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2020年9月30日 (水)

無知無教養でもなれる職業

「日進月歩」という熟語のうち,「日進」は,荀子の『天論』篇に起源があるのだそうだ.これが正しいかどうか調べる力が私にはないので,そうなんだろうということにしておく.
 その「日進」が『天論』のどこにあるかもわからぬのだが,センテンスは以下の通りである.(出典)
 
君子敬其在己者 而不慕其在天者 是以日进
 
 この「日进」(日進) に誰かが「月歩」を付けて熟語にしたのだろうが,中国には「日進月歩」の用例がないらしく,日本で作られた造語だと思われている.時代はわからないが,たぶんかなり古いことで,ひょっとしたら江戸期に遡るかも知れないと私は踏んでいる.
 さて時代は現代.1980年代に開発されたパーソナル・コンピュータである IBM PC/AT 互換機のOSがDOSから Windows に取って代わられて以来,パーソナル・コピュータ界はソフトウェアもハードウェアも眼を見張るようなスピードで発展した.
 この頃にパソコン誌で活躍した遠藤諭氏らの技術系ライターたちが,この激しい発展スピードを表現するのに,「日進月歩」をもじって「秒進分歩」という造語を使い始めた.英語の技術用語 dog year と似た意味である.
 しかしやがてパソコン文化は廃れて,若者はスマホがあればいいという世の中になった.
 同時に,その当時にはやった言葉も廃れた.「秒進分歩」も忘れられた.
 だが,かつて「秒進分歩」を聞きかじった人たちが,近年になって「びょうしんふんぽ」の日本語誤変換を訂正せずに使い始めた.
 それが「秒針分歩」である.
 以下に例を二つ挙げる.
 
(1) 《コトバの意味紹介サイト》と題したブログに下に引用する記述がある.スクリーン・ショットとテキストを示す.
20200929b
進捗著しい最近の科学や技術、パソコン関連やネット業界では、日進月歩の上を行く秒針分歩が使われています。
それだけ、進化していくスピードが早いということですね…
 
 上に引用したブログの謳い文句は《言葉の意味を紹介するサイトです。若者言葉、ネット用語、四字熟語やことわざなど、知っているようで知らない言葉の意味について、意味や由来、更に例文を通して使い方を解説していきます》だとのことだが,ちょいと聞きかじった言葉を,よくもまあ恥ずかしくもなく知ったかぶりして解説するものだ.その度胸と無知に感心する.
「秒進分歩」は「日進月歩」を知っていれば意味が推定できるが,「秒針分歩」では意味不明だ.日本語の体を為していない.このような意味不明なことを平気で書くのはバカである.
 
(2) PRESIDENT Online にエコノミストの真壁昭夫という人物が《「甘すぎる本人確認に戦々恐々」デジタル庁の創設で預金不正引き出しは防げるのか》を書いている.下に一部をスクリーン・ショットとテキストで引用する.
20200929d
ドコモ口座以外の電子決済サービスなどでも預金などの不正出金が相次いだ。その状況は、わが国の監督官庁や企業などがIT先端技術を活用する世界標準の十分なノウハウを持たないままネットサービスを導入したことを意味する。IT技術に関するわが国の“ガラパゴス化”と言ってもよい。海外の知人は、「問題発生後の日本企業の対応は不安極まりない」と話していた。
海外では、秒針分歩のスピードで最先端の本人認証技術が開発され、実用化されている。特に、中国の取り組みは目覚ましい。中国では、急速に“フィンテック”が普及した。アリババグループの「アリペイ」やテンセントの「ウィーチャットペイ」は、中国で暮らす人々に不可欠なアプリだ。
 
 実は真壁昭夫氏は法政大学大学院政策創造研究科教授である.しかしこの人は 例 (1) のブログの筆者と同じで,意味不明な日本語を書いても平気なのである.
 日本語IMEの誤変換である「秒針分歩」に対して,「これでは意味不明だ」という違和感を覚える感性があれば,少し調べて「秒進分歩」が正しい熟語だと知ることができるのだが,その程度のことができない知力の持ち主でも大学院の教授になれるのは,まことによい時代である.

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