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2020年2月15日 (土)

エタノール用の容器

 スーパーで働いている知人女性から聞いた話.
 その店では,たまにマスクが入荷することがあるのだそうである.彼女がそのマスクを棚にセットするや否や,近くで待ち構えていた女性たちが商品をレジカゴに入れてレジへダッシュするのだそうだ.「お一人様一個まで」の制限付きでも,マスクの店頭滞在時間は秒単位であるという.
 マスクだけではない.薬局・薬店の店頭から消毒用資材が払底して久しい.ところが,藤沢駅の北口にある薬局に処方箋を持って立ち寄ったら,たまたま消毒用エタノールが入荷していた.そこで,おお珍しやと思って一本買い求めた.もちろんお一人様一本限定だ.
 この薬局は薬剤師が何人も常駐している大きめの薬局で,昔からこの辺りではよく知られた薬局だ.そこらの安売りドラッグストアとは違って,頼りになるなあ.
 
 で,買ってきた消毒用エタノールの用途だが,小さいスプレー容器に入れて携帯しようと思う.
 まずスプレー容器を買いに百均ショップに行ってみた.そして棚に置かれている商品を手に取ってみたところ,どう見ても材質表示がウソくさい.おそらくスプレー・ノズルがポリプロピレン(PP) とポリエチレン(PE),ボトルのキャップ部分がポリエチレン(PE),ボトル本体がポリエチレンテレフタレート(PET) に間違いないが,ラベルには「ポリプロピレン」とだけ書かれているのだ.
 ここでフト疑問に思ったのは,PETの耐アルコール性である.
 
 PETはエチレングリコール(EG)とテレフタル酸(TPA)を重縮合して得られる熱可塑性ポリエステルで,構造と合成のスキームは以下の通り.(Wikipedia【ポリエチレンテレフタラート】から引用;余談だが,…フタラートではなく…フタレートと英語式に発音すべきだ)
 
20200218a
20200218b
 
 重縮合の反応式からただちに理解できるように,触媒存在下にPET樹脂にエタノールを接触させると,テレフタル酸ジエチルとエチレングリコールが生成し,高分子鎖が切断される.そのためPETにはアルコール耐性がないとされ,ウェブ上にはそのように記述しているサイトがたくさんある.(Wikipedia【ペットボトル】)
 ところが実際は,大きなPETボトルに充填包装された安ウイスキー (例えばこれ) がコンビニやスーパーで売られている.安ウイスキーでもアルコール濃度は40%v/v近い.これはいったいどういうことだ.
 その点について,サントリーに問い合わせた人がいる.(《果実酒工房》)
 サントリーの回答を引用すると次の通りである.
 
必ずしも全ての飲料用ペットにおいてアルコールが詰められるというわけではなくふさわしいものと、そうでないものが存在しており中味の特性によってそれぞれに使い分けをしている
 
 この回答に関して,Wikipedia【ポリエチレンテレフタラート】には次の記述がある.
 
《・
非晶性ポリエチレンテレフタレート(A-PET, Amorphous PolyEthylene Terephthalate)
  結晶化させていないもの。耐熱温度は、ガラス転移点温度と同等の75℃程度。
 ・結晶性ポリエチレンテレフタレート(C-PET, Crystallized PolyEthylene Terephthalate)
  添加剤と加熱延伸を施して結晶化させたもの。透明度は落ちるものの、耐熱温度は結晶融点に近い220℃程度まで高めることができる。
 
 高分子化合物の結晶とはどのようなものかについては,この稿では触れないが,結晶しているか否かは,有機溶媒に対する性質に影響する.
 PETの結晶度と有機溶媒耐性の関係についてのデータを持ち合わせていないが,結晶度が高いほどエタノールに接触したときに劣化しにくいと考えられる.
 ここで一つ,興味ある例を挙げる.健栄製薬株式会社の「手ピカジェル」という製品である.転売屋によって市中在庫を買い占められ,法外な価格で売られている製品である.

20200218e
 この製品のエタノール濃度は76.9~81.4%vol%だとラベルに表示されている.その容器の材質表示は下の通りで,ボトル本体の材質はPETである.
20200218f
「手ピカジェル」の販売実績から考察するに,このボトルはエタノール耐性のPETであり,薬局方消毒用エタノールと同等のエタノール濃度の溶液に耐えることができる.
 また,データ画像は省略するが,サラヤ株式会社の「サラヤハンドラボ 手指消毒 アルコールスプレー VH (指定医薬部外品) 」もエタノール濃度は76.9~81.4vol%であるが,ボトルの材質はPETであると表示されている.
 従って,サントリーが消費者の質問に答えて回答したようにPETには,アルコールを入れるのに《ふさわしいものと、そうでないものが存在 》しているのは間違いないと思われる.
 しかし,である.現在の樹脂製容器の材質表示では非晶性PETと結晶性PETを区別していない.そして,私が調べた限りにおいてであるが,エタノール耐性の汎用PETボトルは販売されていないようだ.
 冒頭に「買ってきた消毒用エタノールの用途だが,小さいスプレー容器に入れて携帯しようと思う」と書いたが,通販で販売されているスプレー容器は大半がPETである.ガラスボトルのスプレーは有機溶媒に最適だが,容量の割に大きくて携帯には向かない.
 あれこれの条件を考慮すると,消毒用エタノールのスプレーボトルにはポリエチレン(PE) が適している.
 というわけで,AmazonでPE製のスプレー容器を購入した.別々の二社からPE製スプレーが出品されているが,そのうちの一社の製品は,もう既にメーカー在庫がなくなってしまっているようだ.間一髪で私は間に合ったようである.

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