マスクの基本 (二)
大西淳子という医学ジャーナリストがNIKKEI STYLEに《マスクが品薄でも焦らない 新型肺炎予防で大切なこと》を書いている.(掲載日2020/02/06 11:00)
その中でマスクの効果について書かれた部分を抜粋引用する.
大西は《マスクをしないからといって感染リスクが急激に跳ね上がることはないのです 》と書いている.すなわちマスク着用の効果は大したことはないと否定的に言っている.
大西は,上の主張の根拠として,厚労省の「新型インフルエンザ専門家会議」がまとめた《新型インフルエンザ流行時の日常生活におけるマスク使用の考え方》(平成20年9月22日) を文末に「注10」として示している.
それでは,大西が根拠としている文献の原文を読んでみよう.次のように書かれている.
《健康な人が不織布製マスクを使用する場合
マスクを着用することにより、机、ドアノブ、スイッチなどに付着したウイルスが手を介して口や鼻に直接触れることを防ぐことから、ある程度は接触感染を減らすことが期待される。
また、環境中のウイルスを含んだ飛沫は不織布製マスクのフィルターにある程度は捕捉される。しかしながら、感染していない健康な人が、不織布製マスクを着用することで飛沫を完全に吸い込まないようにすることは出来ない。
よって、咳や発熱等の症状のある人に近寄らない (2メートル以内に近づかない)、流行時には人混みの多い場所に行かない、手指を清潔に保つ、といった感染予防策を優先して実施することが推奨される。
やむを得ず、新型インフルエンザ流行時に外出をして人混みに入る可能性がある場合には、ある程度の飛沫等は捕捉されるため、不織布製マスクを着用することは一つの防御策と考えられる。ただし、人混みに入る時間は極力短時間にする。》(引用文中の文字の着色は当ブログの筆者が行った)
専門家会議は,ウイルスを含んだ飛沫を《完全に吸い込まないようにすることはできない 》が,《ある程度の飛沫等は捕捉されるため、不織布製マスクを着用することは一つの防御策と考えられる 》こと,および《ある程度は接触感染を減らすことが期待される 》として,効果を肯定している.
そして,家庭でマスクの備蓄をするよう提言している.
《家庭において不織布製マスクを備蓄することは、新型インフルエンザ対策として推奨される。その他の感染予防行動や日用品の備蓄と共に行われることが望ましい。
不織布製マスクのほとんどは諸外国で生産され、輸入されているため、新型インフルエンザ流行前に準備しておくことが推奨される。流行期間(8週間を想定)に応じたある程度のマスクの備蓄を推奨する。
例えば一つの目安として、不織布製マスクを、発症時の咳エチケット用に7-10枚 (罹患期間を7-10日と仮定)、健康な時の外出用に16枚 (やむを得ず週に2回外出すると仮定して8週間分) として、併せて一人あたり20-25枚程度備蓄することが考えられる。》(引用文中の文字の着色は当ブログの筆者が行った)
このように専門家会議は,大西の主張とは異なってマスク着用の効果を認め,健康な人の場合でも外出時にはマスクの着用を勧めている.
しかるに大西は,《完全に吸い込まないようにすることはできない 》という文言を切り取って《マスクをしないからといって感染リスクが急激に跳ね上がることはない 》へと巧妙に歪曲し,マスク着用に対する否定的なニュアンスをでっちあげた.しかしテレビ番組に登場して意見を述べている公衆衛生等の専門家は皆,新型コロナウイルス対策として,(1) 人混みを避ける,(2) 手洗いの励行,(3) マスク着用を挙げているのは誰でも知っていることだ.
「○○ジャーナリスト」と称する連中が飯を食っていく方法の一つは「逆張り」である.一般の人々が「ほんとはそうだったのか!」と驚くような主張をすることで,メディアへの露出を高めようとするのである.記事に参考文献を示したりするところは如何にももっともらしいが,原文にあたってみると,大西のように文献の論旨を歪曲していたりする.こういう連中に私たちは騙されぬようにしたいものである.
[余談]
今朝のNHKニュースで,北朝鮮のマスク製造工場の様子が報道された.以下の画像はテレビ画面をカメラ撮影してトリミングしたものである.
(↓工場内部)
(↓女性作業員が着用しているマスクは,パイル糸が表面に見えるので,タオル地で作られているようだ)
(↓彼女らが製造しているマスクは,通気性のない衣類用の布地を縫製して作られる)
(↓「耳掛け紐」も伸縮性のない布でできている)
NHKニュースは北朝鮮のマスクに関して,映像を流すのみで論評しなかったが,北朝鮮には不織布どころか,ガーゼもゴム紐もないものと思われる.しかし国民には「マスクは増産しているぞ,大丈夫だ!」と報道する必要があるのだろう.耳に掛けることもできない無意味なものを作っている彼女らがかわいそうである.
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