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2020年11月 1日 (日)

事実無根の感染症対策

 文春オンライン《「屋外でのマスクは不要」間違いだらけのコロナ対策を専門家が指摘する!》[掲載日 2020年10月30日 6:00] に長田昭二というライターが爆笑ものの記事を書いている.冒頭部を以下に引用する.
 
新型コロナウイルスの感染拡大から8カ月。この未知のウイルスに関する情報が何もないところから始まった闘いも、ようやくおぼろげながら敵の姿が見えはじめ、対策のやり方も徐々にではあるが、スリム化していい時期が来ている。
 ところが、当初の「憶測」で構築した感染対策に今も縛られて、自らの行動を雁字搦めにしている人や組織もあるだろう。そこで、感染症対策コンサルタントの堀成美氏に、8カ月が過ぎて見えてきた、最新の知見に基づく対策「5カ条」を指南してもらった。
 
 内容は,新型コロナウイルス感染症の拡大に関する独自研究である.(Wikipedia【独自研究は載せない】参照)
 この記事の筆者は堀成美という人物にインタビューした結果をまとめているのだが,そもそもこの堀という女性が新型コロナウイルス感染症に類するウイルス感染症の専門家ではない.履歴と職歴を示す.色んな職歴をお持ちだが,看護士教育がおよその専門分野だろうか.
 このような人が「門前の小僧が習わぬ経」を読んでもよろしいが,一般の国民に笑われてしまう杜撰なことは書かぬがよい.
 堀氏の頭の杜撰さの例はいくつでも挙げられるが,一つ二つ例示してみよう.
 
 堀氏はアンチ「三密を避ける」派であり,《換気ができている環境で、喋らなければ、たとえ密になっていても問題はない》と言う.
 氏は「換気」という言葉を何の説明もなく使っているが,実は「換気」は,法律や建築物の科学技術分野では,定義された用語なのである.概論的なことは Wikipedia【換気】に説明があるが,「換気」をきちんと理解するには専門書を読んで勉強する必要がある.
 関心ある向きは専門書を読んでいただくとして,要するにまともな科学的主張であれば「換気」は定量的 (例えば「一つの空間に関して単位時間に排気される空気量」を立方メートル/時間で表す) に扱うのが一般的なのである.難しいことのようだが,産業界では理系会社員が知っておくべき基礎知識の一つである.
 しかるに堀氏のように何の説明なく《換気ができている環境で》と書くような杜撰な頭では,「換気ができている環境ってどういうことを指しているのですか?」と質問されたら,グウの音もでないこと必定である.
 
 また堀氏はこんなことも言っている.
 
「感染リスクのある行為とは、“1メートル以内でのマスクをしない会話”であって、それが明確になった以上、『3密』なんてあやふやな言葉を使う必要がないのです」
「そもそも、1メートル以内で会話をするなんて、キスしてもいい人くらいのもの。そうじゃない人がこの距離の範囲に入ってきて話しかけられたら普通は逃げ出しますよ」
 
 会社の給湯室あたりで女性が数人で立ち話をしているとする.こういう光景を見たことのある人は誰でも知っているが,絶対に1メートルの距離なんかでは会話をしていない.会話の中身が社内の噂話であれば,かなり近い距離で話をしている.堀氏によれば彼女らは《キスしてもいい》関係だとのことであるが,彼女らは単に親密なだけである.
 毎日何度も繰り返して放送されているテレビCМを見てみよう.《ソフトバンク新テレビCM「勝手にHERO'S 勝手に刑事(デカ)」篇》が分かりやすい.この動画のスクリーン・ショットを下に例示する.
20201030e
 船越英一郎の刑事と,カツ丼を食っている逃亡犯の距離は大体45センチくらい.
 船越刑事と松本人志の「勝手にヒーロー」との距離は60センチほどだろうか.彼らの会話の距離に関しては,別に違和感はない.ごく普通の距離である.
 彼らは《キスをしてもいい》恋人どうしの設定ではないが,堀氏の主張に反して近距離で会話している.これは普通のことだ.むしろ,恋人以外の人が1メートル以内に来た時に逃げ出す堀氏は,異常な人物であるといっていい.
 堀氏の頭の杜撰なことといったら,下のようなことも書いている.
 
