« 手指の消毒 | トップページ | アルコール消毒について /工事中 »

2020年6月11日 (木)

WHOの「組織の論理」

(1) CNN co.jp《新型コロナ、無症状者からの感染は「まれ」 WHO疫学者》[掲載日 2020年6月9日 11:35]
 
新型コロナウイルスが無症状の感染者からうつるケースは「まれ」だとする見解を、世界保健機関(WHO)の疫学者、マリア・バンケルコフ氏が発表した。
 バンケルコフ氏は8日、ジュネーブでの記者会見で、患者の接触先を詳細に追跡している複数の国の報告には、感染しても全く症状が出ない例が含まれていると説明。こうしたデータからみて、無症状の症例からさらに別の人へ感染がひろがったケースはめったにないようだと述べた。
そのうえで、症状のある人だけを全員追跡して接触者を隔離すれば、感染数は劇的に減らすことができるはずだと語った。
 また無症状とみられた感染者を改めて調べると、典型的な発熱やせき、息苦しさなどの症状はなくても、実際はごく軽症のケースであることが多いと指摘した。さらにこの時点ではまだ潜伏期で、後になってから症状が出る可能性もある。
 これまでの研究では、潜伏期間中でも発症の2~3日前から周囲に感染する可能性があると報告されている。米疾病対策センター(CDC)によると、感染の4割は発症前に起きていると推定される。
 英ケンブリッジ大学病院で感染症部門の顧問を務める中国・清華大学医学部の調査責任者、ババク・ジャビッド氏は8日、科学情報の正確な報道を推進する英NPO(非営利組織)サイエンス・メディア・センターを通した声明で、無症状者と発症前やごく軽症の感染者を区別することが重要だと強調した。
 同氏によると、台湾での接触追跡やドイツで報告された欧州初の感染例から、無症状感染者からうつることはまれだが、軽症者からの感染はあり得ることが分かっている。特にドイツの例では、感染の多くが発症前または当日に起きることが示されたという。

(2) Bloomberg《【新型コロナ】米感染者増加率、3月以来最低に-南アジアで感染急増》[掲載日 2020年6月10日 6:18]
 
《……
 無症状感染者が新型コロナを伝染させることは「極めてまれだ」との見解を8日示した世界保健機関(WHO)の疫学者、マリア・バンケルコフ氏は9日、発言について釈明。ソーシャルメディアを通じた公開イベントで質問を受け、結果が公表されている「研究のごく一部」に言及したにすぎないと回答し、「質問に対しての回答であって、WHOの方針を述べたわけではない」と語った。
 ……

 
(3) REUTERS《新型コロナ、最も感染力が強いのは発症時か WHOが指摘》[掲載日 2020年6月10日 4:09]
 
世界保健機関(WHO)の専門家は9日、新型コロナウイルス感染症の初期症状が現れる時期にウイルスの感染力が最も強いことが、ドイツと米国による研究の暫定結果で示されたと述べた。
 専門家はこれが感染拡大の抑制を困難にしている一因と指摘。同時に、検査の徹底やソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)実施によって抑制は可能とした。
 WHOの伝染病学者マリア・ファン・ケルクホフ氏は「非常に限られた情報に基づくと、症状の出始めもしくはその前後、つまり非常に初期の段階に患者に多くのウイルスが潜んでいるようだ」と述べた。
 WHOで緊急事態対応を担当するマイク・ライアン氏は、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)のウイルスと異なり、新型コロナウイルスは上気道に付着するため、飛沫感染しやすいと指摘。「感染性病原体が上気道に存在することで、具合が悪くなり始めた段階に体内に潜むウイルス量がピークに達する可能性がある」と述べた。
 ケルクホフ氏はさらに、症状が軽い感染者からは最長8─9日間にわたり感染しやすく、「重度の感染者ではより長い期間になる可能性がある」とした。
 また、無症状の感染者からうるるケースは「極めてまれ」という見解を前日に示したことについては、「伝染の40%が無症状感染者による可能性があると試算されているが、これは数理モデルによるものだ」と説明。その上で、無症状者からうつる可能性はあると述べた。

