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2020年4月 5日 (日)

アンチ小池

 小池東京都知事は敵の多い人のようで,政界でもメディアでもアンチ小池がやたらに多い.小池知事の思想的政治的基盤はガッチガチの保守であるのに,なぜ保守党にまで嫌われるのか.過去の政治家としての遍歴や発言をWikipediaかなんかでずーっと読んでみると,嫌われる理由が何となくわかるような気がする.たぶん自民党の爺さんたちは小池知事が傍に来ると,最近の言葉で言うと「生理的に無理」というやつで,イラっとするんじゃないかと思う.四年前の都知事選の時に石原慎太郎が小池知事を「大年増の厚化粧」と罵倒したが,老齢で前頭葉が衰えるとブレーキが利かなくなって,こういう生理的嫌悪感丸出しの悪口が口をついて出るようになる.我々年寄はよくよく心せねばならぬことである.
 小池都知事を都知事選挙で倒せる人材を持たぬ安倍首相も,おもしろくなかろう.小池知事が官邸に出向いて,安倍首相に新型コロナウイルス関係の報告と要望具申に行くと,二人並んでいるところをテレビメディアが撮影するわけだが,その際の安倍首相の仏頂面があからさまで失笑ものだ.
 
 余談だが,安倍のポチ 安倍首相御用達評論家である田崎史郎がテレビ朝日《羽鳥慎一モーニングショー》に出て,小池さんのコロナ対策は後手ばかりだ,と非難したが,田崎史郎がどう嘘をつこうが,都の対応が遅いように見えるのは実は厚労省の妨害によるものだということくらい国民は知っている.
 東京都と大阪府が,感染者を入院させる病床が足りなくなるので,民間の宿泊施設 (ホテル等) に軽症者と無症状者 (以下単に軽症者等) を移したいということを厚労省に希望したのはかなり前のことだ.(《モーニングショー》レギュラーの玉川徹氏の取材による)
 ところが厚労省はこれをずるずると拒否してきた.どういうことかというと,厳密に感染症法を適用すると,感染者は入院させなければいけない.つまり軽症者等をホテルに収容することは違反なのである.従って,法の実際的な運用によってこの違反を回避するには,ホテルへの収容を入院と見做すことが必要になる.そしてこの運用の権限は厚労省にあるのだ.
 そもそも厚労省は戦前の内務省の嫡子である.明治期における内務省の任務は国民生活全般の強力な監視であり,ただの行政官庁ではなかった.警察権も持っていたのである.大正期に国家行政のシステムが細分化して権限が各省庁に分散したが,敗戦で内務省が解体されるまで地方自治体の監督支配権限は手放さなかった.
 内務省の嫡流たる厚労省にとっては,都知事や府知事なんぞは支配下にあるも同然なのである.だから小池都知事や吉村府知事がいくらホテルに軽症者を移したいと希望しても「はいわかりました」と言っては旧内務省の沽券に関わるのである.何事もあくまで厚労省が決めて,トップダウンで都知事と府知事が従うという形をとるのが厚労省のプライドというものなのである.
 緊急事態宣言も同じだ.宣言が発せられると都知事や府知事等の首長に,感染拡大阻止のための強い権限が与えられる.言い換えると厚労省は監督権限を失う.これは旧内務省としては許しがたい屈辱だ.だから厚労省としては緊急事態宣言を何とか回避したいのである.
 このような事情で,都民や府民の生命を預かる知事が何をどう要望しようが,厚労省は聞く耳を持たない.感染爆発寸前まで権限を手放さないだろう.こんなことはメディアの心ある人は先刻承知で,安藤優子さんはフジテレビ『直撃LIVE グッディ!』で,感染拡大対策が後手後手であるのは厚労省の怠慢によると明確に述べていた.
 上に《感染爆発寸前まで権限を手放さないだろう 》と書いたが,これはすなわち感染爆発寸前に首長に権限と責任を押し付けて,厚労省自らは安全地帯に引き下がるということだ.これぞ官僚の鑑である.
 
 閑話休題
 報道メディアの中でアンチ小池の陣を張っているのは朝日新聞だ.しかしアンチ小池とはいえ直接論説で対決する度胸はないから,アンチ小池の執筆者を引っ張ってきて,インタビューしたり記事を書かせるという手法を用いる.
 つい最近の例では,朝日新聞社AERAdot.《Zeebraが小池都知事にもの申す「夜の街名指しはフェアじゃない!昼と夜の線引きなき補償を」》[掲載日 2020年4月4日 18:27] がある.
 この記事は,ヒップホップミュージシャンのZeebraという男にインタビューして,まるで駄々をこねる幼稚な子供のような言いたい放題をしゃべらせたものだ.その中から一部を下に引用する.
 