居酒屋とフランス料理だったら、フランス料理のほうが感染リスクは低い
居酒屋はテーブルが小さいから向かいの席の人との距離が近いが、フランス料理はテーブルが大きいので距離が取れる
  
 これはもう爆笑するしかない.つまり居酒屋は飲食店の業態であるが,フランス料理は料理のジャンル名である.この二つを比較するのは,日本語としてお話にならぬ.堀氏の頭の中では,フランス料理とフランス料理店が概念として区別できていない.まるで外食をしたことのない小学生低学年児童のような独自研究だ.w
「フランス料理は新型コロナウイルス感染症の感染リスクが低い」という言い方は,あたかも料理にウイルスが混入しているかのようである.
 しかも,だ.堀氏レベルのダメ日本語では,イタリア料理とフランス料理を比較したらどちらが感染リスクが高いのか,という新たな馬鹿馬鹿しい問題が生じる.ww
 もちろん会食の際の新型コロナウイルス感染リスクに関しては,料理のジャンルではなくテーブルの大きさとその配置間隔が問題なのであるが,小学生並みの食生活経験しかないと思われる堀氏は,テーブルの大きさ等の条件ではなく,フランス料理という料理の国名を言っている.まことに情けない幼稚な文章である.
 堀氏が言うところのフランス料理は,格式あるホテルのメイン・ダイニングにおける食事を指していると思われるが,同じカテゴリーでも,日本式の結婚式披露宴あたりは,テーブルの配置間隔はよしとしても,テーブルに着いている客と客との間隔はとてもソーシャル・ディスタンスがとれているとは言えない.
 私はテレビ報道でしか見たことはないが,外国からの賓客を招いて開かれる宮中の晩餐会も,報道画面を見る限り参会者の席の間隔はソーシャル・ディスタンス以下であり,狭い.それ故に,食事を伴う皇室の行事は現在のところ行われていないのであろう.(テレビのニュースは行事の中止についてそう説明している)
 堀氏が書いている「テーブルが大きいフランス料理店」は,日本におけるフランス料理店の一部に過ぎない.私たちに馴染み深いビストロと呼ばれる種類の気軽な普段遣いの店では,テーブルの大きさや配置の具合は,日本の大衆食堂や居酒屋とさして変わらぬ.そういう店を見たことがないのなら,フランス料理のほうが感染リスクどうのこうのと阿呆な講釈をたれぬのがよい.
 
