,朝日新聞デジタル《アビガン、コロナへの有効性は「判断困難」 承認難航か》[掲載日 2020年12月20日 20:28] が報道した.以下に一部引用する.
 
抗インフルエンザ薬「アビガン(一般名ファビピラビル)」を新型コロナウイルスの治療薬と認め、製造販売していいかどうかを審議する21日の厚生労働省の部会に、薬の有効性について「明確に判断することは困難と考える」と指摘する審査報告書が提出されることが分かった。複数の政府関係者は、「承認審査は難航する可能性がある」などとしている。
 報告書は、医薬品の審査を担う独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」(PMDA)がまとめたもの。
 その中では、承認を申請した富士フイルム富山化学の臨床試験(治験)の結果について「統計学的に有意な差が認められたとの結果を否定することはできない」としつつも、医師側がどの人がアビガンを飲んでいるかを知っている「単盲検」の手法で実施したことなどを挙げ、「得られた結果の臨床的意義に疑義が残る」として、判断が困難だとした。》(文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
 この朝日の記事によれば,アビガンの治験は単盲検で実施されたという.
 単盲検について Wikipedia【二重盲検】から引用する.

行為の性質を対象である人間(患者)から見て不明にして行う試験・研究の方法を、単盲検法という。これにより真の薬効をプラセボ効果(偽薬であってもそれを薬として期待することで効果が現れる)と区別することを期待する。しかしこの方法では観察者(医師)には区別がつくので、観察者が無意識であっても薬効を実際より高くまたは低く評価する可能性(観察者バイアス)や、患者に薬効があるかどうかのヒントを無意識的に与えてしまう可能性が排除できない。そこでこれをも防ぐために、観察者からもその性質を不明にする方法が二重盲検法である。
 
 治験を単盲検で実施した場合,承認されない可能性が高いことを,富山化学は承知していたと考えられる.
 ましてやアビガンは催奇形性があるため,厚労省としては承認したくないはずだと,専門家たちは以前からコメントしていた.
 それなのになぜ富山化学は単盲検で治験を行ったのか.
 非常に理解に苦しむところであるが,元々富山化学としては承認を期待していなかった (というよりむしろ承認して欲しくなかった) のだと考えれば,腑に落ちる話である.
「アビガンは新型コロナウイルス感染症に効くかも知れない」という初期段階から,当時の安倍首相は,声高にアビガンを持ち上げた.
 その妙な入れ込み様を,メディアも不審な目で報道していた.つまりアビガンは医学的な扱いよりも先に,安倍案件と化してしまったのである.
 今はもう安倍は新型コロナウイルス感染症とは無関係である.とすれば,富山化学も厚労省も,これ以上アビガンに関与する必要がなくなったのである.富山化学は,一応治験はやりましたという形を整え,厚労省は試験方法に問題があるとして承認を見送る.これが,アビガン承認見送りの裏側だろう.
 
[追記] 最終報道;TBSテレビ《「アビガン」の承認見送り、厚労省の審議会》[掲載日 2020年12月21日 23:35]


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