前からそうだけど,大丈夫かWHO /工事中
AFPBB News《WHO、マスク指針を転換 密接場面で着用推奨》[掲載日 2020年6月6日 05:33] は以下のように報道した.
《世界保健機関(WHO)は5日、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けたマスク着用指針を転換し、ウイルス流行地で対人距離の確保が難しい場合には布製マスクの使用を推奨すると発表した。
WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス(Tedros Adhanom Ghebreyesus)事務局長は会見で「変化を続ける証拠に照らし、WHOは各国政府に対し、広範囲の感染が起き、物理的な対人距離をとるのが難しい公共交通機関や店舗などの密閉環境や混雑した環境では、一般市民にマスクの着用を奨励するよう勧告する」と述べた。
一方で、WHOは新型コロナウイルス感染症の症状がある人は自宅待機すべきこと、また症状のある人やその接触者がどうしても外出する必要がある場合は医療用マスクを着用すべきだという従来の指針は維持した。
WHOはまた、一般向けの非医療用布製マスクについて、材質の異なる布を少なくとも3層重ねた構造にすべきとする新たな指針を公表。内側は吸水性がある綿など、中間層はフィルターとして機能するポリプロピレン製の不織布など、外側は耐水性のあるポリエステルなどを使うよう呼び掛けた。
ただし、WHOの緊急事態対応を統括するマイケル・ライアン(Michael Ryan)氏は、布製マスクはあくまで着用者が他人にウイルスを感染させるのを防ぐためのものであり、自らの感染を予防するものではないと強調した。》
WHOは機能不全に陥っているようだ.
上の記事を読むと,テドロス事務局長とマイケル・ライアン緊急事態統括者は,言っていることが対立しているし,テドロス事務局長はもう支離滅裂である.順を追ってWHOの上の記事を読んでみる.
これまでWHOは,ウイルス感染症に対するマスクの予防効果を否定してきた.否定の仕方にも色々あるが,WHOの主張は「予防効果はない」ではなく「予防効果があるという証拠 (エビデンス) はない」である.この否定方法は,もしマスク否定が間違っていた場合は「予防効果がないとは一言も言っていない.予防効果があるというエビデンスがないと言ったのだ」という具合に,いつでも前言を翻すことができる.だから「エビデンスがない」というロジックで物事を語る人は信用できない.その典型例は,新型コロナウイルス感染症に関するコメンテーターとしてテレビによく登場する元厚生労働省医系技官の木村盛世氏と,神戸大学医学部の岩田健太郎教授だ.二人とも頑強なマスク否定派である.
木村氏はコロナ禍の初期の頃,ウイルスは不織布マスクのフィルターより粒子径が小さいからマスク着用は無意味だと主張していたが,新型コロナウイルスの感染において飛沫感染が重要だと言われるようになったら,今度は「不織布マスクで感染予防できるというエビデンスはない」と,テレビ朝日の《ビートたけしのTVタックル》で述べ,「エビデンスはない」派に転向した.
岩田教授は,日本テレビ《情報ライブ ミヤネ屋》でインタビューに応えた (VTR) 際,私は満員電車の中でも絶対に (不織布製の花粉用) マスクはしない,マスクなんか金の無駄遣いだ,言い切った.また『新型コロナウイルスの真実』(ベスト新書,2020年4月11日発行) の「はじめに」に次のように書いた.(Amazonにも紹介されている)
《例えば、「マスクは必要でしょ」という結論にこだわってしまうと、常に「マスクが大事だ」という情報にしか目がいかなくなります。そのうちに「マスクなんていらない」って言う人は敵だ、みたいなカルトじみた話になってくると、正しく情報が手に入らないで、デマに踊らされるようになってしまいます。》(引用文中の文字の着色は当ブログの筆者が行った)
上の引用中の《「マスクなんていらない」って言う人 》は岩田教授自身を指している.この話は,そもそもの始まりは岩田教授が,マスクをしている人に対して攻撃的発言をしたことが発端であったと記憶している.それがいつの間にか《って言う人は敵だ、みたいなカルトじみた話になってくる 》という風に自分が攻撃された話になっている.まことにお上手である.
話は横に逸れるが,岩田教授のブレ具合について少し以下に触れる.
