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2020年4月12日 (日)

ウイルスと米中の軍事バランス

 紙媒体の新聞と比較してネットニュースが決定的に劣る点は,目視で全体を把握できないことである.
 その欠点があらわになるのは国際ニュース,特に軍事分野だ.
 少し前のことだが,共同通信社から《感染者続出の空母、艦長を解任 SOSメール、部外者にも》[掲載日 2020年4月3日 7:09] がひっそりと報道された.うっかりすると見落としてしまいそうな記事だった.
 
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 記事にあるモドリー長官代行は,電子メールの打ち方も知らぬクロージャー艦長をバカだチョンだと罵ったが後の祭りで,世界最大の軍艦であるニミッツ級航空母艦の四番艦である原子力空母セオドア・ルーズベルトが機能を一時的に停止したことを世界中に知らしめた.
 一方,米国との覇権争いを繰り広げている中国は,日本の新聞メディアは全く報道しなかったが,武漢で新型コロナウイルスが猛威を奮い始めてからあと,感染のピークを過ぎるまで,感染対策の表に出ていたのは李克強首相で,習近平の動向がよくわからなかった.
 しかしこの時期,中国の軍事行動が活発化していたことからすると,習近平はその指揮を執っていたと思われる.
 その推測根拠として,今年に入ってから三月にかけて,沖縄県尖閣諸島沖で中国海警局の「海警」が繰り返し日本の領海を侵犯したことが挙げられる.
 日本領海の侵犯に続いて,次に中国はベトナムに対する挑発を始めた.四月の初め,ベトナムが領有権を主張する海域で中国はベトナムの漁船を攻撃沈没させたのである.(下のスクリーンショットは,NHK NEWS WEB, 2020年4月4日 7:24)
 
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 今や第二次大戦後最大最強の独裁国家となり,領土的野心を隠そうともしない中国は,ベトナム漁船を沈没させたあと,今度は西沙諸島に作った拠点に軍用機を着陸するという危険な挑発を行った.
 これに対して米国は《世界が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)と闘う中、米国務省は6日、中国が南シナ海(South China Sea)で調査基地と称する拠点に特殊軍用機を着陸させたとして、感染流行の危機を利用し同海域への進出を拡大しないよう 》警告した.(AFP BB NEWS《「中国の南シナ海領有権主張、『コロナ禍利用するな』 米が警告」》)
 このように習近平が,中国国民の生命をそっちのけにして軍事ゲームに興じているまさにその時,セオドア・ルーズベルトが任務から離脱した.習近平の高笑いが聞こえるようだ.
 
 話は少し横道に逸れるが,食品工場を新設する時は,製造工程を,食中毒菌による汚染を容認する製造工程 (汚染区) と,容認しない製造工程 (非汚染区) に区分する.
 次に作業員 (ヒト) の移動経路 (=動線) が,必ず「非汚染区→汚染区」という一方通行となるように建屋全体を設計する.これは結構難しいパズルで,すぐ近くにある場所に行くのに,大回りを強いられることもある.
 これと対照的なのがクルーズ船や一般のビルの設計である.病院の一般病棟もこの範疇に入る.
 クルーズ船は,乗客が自分の部屋からどこにでも行けるように設計する.例えばプールへ行く時,途中でバーを通らなければ行けないということのないように設計する.
 会社のビルでも同じだ.営業部へ行きたいのに,途中で人事部を通過しないと行けないのでは困る.
 しかし,ある場所からある場所へ直接アクセスできるようにすることと,通路が一方通行であることとは両立しないことが多く,そのため食品工場を建設する時は,最初からヒトの動線が「非汚染区から汚染区へ一方通行となる」ように建屋自体を設計する.言い換えると,この条件を考慮せずに作られている一般のビルや船舶は,食品工場に転用ができない.
 食中毒菌は飛沫として空気中を移動しないから,それでもまだ食品工場の建屋に要求される条件は緩いが,感染症病棟の場合は困難を極めるだろうと容易に想像がつく.
 神戸大学医学研究科感染症内科の岩田健太郎教授がクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に無断侵入した時,「ウイルスがまったくない安全区域 (グリーンゾーン) とウイルスがいるかもしれない区域 (レッドゾーン) を船内で明確に区別 (註;これを「ゾーニング」という) していないため,感染対策は悲惨な状態だ」という趣旨のことを,外部へ動画 (既に削除) を発信して告発した.(BBC News《感染症の専門家、客船内の感染対策を批判 BBCが取材》[掲載日 2020年2月20日])
 岩田教授の告発動画を観た食品産業界の技術者は,全員が唖然としただろう.「この教授は,くわせ者に違いない」と.
 なぜなら,一般のビルや船舶の内部は元々,ゾーニングできないように設計するからである.すなわちこの種の空間は,A地点とB地点を結ぶ経路は双方向であることを基本とする.これは「ヒトの動線がグリーンゾーンからレッドゾーンへ一方通行となる」空間の設計思想と矛盾する.つまりダイヤモンド・プリンセスの中は,わざわざゾーニング不可能になるように作られているのである.
 感染症専門家がゾーニングの理論を知らぬわけがないから,岩田教授は,船舶のような構造はゾーニング不可能であると知りながら,「ダイヤモンド・プリンセスの中はゾーニングできていないため,感染対策は悲惨な状態だ」という趣旨の告発を行ったことになる.「自分なら,もっとうまくやれる」という宣伝がしたかったのだろうと思われる.
 だがこの「俺が俺が」アピールは,船内で活動していた医療従事者や感染症専門家の強い反発を招いた.おまけに岩田教授の侵入を手助けした者と仲間割れし,結局,件の動画を削除する破目になった.そして動画削除後はこっそりと主張を変えた.
 
