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2020年3月 9日 (月)

機に臨んで変に応ず

 日本医事新報社のWeb医事新報に,神戸大学医学研究科の岩田健太郎教授 (感染治療学分野) が《【識者の眼】「新型コロナウイルス感染症:非常に厄介だが、対峙の方法はほぼ確立している」岩田健太郎》を寄稿している.少し前の御自分の発言はまるでなかったことのような内容なので驚いた.
 日本での新型コロナウイルス感染禍が現在ほどではなかった初期の頃,岩田教授は日テレの『ミヤネ屋』の取材に応じて,「大したことはない」との見解を示していた.この種の感染症にどう対処するかはもう確立しているからであると,自信満々だった.岩田教授が言うには「一人の感染者がいるとして,それが誰と誰に接触して,その接触者がまた誰と誰に接触したかということを追跡し,隔離していけば感染の拡大は抑え込める」というのが感染症対策の基本であると教授は『ミヤネ屋』で断定した.そして「検査なんか無駄だ.検査が必要だという人は感染症の基本を知らない」と語った.名指しはしなかったが,テレビ番組でPCR検査の必要性を主張していた白鴎大学の岡田晴恵教授を指した嘲りであることが明々白々だった.
 岡田教授は当初から,この新型コロナウイルスが厄介なのは,軽症者が多いことだ (中国では,無症状の感染者がいるとの見解が,対策当局の研究者から発表されていた) と指摘していた.軽症者あるいは無症状の感染者が,感染を自覚せずに多数の人と接触するから,感染ルートの追跡はいずれ不可能になるという見解を,岡田教授はテレビ (『羽鳥慎一モーニングショー』) でコメントしていた.岡田教授はほとんど毎日テレビでコメントしているが,主張は一貫している.
 同じことを東北大学医学系研究科の押谷仁教授 (微生物分野) もNHKスペシャルで語った.(拙稿《君にとっては他人事だから》参照)
 押谷教授は同番組で,武漢における爆発的感染に関して,明らかな感染症状を示している人が感染を拡大しているだけでなく,軽症者が感染を拡大している可能性が高いと述べた.また,「武漢の医療機関はレベルが低いから感染を拡大させてしまっている」という見方は誤りであると明言した.武漢の対策当局が軽症者による感染拡大ルートをようやく発見できたときは,既にタイミングを失していたので爆発的感染に至ってしまったのだと押谷教授は見解を示した.そして「武漢の医療機関のレベルは高い.私でも間違っただろう」と述べた.誠実な発言だと私は感じ入ったが,その後も押谷教授の主張はブレていない.
 一方の岩田教授はどうか.冒頭に挙げた医事新報の記事の中で教授は次のように書いている.
 
臨床症状は風邪のようなもので、8割は自然に良くなってしまう。そういう意味では怖くない。が、そこが怖いところでもある。インフルエンザと異なり、症状が軽微な本感染症では、多くの人々は罹患しながら外を歩き回ってしまう。症状の軽さこそが感染の広がりの原因になってしまう。
 
 この引用文中の《症状の軽さこそが感染の広がりの原因になってしまう》こそが,岡田教授の当初からの主張であった.だからこそ,検査によって軽症の感染者を把握しなければいけないと岡田教授は言い続けてきたのである.それに対して岩田教授は「検査なんか無駄だ」と岡田教授を嘲っておきながら,今になって,まるでコピペのように岡田教授の主張を自分の意見のように書いている.唖然とはこのことだ.
 岩田教授の掌返しを挙げてみよう.
 毎日放送《『検査は間違える』感染症専門家が解説…なぜ新型コロナ「陰性」の人が「陽性」に?》(放送日時 2020/02/12 17:20) では以下のように述べている.日テレの『ミヤネ屋』では,検査は無駄だと言ったのに,このテレビ放送では「検査には限界がある」と少し主張を軟化させた.
20200309c

 また暫くして,毎日新聞《新型コロナ 神戸大・岩田健太郎教授に聞く/下 情報隠さず、封じ込め全力を》(掲載日 2020年3月6日) では岩田教授は次のように語っている.
 
