何度見ても泣く
昔,雑誌『広告批評』の主催者だった天野祐吉さんは,朝日新聞紙上のコラムで,心温まる企業広告を取り上げては,温かい視線で批評を書いていた.
その当時から,日本の伝統的食文化の大切な部分である食事エチケットの一つ,つまり「汚らしい音を立ててものをたべてはいけない」に公然と歯向かうテレビCMを連発していたのが永谷園だった.
昨今はこれに味の素が同調するようになったのは残念だ.
私は長年勤務した会社が味の素に吸収されてしまった関係で,味の素社に知り合いが多い.その中に,知り合いというよりも親会社風を吹かす若造がいて,こいつが無知蒙昧だった.自分の会社のCMの歴史を全く知らないのである.
その男がある日,「美空ひばりなんてオヤジ世代の歌は聞く気が起きない」といった.
食品会社のCMは数々あるが,美空ひばりの『愛燦燦』は,企業広告の最高傑作のひとつだと思う.しかしこれがCM曲だったことは,現在の味の素の軽薄下品なイメージとあまりにも異なるので,若い人は聞いたら驚くだろう.それどころか当の味の素の社員が,『愛燦燦』誕生のいきさつを知らないことが多い.知っていれば「聞く気が起きない」などと言わぬだろう.
『愛燦燦』は,あの美空ひばりが生涯にただ一度だけ歌ったCMソングであった.言い換えれば,かつて味の素は,そういう広告を打てるほどの会社であったのだ.
この二社のCMに比較すると,この数年のマルコメの広告宣伝は,食品会社としての格が数段上じゃないかと思わされる出来である.
特に先月から放映されている「料亭の味 液みそ いつまでも一緒に篇」は,もし天野祐吉さんが生きていたら絶賛しただろう.
最初にこれを観たとき,不意打ちされたかのように私は涙ぐんだ.そのあとも何度か観て,その度に涙ぐんでいる.
まことに食事というものは,「いただきます」と「ごちそうさま」だけでは足りない.そして料理するということは,私たちが一人ではないという証なのだろう.
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