間歇消毒常備菜
コロナウイルス禍の中で巣ごもりしていると,テレビの料理番組を観るのが楽しみである.料理ジャンルの長寿番組の一つである《上村恵美子の おしゃべりクッキング》では,曜日がわりで辻調の三人の先生と上沼恵美子さんが,料理を作ってみせてくれる.この番組の最大の特徴は,料理の先生よりもアシスタントである上沼さんのほうが大物だという点にある.
もう一つの特徴は,上沼さんがソーシャル・ディスタンスなんぞまるで無視していることである.これは,番組のコンセプトからすればきっとそうなるところで,料理をしている先生の横でおしゃべりしていなけりゃ上沼さんがアシスタントである意味がない.これは,コロナ禍のもとでも以前と変わらぬスタイルの番組を作るんだ,という上沼さんの見識なんだろう.
対照的なのは土井善晴さんの《おかずのクッキング》だ.テレ朝アナウンサーの堂真理子さんはアシスタントというより,土井先生から二メートル以上離れて,料理の実況放送をしている.
上の写真にあるように,これが料理番組の出演者としては限界の「距離」だろう.これだけ離れると堂真理子さんは,調理する土井先生の手元を肉眼でなくモニター画面で見ざるを得ないから,二人ともやりにくそうである.
しかし実用料理番組というコンセプトを捨てれば,実際のキッチンから離れて,リモート出演で番組を構成することができる.代表例は《家事ヤロウ !!》だ.
現在は,過去の放送をリモートに編集し直して再構成しているが,元々がおもしろい企画だったので,総集編でもかなり楽しめる番組に仕上がっている.
さてこの《家事ヤロウ !!》の特筆すべき点は「名前のある料理」は登場しないことで,有名無名の人たちが発作的に考案した「名もない料理」がたくさん紹介される.「名もない料理」というのは例えば,納豆とスパムとレタスを入れて牡蠣だし醤油で味付けしたチャーハンであり,これは説明的に「牡蠣だし醤油の納豆スパムレタスチャーハン」(《家事ヤロウ !!》で紹介されている) としか呼びようがない.
江戸料理の一つ「深川飯」と聞いても,食べたことがない人はどんなもんだか想像できないが,「タラの芽の天ぷら」ならどんな料理であるか明快だ.
中国料理では基本的に,料理名は「材料名+料理法」から成っている.麻婆豆腐のような固有名詞は少ない.日本の「おかず」も同じで,こういうのが「名もない料理」だ.
そこで先日の「しらたきの常備菜」に続いて,「名もないおかず」をもう一つ紹介する.「ベーコンとシメジと卵の炒め物」だ.
これは特にレシピを書くまでもないもので,まずシメジ (ブナシメジ,一パック) をフライパンで炒めて軽く塩胡椒する.次にベーコン (フルサイズの薄切りを五,六枚) を投入してさらに炒める.ベーコンから油が融け出てきたところでシメジとベーコンをフライパンの片側に寄せ,あいたところに鶏卵二個を入れてスクランブルする.つまり塩味をつけるのはシメジだけでよい.
こんな変哲もないおかずをここで紹介したのは,これが「しらたきの常備菜」と同じく,日に一度,百度近くまでレンチン加熱する (達温90℃という) ことにより,大量に作ってもかなり日持ちするようになるからだ.
実際のやり方は,作った料理を耐熱容器に入れてフタをし,フタの隙間から激しく水蒸気が漏れ出てくるまで電子レンジ加熱する.加熱後に室温で粗熱をとったら冷蔵庫に入れて冷やす.
冷蔵と日に一度のレンチンを繰り返すのを「間歇消毒法」という.シメジには一般的な細菌がたくさん付着しているが,最初の達温90℃でこれは死滅する.しかし農産物に必ず存在する耐熱性菌は芽胞 (休眠型菌体) 残して生き残る.
一日保存すると,生き残った芽胞が通常の菌体 (増殖型菌体) に変化して活動を開始する.ここで二度目のレンチンをすると,増殖型菌体の多くは死滅する.一部は芽胞を残して生き残るが,その数は加熱前よりも減っている.
この操作を繰り返すと,料理中の菌は減り続ける.これを私は勝手に常備菜的無菌と呼んでいる.ただし加熱によって水分が失われるので,加熱時に少し水を足してやる.
缶詰・瓶詰やレトルト食品は,完全無菌ではないが年単位の保存が可能で,これは商業的無菌と呼ばれている.実用上は無菌と呼んでも差し支えないというほどの意味だ.
家庭で常備菜と呼ばれる料理は,冷蔵庫で数日から一週間程度も保存できればいいだろう.私が考案する常備菜は一週間の冷蔵を目標に作っている.
ところが,どんなおかずでもレンジ加熱を繰り返せば記述「しらたきの常備菜」と「ベーコンとシメジと卵の炒め物」のように日持ちする常備菜にできるかというと,そうでもない.食感が劣化してしまうからである.
その例として,レトルトの麻婆豆腐の素と豆腐だけ (つまり材料に由来する菌数を可及的に減らすために,挽肉もネギも入れない) で作った麻婆豆腐はレンジ加熱を繰り返せば確かに日持ちはするが,加熱を繰り返して食べると豆腐の食感が悪くなり,まずくなるのでので常備菜にはできない.
次回は,レンジ加熱を繰り返さずに日持ちするおかずを作ってみる.
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