(4) NHK《おはよう日本》[放送日 2020年6月10日 7:00~]
20200610e
(1)~(3) までの記事ではマリア・バンケルコフ (ロイターの記事ではファン・ケルクホフと表記) Dr.Maria Van Kerkhove 氏が何者かは不明であったが,NHKニュースでは技術責任者という肩書になっている.
 この技術責任者の地位がよくわからない.大抵の場合,英語で「部門長」は Chief がポスト名に付く.技術部門の長であれば「最高技術責任者 Chief Technology Officer (CTO)」というわけだ.そこでマリア・バンケルコフ氏の英語の職名を調べたら one of the WHO's top epidemiology experts であるという.ま,下っ端ではないが,あまり上級の役職者ではなさそうである.[6/11追記;Bloombergには新興疾患・人獣共通感染症部門責任者であると書かれている]
 そのマリア・バンケルコフさんは8日 (ジュネーブ) の記者会見で,新型コロナウイルスが無症状の感染者からうつるケースは希だとする見解を述べた.
 ところがこれは,これまでに中国の感染拡大期に武漢から報告された情報とも,米疾病対策センター (CDC) が感染の4割は発症前に起きていると推定しているのと真っ向から食い違う見解である.日本の感染症専門家の多くも,中国と米国の見解を支持している.
 しかし彼女が突拍子もないことを突然言い出したかと言うと,そうでもない.彼女の言い分は,ウイルスを周囲に放出している感染者が一見すると無症状のように見えても,実は激しい症状に変化する寸前なのだと考えられる,ということだ.資料(1) の彼女の言葉を再掲すれば「症状のある人だけを全員追跡して接触者を隔離すれば、感染数は劇的に減らすことができるはずだ。また無症状とみられた感染者を改めて調べると、典型的な発熱やせき、息苦しさなどの症状はなくても、実際はごく軽症のケースであることが多い。さらにこの時点ではまだ潜伏期で、後になってから症状が出る可能性もある」だ.
 この彼女の考えは,実は非常に常識的で論理的なものである.なんとなれば,無症状すなわちウイルス感染した上気道の細胞組織が全く炎症等のダメージを受けていないのに,ウイルスだけが盛大に増殖して体外に放出されるなんてことが論理的にあろうはずがないからである.
 資料(1) には《英ケンブリッジ大学病院で感染症部門の顧問を務める中国・清華大学医学部の調査責任者、ババク・ジャビッド氏は8日、科学情報の正確な報道を推進する英NPO(非営利組織)サイエンス・メディア・センターを通した声明で、無症状者と発症前やごく軽症の感染者を区別することが重要だと強調した。同氏によると、台湾での接触追跡やドイツで報告された欧州初の感染例から、無症状感染者からうつることはまれだが、軽症者からの感染はあり得ることが分かっている。特にドイツの例では、感染の多くが発症前または当日に起きることが示されたという》と書かれている.
 また村中璃子さんはこの件について《発症しない無症状と潜伏期の無症状は分けて考えよ》とFacebookで述べ,「発症しない無症状者の感染力はほぼゼロ」というマリアさんの意見を支持している.さすが在野の医師ではトップクラスの知性の持ち主である村中璃子さんだ.マリア・バンケルコフさんも大変まっとうな知性の持ち主である.これが資料(1)のCNNの報道時点のことである.
 ところがしかし,マリア・バンケルコフさんやババク・ジャビッド氏や村中璃子さんのように「発症しない無症状と,潜伏期の無症状は別だ」と論理的に考えることができない人々が,マリアさんを追及した.そのためマリアさんは《伝染の40%が無症状感染者による可能性があると試算されているが、これは数理モデルによるものだ 》と説明した.《数理モデルによるものだ 》は,数理モデルで得られた結果は,必ずしも事実であることを保証しない,という意味である.数理モデルにおいて「時間が経過しても発症しない無症状感染者」と「いずれ発症する潜伏期の無症状感染者」を区別せずに,一緒くたに「無症状感染者」として扱えば,当然のことながら「無症状感染者から感染する」という結果になる.前提条件が異なれば結果は異なってくるのが,モデルを用いる思考の特徴だ.従って用いる前提条件の真偽が実際のフィールドで確かめられねばいけない.
 だが非論理的な同調圧力に,学術的信念がたじろいだのだろうか,マリアさんは《無症状者からうつる可能性はある 》と少し後退した.これが資料(3)のロイターの記事である.
 おそらくここで,中国にこれまで右顧してきたWHO幹部は,最大の資金源の機嫌を損ねたくないための忖度であろう,今度は米国に左眄することにした.つまり明らかにWHOはマリアさんの主張を,数日前にテドロス事務局長がスピーチしたWHOの公式見解に同調するよう変更させた.これが上に示したNHKニュースで報道された場面,すなわちマリアさんが自分の考えを捨てて屈服したシーンである.
 
バンケルコフ氏 (WHO技術責任者)
無症状感染者も,症状ある感染者に近い割合で周囲に感染させている可能性 見方示す
無症状の人でもウイルスをうつすことがある
感染の約40%は無症状の人からうつされたものとする推計もある
 
 上の引用はNHKニュースの画面に示されたテロップである.
 マリアさんの発言《感染の約40%は無症状の人からうつされたものとする推計もある 》は米国 (CDC) の主張を指している.
 マリアさんは意に反してCDCに同調させられたのである.誰に?
 テドロス事務局長以外にないと考えるのが自然だろう.これが組織の論理というものだ.

|

« 手指の消毒 | トップページ | アルコール消毒について /工事中 »

新・雑事雑感」カテゴリの記事