昨日 (3/6) の朝,NHK《おはよう日本》を観た.すると七時台の放送の終わりに,普段と同じエンディングで関東ローカルニュースになるかと思ったら,高瀬耕造アナがいつもより少し長めに,次のように語った.
《昨日は東京で143人など合わせて360人の感染が新たに発表されました.また東京などから帰省して,家族に感染が拡がるといったケースも相次いでいます.
この感染拡大が続く中で,今世の中を覆っているのは不安や緊張,それから閉塞感です.
ただ,私たちが外出を控えるなど実際に行動を起こすことが,医療現場を守り,社会を守り,そして私たちが一日も早くこの日常を取り戻すことにつながるはずです.
私たちは,皆さんと同じく,全員一人一人が,このコロナウイルスについては当事者です.
この困難,むずかしい時間が続きますけれども,なんとか私たちの自由でのびのびとした日常を取り戻すために,今は実際に行動を起こして,その日常をみんなで勝ち取りましょう.ここまで全国のニュースでした.》
これはニュースのアナウンスではなく,高瀬アナが私たちを励ますショートスピーチであると私には思われた.
その高瀬アナは《おはよう日本》の海外ニュース中で,エリザベス女王が英国民に宛てて異例のメッセージを述べた (オリジナルはBBC放送) ことを伝えた.
エリザベス女王 (Queen Elizabeth II) の幼い王女時代は第二次大戦中であった. エリザベス王女は,英王室において初めて軍事訓練を受けて,欧州における大戦終結の前には実際に従軍した女性である.王女は1940年,十四歳の時に国民に向けて最初の演説を行った.欧州戦線で勝利した英国軍における王女の最終階級は名誉第二准大尉であった.
(軍務に就くエリザベス王女, 1945年;パブリックドメイン,Wikimedia Commons, File:Hrh Princess Elizabeth in the Auxiliary Territorial Service, April 1945 TR2832.jpg )
大戦後,1963年に即位してからは,クリスマスにメッセージを国民に届けるのが女王の恒例となったが,それ以外には,テレビで国民に語り掛けることはあまりなかった.最初は1991年の第一次湾岸戦争,次が1997年にダイアナ妃が亡くなった時の葬儀の前,そして2002年のエリザベス王太后 (同名の母王妃,Queen mother Elizabeth) 逝去の時の三回である.また2012年には即位六十周年記念のテレビ演説も行っているので,今回が彼女の在位六十八年のうちで五度目の特別演説である.以下に同演説を抜粋引用する.
While we have faced challenges before, this one is different. This time we join with all nations across the globe in a common endeavour, using the great advances of science and our instinctive compassion to heal.
We will succeed — and that success will belong to every one of us.
I am sure the nation will join me in assuring you that what you do is appreciated and every hour of your hard work brings us closer to a return to more normal times.
I also want to thank those of you who are staying at home, thereby helping to protect the vulnerable and sparing many families the pain already felt by those who have lost loved ones.
Together we are tackling this disease, and I want to reassure you that if we remain united and resolute, then we will overcome it.
I hope in the years to come everyone will be able to take pride in how they responded to this challenge.
Those who come after us will say that the Britons of this generation were as strong as any.
That the attributes of self-discipline, of quiet, good-humored resolve, and of fellow feeling still characterize this country.
It reminds me of the very first broadcast I made, in 1940, helped by my sister. We, as children, spoke from here at Windsor to children who had been evacuated from their homes and sent away for their own safety.
Today, once again, many will feel a painful sense of separation from their loved ones. But now, as then, we know, deep down, that it is the right thing to do.
We should take comfort that while we may have more still to endure, better days will return. We will be with our friends again, we will be with our families again, we will meet again.
女王のスピーチの結び“We will meet again ”は,世界大戦中に「英国軍の恋人」と呼ばれた Vera Lynn の“We'll meet again ”を指している.この歌は英国軍兵士を鼓舞したことで知られる.歌詞はここ.
Vera Lynn のオリジナルにはいくつかのカバーがネットにあるが,その中では,英国女性軍人テイスト満載の女声合唱団 The D-Day Darlings の歌唱 がすばらしい.ちなみに“The D-Day ”とは,ダンケルクからドーバー海峡に追い落とされた英仏軍が,英米仏連合軍としてノルマンディー海岸から再びフランスに上陸した1944年6月6日を指す.
女王はスピーチの中で,1940年に放送した初めての自分の演説に言及した.十四歳の王女の演説がラジオから流れるのを聴いた英国の少年少女たちは,今はもう八十代半ばの老人ばかりになった.もし感染すればおそらくは命を落とすことになる老人たちに,女王は“We will meet again ”の一言を贈った.
子供時代に,空襲の危険を避けるために親と離れて暮らした,つらい疎開の五年間.あれから八十年を経た今,感染の危険を避けるために愛する子や孫たちと離れて,再びつらい思いをしている人々に女王は言う.今は自制しましょう.それが正しい.けれどもそうすれば,また楽しい日常が戻ってくるでしょう.友や家族と会える日々はまたやってきます.We'll meet again. Don't know where, don't know when, but I know we'll meet again some sunny day.
そして女王のスピーチを伝えた高瀬耕造アナは言った.その日常をみんなで勝ち取りましょうと.
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