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 上のスクリーンショットは東洋経済ONLINE《岩田健太郎「非科学的なコロナ対策が危ない」 》[掲載日 2020年3月12日 5:30] の一部だが,内容的には白鴎大学の岡田教授が新型コロナウイルス禍が始まった頃からテレビで言っていたことと同じだ.しかし当時,岩田教授は日テレ《ミヤネ屋》に出て「(岡田教授は) 感染症対策の基本がわかっていない」と罵倒していたはずだ.それがいつの間にか掌返しをしていた.私たち民間企業における微生物管理の技術者たちは「くわせ者はどこまでも,くわせ者なんだね」と語り合ったものだ.
 
 閑話休題.米海軍のことに戻る.
 下表は現在就役中のアメリカ海軍原子力航空母艦である.
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【ニミッツ級】
 ニミッツ                 1975年 5月 3日就役
 ドワイト・D・アイゼンハワー        1977年10月18日就役
 カール・ヴィンソン            1982年 3月13日就役
 セオドア・ルーズベルト          1986年10月25日就役
 エイブラハム・リンカーン         1989年11月11日就役
 ジョージ・ワシントン           1992年 7月 4日就役
 ジョン・C・ステニス            1995年12月 9日就役
 ハリー・S・トルーマン           1998年 7月25日就役
 ロナルド・レーガン            2003年 7月12日就役
 ジョージ・H・W・ブッシュ         2009年 1月10日就役
【ジェラルド・R・フォード級】
 ジェラルド・R・フォード          2017年 7月22日就役
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 上記の米空母11隻のうち,セオドア・ルーズベルトの他に,ニミッツ,カール・ビンソン,ロナルド・レーガンの四隻で,乗組員が新型コロナウイルスに感染しているという.他の艦船 (原潜) については不明である.
 空母は,化学兵器や生物兵器等の攻撃を防御するために,船内の各部屋は陽圧にしてある.部屋の中の空気は通路などの共有部分に排気され,毒物や病原体が部屋に侵入しないようにしてあるわけだ.
 ところがこれは,艦内のどこかに病原体感染者が発生した場合,すべての通路が汚染されることを意味している.
 セオドア・ルーズベルトは,ダイヤモンド・プリンセスよりもさらにウイルス感染に弱いのである.
 原潜に至っては,海面下を航行中は,換気自体が行われない.艦内を循環しているだけだ.
 従って,一人の感染者が出たら,ひとたまりもなく全体が感染してしまうのである.
 
 さて実は一昨日,中国海軍クズネツォフ級空母「遼寧」を含む艦艇6隻が沖縄本島と宮古島の間を通過し,太平洋に出た.
 領海侵犯せずにおとなしく通過していったというのだが,中国は太平洋で何を意図しているのか.
 なんとなく私には,米海軍の新型コロナウイルス感染状況を探りに行ったように思われる.
 新型コロナウイルスが,太平洋における米中の軍事バランスに微妙な影響を与えているのだろう.

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