居酒屋のメニューは大皿に盛りつけられているので各自で取り分けなければならないが、フランス料理のコースなら最初から個別に出てくる
 
 この文章 (↑) の意味が不明だ.意味不明な点は二つある.
 まず第一に「居酒屋のメニューは大皿に盛りつけられている」は事実か.
 酒を嗜む男たちには解説する必要がないが,一口に居酒屋といっても実に多様である.Wikipedia【居酒屋】に《最果ての居酒屋》と題した写真が掲載されているが,この店のように一軒単独で営業している昔ながらの居酒屋もあれば,全国展開しているチェーン居酒屋もある.
 だが頭がザルの如く大雑把な堀氏の言う居酒屋は,たぶん鳥貴族とか和民などのチェーン店の居酒屋であろう.
 では実際の居酒屋のメニューを見てみよう.
 会社員諸兄にはおなじみの鳥貴族のグランドメニュー「焼鳥」には《焼鳥は各2本です》と明記してある.つまりこれは一人分の量ということだ.「焼鳥」の他に「逸品料理」「スピードメニュー」などがあるが,いずれも大皿なんかではない.
 これはどういうことかというと,居酒屋チェーンの客はグループで来店するわけだが,客はそれぞれが食べたいものを「おれはトリキの唐揚」「わたしは北海道産和風ポテトさらだ」という具合に銘々が注文するのであるから,基本的に大皿料理ではないのである.(ただし宴会料理には大皿盛りがある.皆が個々に食べたいものを注文する形ではないからである)
 もう一つ,和民のメニューを紹介する.「お料理メニュー」を見れば瞭然であるが,和民も鳥貴族と同じで,料理は一人前の盛り付けとなっている.その理由は鳥貴族と同じである.ただし居酒屋によっては,生野菜系統のサラダを大きなボウルに盛り付けたものをシェアして食べるようにしている場合がある.
 また,大皿料理ではない料理を取り分けて食べることがないわけではなく,焼鳥を何種類か注文してこれを串から外してバラバラにし,皆で少しずつ食べるということはある.小食の女性が一人前の料理を食べきれないので他の人のものを「一口ちょうだい」と言ってシェアすることもある.しかしこれは《居酒屋のメニューは大皿に盛りつけられているので各自で取り分けなければならない》ということとは別の話だ.
 それではなぜ堀氏は《居酒屋のメニューは大皿に盛りつけられているので各自で取り分けなければならない》ときめつけているのか.
 これは簡単な話で,要するに堀氏は「自分が知らないことを,あたかも知っているかのように書く」種類の人間なのである.まず間違いなく,堀成美氏は居酒屋を利用したことはない.それなのに「居酒屋は……」と書く.こういう人間をデマゴーグともいう.
 
 次に「大皿に盛り付けた料理を各自が取り分けると感染リスクが高くなる」は事実か.
 堀氏の表現《居酒屋のメニューは……》はあまりにも大雑把で理解に苦しむが,言わんとするのは「食事の最中に,感染している会食者から放出された飛沫が大皿の料理を汚染し,この汚染料理を介して未感染の会食者が感染する」ということであろう.このようにきちんと書かなければ何が言いたいのか普通の人には理解できない.老婆心ながら申し上げれば,堀氏はせめて高校生程度に日本語文章力を磨く必要がある.
 で,現在のところ,確からしいとされている新型コロナウイルス感染症の感染経路は飛沫感染と接触感染の二つとされている.
 そしてこれまでに料理そのものや食品 (生で喫食する野菜・果実や鮮魚介類を含む) および食品の包装から新型コロナウイルス感染症に感染したという情報は存在していない.そのことについて書かれた資料を下に列挙する.

[1] WHO (世界保健機構) “Coronavirus disease (COVID-19) pandemic” 
[2] WHO “COVID-19 and food safety: guidance for food businesses Interim guidance” 
[3] WHO “Q&A: Food Safety and Nutrition related to COVID-19” 
[4] WHO 神戸センター;新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関係者向け特設ページ 
[5] 厚生労働省;新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け) 
[6] 厚生労働省;新型コロナウイルスに関するQ&A(関連業種の方向け) 
[7] FDA (米国食品医薬品庁) “Food Safety and the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)”  

 どう見ても堀氏はWHO,FDA,厚労省よりも権威がない.それでもなお「料理を介して感染する」と言い張りたいのであれば,まず前記の三機関の見解を論破し,そののちに「居酒屋で大皿料理を取り分けるのは感染リスクが高い」という突拍子もない独自研究を展開すべきである.
 以上,堀成美氏の「感染症対策」を見てきた.どれもこれも噴飯ものだが,特に「居酒屋では料理が大皿盛りで提供されるために感染リスクが高い」は事実無根であり,居酒屋という飲食店ジャンルを中傷するものだ.堀氏は居酒屋に対して何か恨みでもあるのだろうか.街中華ではない本格中華料理店では,通常は二~三人前くらいの量が大皿で提供されることが多い.あるいはカジュアルなイタリアンのレストランでは,ピザやパスタを何種類かオーダーし,数人でシェアして食べることがよく行われている.堀氏が,それには触れずに居酒屋だけを科学的根拠を示さずに「感染リスクが高い」と誹謗するのはなぜだろう.きっと何か意図があるのだろうが,私たちは堀氏のようなデマゴーグを自分の情報源から排除せねばいけない.

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