Cielito Lindo
齢七十を越した爺様たちは覚えておられるだろうか.
大昔,今は伝説的な連続テレビドラマ (一話完結形式) となっているTBSテレビ《泣いてたまるか》の中に,久我美子さんが出演した回が何度かあった.久我美子の名を聞いただけで,美しく気品あるひとへの憧憬を胸に秘めた少年の日を想い出す爺様は多かろうが,それはまた別の機会に.
ちなみに,日本三大気品女優は,まず原節子,次に久我美子,そして吉永小百合であると言われている.誰が言っているかというと私だ.
その久我美子さんが出演した《泣いてたまるか》の第20話「ある結婚」のBGMに,ラテンの名曲「シエリト・リンド」が使われていたことを覚えているのは私だけだろうか.私は「覚えている」どころか,「シエリト・リンド」を聴くと久我美子さんを思い出すほどである.
昨日,オンラインRPGにPCを接続し,クエストをこなしてレベル上げをしながら,別PCの iTunes で音楽を聴いていた.プレイリストはラテン音楽にしたのだが,暫くすると「シエリト・リンド」が演奏された.私は懐かしさにゲームなんぞは即中止して,iTunes をリピート・モードにして,しばしメロディーを鼻歌で口ずさんだ.
さて,シエリト・リンドの綴りは“ Cielito Lindo ”だから,これを「シエリト・リンド」と発音するか「シェリト・リンド」と言うかが問題となる.(着色強調はアクセントの位置を示す)
そこで手持ちのラテン音楽集CDと YouTube にアップされているものをいくつか聴いてみたのだが,YouTube では,おそらくネイティブ・メキシカンと思われる人たちが歌っている“Cielito Lindo MASECA”,“Cielito lindo”は明らかに「シエリト・リンド」と発音している.
ところが“碧空4/Cielito Lindo シェリト.リンド :演奏 トリオロス.パンチョス”は,コーラスなしだが,YouTube に曲名を「シェリト・リンド」と書いている.探すと他にも「シェリト」はかなりあって,「シエリト」という表記あるいは発音のものと拮抗している.
また日本人のブログ《世界の民謡・音楽 シェリト・リンド Cielito Lind メキシコ歌曲/素敵な人 泣かないで》は「シェリト」としているが,このページ埋め込まれた YouTube の音源では,歌手は「シエリト」と発音しているので,一貫性がない.というか,このブロガーは曲名の発音に無関心なのだろう.
さらに,私の手持ちのラテン音楽CDでは,日本人歌手で「シェリト」と歌っている人がいる.
どうも混沌としているが,ここはネイティブの発音に従って「シエリト」と歌うのがいいと思われる.
さて,テレビドラマ《泣いてたまるか》は,元々は渥美清の主役で始まったのだが,全80話の途中で渥美と青島幸男が交代主役を演じる形となった.しかしすぐ青島が降板して渥美単独主演ドラマとなった.そして後半はまた渥美と中村加津雄が交互に主演する形になった.そのためこの連続ドラマは,見た時期によって,印象が異なるものとなっている.
このドラマは映画『男はつらいよ』の元になった作品として知られているが,リアルで放送されていた時にも大人気を博した.
脚本を書いていたライター達を列記すると以下の通りで,これはすごいとしか言いようがない.映画界から多くの人材が加わったのは,テレビというものがこれから映画に取って代わろうという時代だからであろう.
[脚本家の一部]
野村芳太郎,橋田壽賀子,早坂暁,山田洋次,橋本忍,山中恒,深作欣二,木下惠介,山田太一,早坂暁
この当時のテレビドラマとしては驚くべきことに,渥美清主演作の一部が今もDVDでリリースされている.そしてその中に含まれている第20話「ある結婚」で久我美子さんがヒロインを演じているのである.
まだ還暦を過ぎたばかりなどのお若いかたは《泣いてたまるか》がどんなドラマだったか想像しかねると思うのであるが,ありがたいことに「ある結婚」の一部がニコニコ動画にアップされている.(《渥美清『泣いてたまるか ある結婚』より》)
この回の監督は今井正で,主演は渥美清と久我美子,これに小沢昭一,山東昭子,長山藍子が加わっている.
場面は渥美清と久我美子の二人がバーにいる.久我美子さんの役柄は,戦争で父母弟を失い,婚期を逃して一人で生きている会社員だ.
これまた還暦くらいのお若いかたは実物をみたことはないと思うが,そこに「流し」がやってきて「今晩はー,いかがですか一曲,だんな」と言う.久我美子さんはそこで「流し」に「あれが聞きたい,シェリトリンド」とリクエストをするのだ.
断定するつもりはないが,この当時 (1967年) は,メキシコの歌が広く知られている時代ではなかったはずだ.視聴者はこのメキシコの歌曲を「ある結婚」で初めて耳にしたのではなかろうか.
そこにもってきて久我さんが「シェリトリンド」と言ったものだから,これ以後,シエリト・リンドはシェリト・リンドと呼ばれるようになった.というのが私の遠い記憶である.
シエリト・リンドは,私が高校の吹奏楽部にいた時,わが部の得意がラテンだったので,コンサートでは定番曲だった.だから私は,その曲名がシエリト・リンドだと知っているが,しかしシェリトリンドと呼びたい気もするのである.
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