その当時の岩田教授は,新型コロナウイルス感染症なんてタダの風邪みたいなものだとテレビで言っていた.それが今年三月になると《症状の軽さこそが感染の広がりの原因になってしまう 》《非常に厄介である 》と軌道修正をした.(下に岩田教授の書いた記事を引用する)
《臨床症状は風邪のようなもので、8割は自然に良くなってしまう。そういう意味では怖くない。が、そこが怖いところでもある。インフルエンザと異なり、症状が軽微な本感染症では、多くの人々は罹患しながら外を歩き回ってしまう。症状の軽さこそが感染の広がりの原因になってしまう。
そして、8割が自然によくなるとは、2割はそうではないということを意味している。10人、100人程度の患者数であれば、日本の医療体制で対応は可能だが、中国・武漢のように万単位、それ以上の患者が発生すればそのインパクトは巨大となり、数千人規模の死亡者が出てしまいかねない。非常に厄介である。
非常に厄介ではあるが、本感染症との対峙の方法はほぼ確立している。①きちんとした手指消毒、②長時間の密閉空間共有の回避─だ。我々神戸大学病院感染症内科も毎日開いていたカンファレンスを止めて、変則的な診療体制にシフトした。医局員がみな感染者や隔離対象者になったら大変だからだ。リスクの分散も医療従事者にとって重要なテーマになる。》(日本医事新報社《新型コロナウイルス感染症:非常に厄介だが、対峙の方法はほぼ確立している》) (引用文中の文字の着色は当ブログの筆者が行った)
上に引用した文中では,岩田教授は,治療薬が存在しないという現状であるにもかかわらず,《日本の医療体制で対応は可能 》であると書いている.劇症化した重傷者をどう治療するかは念頭にないかのようである.
そして三月の時点では《本感染症との対峙の方法はほぼ確立している。①きちんとした手指消毒、②長時間の密閉空間共有の回避─だ》と楽天的に構えていたのだが,四月下旬には悲観的な方向に転ずる.DIAMONDonline《日本に残された道はロックダウンしかない理由、神戸大・岩田教授が警鐘》[掲載日 2020年4月28日 5:20] から下に引用する.
《2週間と少し前、政府は「8割の外出をやめることで、2週間後には感染者を大きく減らします」というプランを発表しました。指数関数的な感染者増加、いわゆるオーバーシュートという事態を避けなければならない、と。しかし、欧米と違って日本は、強力なロックダウンという方針は取りませんでした。その後の経過を振り返ると、半分はよかった、しかし半分はダメだったと、私は評価しています。
オーバーシュートは起きていません。これはよかったですよね。ただ、当初のもくろみ通りに患者数をどんと減らせているかというと、これはできていない。少し減ってきていますけれど、大きく減ってはいません。つまり「悪いシナリオは回避できたけれど、良いシナリオにもならなかった」ということです。
東京では、新規感染者数は横ばいに近い推移ですが、これをどう評価すべきか?私は、まずい状況だと考えます。COVID-19(以下、新型コロナ)は、経過が長い病気なんです。軽症者からもなかなかウイルスがなくならないし、重症者も呼吸不全のまま、人工呼吸器につないで何週間も治療しなければならないような長期戦になる。
そんな長期戦の中で、東京だと毎日100人以上の新規感染者が出て、入院者も増えていく。加えて、医者や看護師が感染するという院内感染もあちらこちらで起きています。すると、患者数は増える一方で、医療サイドのマンパワーは減っていく。このダブルパンチが医療崩壊を招きますから、東京の「新規感染者数横ばい」というのは、決して許容できません。やはり大きく減らす必要がある。もっと強力な外出規制を実行しないとダメだということです。
第2波という言葉も出てきていますが、日本の場合、第1波すら抑え込めていません。こんな状況で、感染者が非常に少ない地域限定ならともかく、全国一斉に緊急事態宣言を解除するなどということは考えられないでしょう。しかし、「延長する」というのも違う。私は「もっと強力なロックダウンをする」という方針に転換すべきだと考えます。
ロックダウンこそが経済を救う
――欧米並みのロックダウンは経済を破壊してしまう、と躊躇する声もあります。
いえ、私は「強力なロックダウンを短期間集中して行う」ことこそが、経済を救うと思いますよ。武漢は集中してロックダウンを行い、比較的短期間で感染封じ込めに成功しました。イタリアやスペインなども感染者数が大きく減ってきた。しかし、日本のように「不要不急の外出は極力控えるように…」などという、ゆるいやり方をすると、延々とそれを続けなければなりません。こちらの方がよほど、経済に悪影響を及ぼします。短期間に強いロックダウンを行って、その間は政府が全力で企業や国民に経済支援などを行う。これが一番、経済にとってはダメージが少ないはずです。》(引用文中の文字の着色は当ブログの筆者が行った)
上に引用した記事が執筆された時点では,東京都の感染はどうやらオーバーシュートを回避できたようであった.それは,都民の外出自粛が不十分な中で厚労省クラスター対策班を指揮した東北大学の押谷仁教授と北海道大学の西浦博教授ら諸先生方の戦略 (クラスター潰し) と実践力の成果であると考えられるが,岩田教授はこれについて《ゆるいやり方 》だと政府厚労省を批判し,《武漢は集中してロックダウンを行い、比較的短期間で感染封じ込めに成功しました 》《私は「もっと強力なロックダウンをする」という方針に転換すべきだと考えます 》と主張した.政府も識者も「日本の法制下ではいわゆるロックダウンは不可能である」と説明しているにも関わらず,である.
ところがこれ以後,東京都の新規感染者数は減少に転じた.すると岩田教授は《「もっと強力なロックダウンをする」という方針に転換すべきだ 》と言わなくなった.むしろ,京都大学の藤井聡教授による厚労省批判 (「新」経世済民新聞《【藤井聡】【正式の回答を要請します】わたしは、西浦・尾身氏らによる「GW空けの緊急事態延長」支持は「大罪」であると考えます。》) に対しては藤井教授に反論する側に回った.この右へ左へのブレ具合,まことにお見事である.