「『店を閉めろ」ではなく、お客さんに『控えて』という言い方は、フェアじゃないと思う。『営業禁止』と言うべきです。特に夜の飲食店は、1カ月も休めば潰れてしまうような小さな規模であることがほとんどですし、休業補償が得られなければ最悪、解雇される従業員も少なくない。『バーやナイトクラブ』なんて名指しされたら、あっという間に潰れてしまう。ロックダウンを行い、最低限のライフラインをのぞいて飲食店や店舗も営業を休み、政府がその分の補償をするのが今できる最善の策だと思います」》(引用文中の文字の着色は当ブログの筆者が行った)
 
「営業禁止」とは何か.論理的に禁止は要請ではあり得ない.「営業禁止を要請する」ことは,法的にも行政的にもあり得ない.「営業禁止」は要請ではなく命令なのである.では行政がなぜ事業者に営業禁止を命令するかというと,法に違反しているからである.
 軽微な法違反の例を示す.例えば道交違反でつかまって免停になったとする.運転免許がないために商売ができなくなって収入の途が絶たれたとしても,法は収入減の補償をしない.
 また例えば飲食店がノロウイルス食中毒を発生させ,食品衛生法に基づいて保健所から営業禁止処分を受けたとする.営業できなくなってその飲食店がつぶれたとしても,保健所の知ったことではない.保健所による処分に違法性がない限り,当該飲食店が損害賠償請求しても間違いなく敗訴する.
 また例えば訪問販売業者が特定商取引法に違反する訪問販売を行ったために,消費者庁から業務禁止命令を受けたとする.この訪販業者は,営業禁止命令によって生じた損害の賠償を求めることはできない.
 上に掲げた身近な例でもわかるように,行政法に基づく「禁止」は,処分によって当事者に生じた損害を補償しない.こんなことは社会生活に必要な常識である.
 Zeebraは四十九歳であるが,その歳になるまで社会常識を学ぶことがなかったと見える.そのような者がからっぽの頭で口から出まかせをしゃべると恥をかくという見本だ.
 次にZeebraの記事のスクリーンショットを下に示す.
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 Zeebraは《風俗やキャバクラに勤める人のなかには、休業で露頭に迷いかねないシングルマザーもいます 》と言うが,シングルマザーのほとんどは歓楽街の外で懸命に働いている.なぜ性風俗店やキャバクラで働いているシングルマザーが,歓楽街の外のシングルマザーが納めた税金で収入減を補償されるのか.その不公平の理由を,Zeebraは説明しなければいけない.
 また《しかしなぜ、『夜の街』だけを名指ししておいて、パチンコ店に行くなといわないのでしょう 》とも言うが,東京都は歓楽街での感染拡大が顕著であると発表したあと,個別の業者に直接,営業自粛を要請することにした.これは報道されたことだから,知らぬとは言わせない.
 その代表例がパチンコ業界である.下の画像ははパチンコ・パチスロ業界の情報サイトのスクリーンシッョトである.
 
20200405d
 
 東京都内のパチンコ店は都の監督下にあるから,自粛要請すれば上の業界ニュースに書かれているように業界の協力を得られる.しかしバーやナイトクラブの事業者に個別に営業自粛を要請するのは,数が多すぎて不可能だろう.だから都知事は,事業者ではなく都民に,業種を示して夜間外出自粛を要請したのである.すなわち,都知事が記者会見で《『夜の街』だけを名指ししておいて、パチンコ店に行くなといわな 》かったのは,言う必要がなかったからである.もしも都内のバーやナイトクラブが一斉に休業の協力を都に申し出ていれば,都知事に名指しされることはなかっただろう.
 Zeebraは渋谷区観光協会から渋谷区観光大使ナイトアンバサダーという肩書をもらっているそうだが,その仕事は,風営法や食品衛生法等の行政法に基づいて行政が行う監督について無知でもできるものなのか.そんな男が都知事に意見するとは図々しいにも程がある.
 とはいうものの,私はZeebraが悪意をもって都知事批判をしたとは思わない.彼に対するインタビューの裏に透けて見えるのは,朝日新聞社の小池都知事に対する悪意である.
 朝日新聞は社説で正面から小池批判を書く度胸がないから,姑息にもZeebraみたいなのを引っ張りだしきて小池批判をさせた.これを読んだものはZeebraに反論するだろうが,朝日新聞は批判を受けない安全地帯にいる.そういうメディアなのだ.

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