転売禁止は絵に描いた餅だ
現在,マスクの転売は禁じられているが,その法的根拠は昭和四十八年の物価高騰時に制定された「国民生活安定緊急措置法」である.適用される条文は,物資の販売制限または禁止を定める第二十六条であるとされた.
第二十六条 物価が著しく高騰し又は高騰するおそれがある場合において、生活関連物資等の供給が著しく不足し、かつ、その需給の均衡を回復することが相当の期間極めて困難であることにより、国民生活の安定又は国民経済の円滑な運営に重大な支障が生じ又は生ずるおそれがあると認められるときは、別に法律の定めがある場合を除き、当該生活関連物資等を政令で指定し、政令で、当該生活関連物資等の割当て若しくは配給又は当該生活関連物資等の使用若しくは譲渡若しくは譲受の制限若しくは禁止に関し必要な事項を定めることができる。
2 前項の政令で定める事項は、同項に規定する事態を克服するため必要な限度を超えるものであつてはならない。
そしてこの二十六条を適用するにあたって「国民生活安定緊急措置法施行令の一部を改正する政令」が閣議決定された.
この改正は,マスク転売を禁止する条項を追加することで行われた.
(法第二十六条第一項の政令で指定する生活関連物資等)
第一条 国民生活安定緊急措置法 (以下「法」という。) 第二十六条第一項の政令で指定する生活関連物資等は、衛生マスクとする。
(衛生マスクの転売の禁止)
第二条 衛生マスクを不特定の相手方に対し売り渡す者から衛生マスクの購入をした者は、当該購入をした衛生マスクの譲渡 (不特定又は多数の者に対し、当該衛生マスクの売買契約の締結の申込み又は誘引をして行うものであつて、当該衛生マスクの購入価格を超える価格によるものに限る。) をしてはならない。
だがこれでマスクの転売が禁止できると考えた安倍首相の頭の中は,昭和四十八年のままだった.「戦後レジームからの脱却」を主張した宰相の頭の中が戦後のままだったというのは,悪い冗談だ.
要するに戦後の社会を前提とした法令ではマスク転売を禁止できない.なぜなら,この古い法と政令は実店舗を有する業者がマスク転売を行った場合にしか効力を発することができないからである.
周知のようにマスク転売はネットを舞台にして行われた.そしてネットでマスクを売る転売屋がどこの誰であるかを特定することは警察には不可能である.知っているのはプラットフォーム (アマゾンや楽天やフリマ業者) の運営企業だけであるが,それらのプラットフォームに対する捜査権限は地方警察にはない.権限があるとすれば生活物資の所管官庁である経済産業省だが,ネット上の転売屋の取り締まりをするマンパワーはないだろう.経産省は産業育成官庁であって取り締まり官庁ではないからだ.
結局のところ,法令は作ったが実効性がないのである.絵に描いた餅だ.その証拠に,一件もマスク転売屋は摘発されていない.言葉 (法) を作れば国民皆が法に服すると考えるのは言霊思想である.どこの誰が転売屋を摘発するのか,それが不明なのだから,「国民生活安定緊急措置法施行令の一部を改正する政令」は全く無駄な政令だったのである.これは,実行よりも言葉を大事とする安倍晋三の思想をよく反映しているといえる.
では,ネット上からマスクの転売屋が消えた (かのように) 見えるのはなぜか.
以前の転売屋のマスク相場価格を下回る価格で,中国製マスクが店頭に現れたからである.最近は商店街の八百屋とか洋服店でマスクを販売しているが,これは中国野菜や中国製のアパレルを扱う輸入業者の仕入れルートから出てきたものだ.価格からして転売屋から流れてきたものではないとされる.
ならば跳梁跋扈した転売屋は駆逐されたのか.そんなわけがない.
彼らの戦場はもうマスクではないのである.次の画像はAmazonの商品ページである.
右川の出品者一覧にあるのが転売屋であることは歴然としている.「ビオレu手指の消毒液」が驚くなかれ送料込みで七千円なのだから.
こんなことになっていることは,内閣はもちろん経産省も知るまい.知る気もないだろう.
仮に消費者団体が声を上げて,また政令でハンドソープの転売を禁止しても,マスクと同じ経過をたどることになるだろう.
では,正当な価格で消費者が必要とするものを買えるようにするにはどうしたらよいか.
プラットフォームを処罰するようにすればよいのである.そのように法令を整備すれば,さしものAmazonもあくどい商売 [*註] はできないようになる.転売屋たちがAmazonや楽天に出品できなくなれば,商品は本来の薬局薬店ルートで販売される形に戻る.フリマは転売の主戦場ではないし,消費者が相手にしなければ自然に先細る.
こんな簡単なことを実行できないのは,政府にやる気がないからだ.事はそれに尽きる.
[*註]
米通商代表部(USTR)は29日,米アマゾン・ドット・コムが運営する通販サイトを悪質市場に認定した.(日経《米、アマゾンの外国サイトを「悪質」認定 偽物販売で》)
USTRが「悪質」と認定した通販サイトに日本は含まれていないが,転売屋に場所貸ししている点で充分に悪質である.
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