《――政府や地方自治体はどういった対策を取るべきでしょうか?
 ◆新型コロナ感染検査キットのキャパがどれぐらいあり、検査がどれぐらい行われているのか、検査をしないほうが良いのなら理由を積極的に公開すべきです。(注)
 感染検査の総数とその中で何件が陽性だったのかが大切です。例えば、ある保健所で10人検査して3人が陽性だったら、検査を100件に増やさないとだめかもしれません。逆に、10人検査して一人も陽性が出ない地域であれば、そこで検査を増やす必要はありません。感染が増え始めたらそこに資源を投入するのです。つまり、保健所ごとに違う方針を取る必要がある。厚生労働省に指示を仰ぐとか、その指示に従うなどのやり方ではだめなのです。》(引用文中の文字の着色は当ブログの筆者が行った.また下の画像はこの記事のスクリーンショットである)
20200309d
 今度は,まず政府や地方自治体は《検査をしないほうが良いのなら理由を積極的に公開すべきです 》と言っているが,検査は無駄だと自分で言ったことを忘れたようだ.続いて《感染が増え始めたらそこに資源を投入するのです 》として,「感染拡大を防ぐためには検査が必要である」とする側に自分の立ち位置を変更している.このように臨機応変,状況に応じて自在に主張を変える者を,私たち日本人は昔から世渡り上手と呼んできた.
 医事新報の記事の最後を岩田教授は次のように結んでいる.
 
それでも、本稿執筆時点で中国はこの巨大な感染症危機を乗り越えようとしている。新規患者はどんどん少なくなり、生活も通常に少しずつシフトしてきているという。本感染症は封じ込め可能なことを、中国は示したのだ〔もっとも、世界保健機関(WHO)によると、3月3日時点で新規患者130例、死亡31例だから中国もまだ油断はできないのだが〕。
もちろん、日本に同じことができないわけがない》(引用文中の文字の着色は当ブログの筆者が行った)
 
 中国は共産党の独裁下にあり,医師だろうが誰だろうが国家権力の言うことに従わなければ投獄して行方不明にできる.また国民一人一人の所在と行動を監視するシステムを備えているから,国民の行動を完全に制約できる.「日本に同じことが」できるとすれば,もはや日本は民主国家ではない.日本は中国とは別の方法で,すなわち国家の独裁権力ではなく,公共の福祉の理念により国民に行動の自制を要請する (*註) ことによって,感染の拡大を食い止めなければならないと私は思う.
 
(*註)
 クルーズ船ダイヤモンド・プリンセスに乗船していた静岡市在住の男が,下船後は不要不急の外出を控えるよう求められていたにもかかわらず,下船当日など二度にわたってスポーツクラブに行って浴室を使用した.しかもこの男は感染の判明後,保健所に対して,スポーツクラブを利用したことを隠して保健所を騙した.(テレビ静岡《下船日にスポーツクラブで入浴 利用者「冗談じゃない…」同時間利用者も健康観察へ 静岡市》(放送日 2020年3月1日)
 また産經新聞《感染者、セブンでのバイト隠す「副業ばれるの怖かった」山梨》(掲載日 2020年3月8日) によれば,山梨県内在住の感染者男性が,発熱している状態でコンビニに勤務したことを保健所に隠して騙した.
 またさらに,静岡県議の一人は,立場も弁えずにマスクをオークションにかけて高額の利を得た.しかも転売ではないから問題ないと主張している.
 それどころか新型コロナウイルスに感染した愛知県の男が,検査で陽性と確認された後に自宅待機を要請されたにもかかわらず「コロナウイルスをばらまく」と家族に言い残して外出し,居酒屋とカラオケパブでハシゴ酒をした.(週刊文春《「俺は陽性だ」蒲郡「コロナばらまき男」のフィリピンパブ”犯行現場”》掲載日 2020年3月8日)
 我が国は,このような哀しいまでに愚かな国民を抱えつつ新型コロナウイルス感染症と戦わねばならないのだ.


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