閑話休題.『WHOがマスクに関する従前の見解を「アップデート」(訂正や修正ではない) し,一般市民にマスク着用を推奨した』という件に戻る.
冒頭に掲げた日本語ニュースだけではわかりにくいので,この件を報道したCNNの《WHO calls on nations to encourage the public to wear fabric face masks where coronavirus is spreading 》も参照する.(原文URL)
CNNによると《Tedros added that the new guidance was updated based on evolving evidence.
"Our updated guidance contains new information on the composition of fabric masks, based on academic research requested by WHO," Tedros said.》である.すなわち布製マスク (fabric masks) に関するWHOの新指針 (the new guidance) は,WHOの要請によって行われた学術研究 (academic research) に基づく新しい情報を含んでいるとテドロス事務局長は語った.
だがしかし,テドロス事務局長が言うところの学術研究がどこの誰によって行われたのかは,当ブログの筆者は調べたが不明である.
しかし村中璃子さんによると,これは THE LANCET (世界五大医学雑誌) に掲載 (Published:June 01, 2020) された“Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person-to-person transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: a systematic review and meta-analysis”だとのことである.(原著論文のURL:当ブログ筆者はまだ精読していない ^^;)
ちなみに村中璃子さんはマスクの効果について,岩田教授や木村盛世氏のように「エビデンスがない」という硬直的な思考停止で片づけていない.というのは日本のように使い捨て不織布マスクを着用する習慣が定着している国は珍しいのであるから,明確なエビデンスがないのは当然なのである.つまりエビデンスがないことは否定の根拠にならないのだ.
そこで村中さんはFacebookに次のように書いている.《世界中で注目されている日本の使い捨てマスクの習慣。ますます注目が集まる日本の使い捨てマスク。マスクが感染を広げるのを防ぐ効果は分かっているが、感染から防ぐ効果ははっきりしていない。欧米では布マスクが主流のなか日本がそれを証明する日が来るかもしれない。今日のニューヨークタイムズ「マスクの習慣が日本を救ったのかもしれない」》
さてWHOの新指針のどこが「新」なのかを見てみよう.
従前の見解から変更がないのは,この記事の冒頭のAFPBB Newsによれば次の点である.
(a) 新型コロナウイルス感染症の症状がある人は自宅待機すべきである.
(b) 症状のある人やその接触者がどうしても外出する必要がある場合は医療用マスクを着用すべきである.
(a) の「自宅待機 stay home」については説明不要だろう.既に症状が出ている人は stay home すべきであるとWHOは言う.
(b) の医療用マスクは説明が必要だ.マスクは一般的に三つに分類される.(1) 防塵マスク,(2) 医療用マスク,(3) 家庭用マスクである.
このうち防塵マスクは産業界で使用されるもので,日本では厚生労働省が「防じんマスクの規格」を定めているがこれは説明を割愛する.
米国には,米国労働安全研究所が認定するN95マスクがあり,製品には認証番号が付けられる.このN95マスクは元々は防塵マスク規格であるが,医療機関で感染防止に用いられることも多くなっているため,最近では医療用マスクの一つとされているようだ.
医療用マスク medical mask は一般的にはサージカルマスク surgical mask という.サージカルは「外科の」で,外科手術の時に外科医等が着用する.医師の飛沫や汗が患者を汚染しないように,また逆に患者の血液などが医師を汚染しないようとの目的で使用される.ただしクリニック等で診察を行う際にも医師が着用するので,サージカルマスクよりもメディカルマスクと呼ぶほうが好ましいだろう.上に示したCNNニュースでも,WHOは 医療用マスクを medical mask と呼んでいる.(日本ではこの種のマスクの呼称と性能に関する法的定めはないため,マスクのメーカー間で説明に齟齬がある)
サージカルマスクには米国に性能を示す指標がある.概略をWikipedia【マスク】から下に引用する.
《マスクの性能を表す指標としてBFE(細菌濾過効率、Bacterial Filtration Efficiency)とPFE(微粒子濾過効率、Particle Filtration Efficiency)がある。前者はマスクによって細菌を含む粒子(平均粒子径3.0±0.3マイクロメートル)が除去され患者への飛沫を防ぐ割合(%)、後者は試験粒子(0.1マイクロメートルのポリスチレン製ラテックス球形粒子)が除去され、装着者へ影響が出ない割合(%)のことである。アメリカ食品医薬品局(FDA)では、サージカルマスクの基準をBFE95%以上と規定している。》
米国におけるサージカルマスクを巡る状況は知らないが,日本ではもちろん医療用マスクは医療資材販売ルートで医療機関等に供給されており,家庭用マスクのうち花粉症対策用として販売されている不織布マスクの一部は,FDAの基準に準じているようだ.
当ブログの筆者が備蓄している花粉症
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