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2020年2月 8日 (土)

ハンドソープ

 私は食品会社に勤めていたが,元々が化学屋なので,文系の知人から食品添加物や家庭用品の安全性について相談されることがある.
 そんな知人の一人から昨日,「古い薬用ハンドソープがあるんだが,使えるだろうか」と相談された.テレビで新型コロナウイルスについて毎日報道がされ,専門家が「手洗いの励行」を推奨するので,外出から帰宅したら手を洗おうと決めたんだそうである.そこで洗面台の下の収納に薬用ハンドソープがあったことを思い出したという.
 
 私は知人に,そのハンドソープの商品名と,ラベルに記載されている有効成分をメールしてもらった.すると,販売者は「クラシエホームプロダクツ株式会社」,商品名は「ナイーブ薬用植物性ハンドソープN」であり,有効成分はトリクロサンだとのことだった.
 
 ありゃーと私は思った.トリクロサンを配合した薬用ソープは,もう世間から消えたと思っていたが,家庭で未だにストックされているのだなあ.
 Wikipedia【トリクロサン】に次の記述がある.
 
アメリカでは、トリクロサン含有の製品は40年も前から市販され、2,000種以上もの石鹸の他に、歯磨き粉や掃除用洗剤、プラスチック製品や化粧品などにも使用されている。
2013年、動物研究では、トリクロサンが甲状腺や女性ホルモンのエストロゲン、男性ホルモンのテストステロンなどに影響を与える可能性や、一般的な抗生物質に対する薬剤耐性を強化してしまう可能性が指摘されている。
2016年、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、2016年9月2日に、トリクロサンやトリクロカルバン(英語版)など19種類の殺菌剤を含有する抗菌石鹸は、通常の石鹸と比べて優れた殺菌効果があるとは言えない上、免疫系に打撃を与えるリスクがあることを発表し、2017年9月に一般用抗菌石鹸の販売を禁止した。
2018年、トリクロサンはマウスの腸内細菌に影響を与えその結果大腸炎や大腸がんを増加させることが報告された。

 
 上記引用のように,FDAは2017年9月に,19種類の殺菌剤を含有する抗菌石鹸の販売を禁止した.これを受けて日本は以下の通り都道府県衛生主管部局長宛てに「薬用石けんに関する取扱い等について」(薬生薬審発0930第4号,薬生安発0930第1号,平成28年9月30日) を発して通知した.
 
薬用石けんに関する取扱い等について
 今般、米国食品医薬品局 (FDA) がトリクロサン等19成分 (以下「対象成分」という。) を含有する抗菌石けんに対して、今後販売停止の措置をとることを表明しました。 このFDAの措置を踏まえ、日本化粧品工業連合会及び日本石鹸洗剤工業会は、厚生労働省に対して、対象成分を含有する薬用石けんから対象成分を含有しない薬用石けんへの切替えに取り組むことを報告するとともに、これらの切替えに関する医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 (昭和35年法律第145号。以下「法」という。) に基づく承認申請に対する速やかな処理を要請しました。つきましては、薬用石けんに関し、対象成分を含有しない製品への切替えを促すため、下記のとおり取扱うこととしたので、御了承の上、貴管下の医薬部外品製造販売業者等に対し、周知徹底方、御配慮願います。
 
 本通知の19成分とは以下の別
表の通りである.
 
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 このような経緯があって日本でもトリクロサン含有の薬用石鹸は販売禁止となったわけだが,販売禁止の理由が理由だけに,未使用品であっても使わないほうがいいと知人には伝えた.廃棄の際は,環境負荷のことを考慮すれば,下水に流さず,古新聞等に浸み込ませて燃えるゴミとして捨てればいいとも教えた.
 さて,それはそれでいいとして,何か代わりのハンドソープでおすすめはあるかと彼は言った.それに対する私の返答は「手を洗う目的が新型コロナウイルス対策なのであれば,浴用石鹸でいい」だ.
 現在市販されている手洗い用石鹸には,塩化ベンザルコニウム (陽イオン界面活性剤の一種) を有効成分とする,いわゆる逆性石鹸がある.しかし塩化ベンザルコニウムは,花王の公式キサイトにある記述では《効果は確認できておりません 》となっているように,コロナウイルス対策としてはの効果は不明である.
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 花王の商品にはハンドソープの「ビオレu 泡ハンドソープ」があり,これは有効成分として抗菌剤イソプロピルメチルフェノールを含むポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム (=ラウレス硫酸ナトリウム;陽イオン界面活性剤で,抗菌性はない) 水溶液である.
 イソプロピルメチルフェノールは無味無臭で,低刺激性かつ皮膚に対するアレルギー性は報告されていないが,殺菌力は塩化ベンザルコニウムより劣り,しかもウイルスには無効とされている.従って,現在「ビオレu 泡ハンドソープ」を使っているのであればそのまま使用続ければいいが,新たに購入するまでのことはない.
 花王以外のメーカー
の製品で,イソプロピルメチルフェノールをウイルスに有効だとしているもの (サラヤ ハンドラボ 薬用泡ハンドソープ) があるが,《消毒剤を含有する市販ハンドソープ及びうがい剤製品の 殺菌ウイルス不活化作用》(富田ら,感染症学雑誌第92巻第5号,2018年) では否定的であり,本当かどうか疑わしい.ちなみにこの記事の冒頭に述べたクラシエのハンドソープも現在は有効成分をイソプロピルメチルフェノールに変更して販売されている.
 
 上に述べた塩化ベンザルコニウムとイソプロピルフェノールの他には,ポビドンヨードを有効成分とするハンドソープがある.ポビドンヨードは「イソジン」という名でよく知られている殺菌剤であるが,富田らの論文でもウイルスに有効とされている.ハンドソープはシオノギヘルスケアから指定医薬部外品「イソジン薬用泡ハンドウォッシュF」が出ているが,新型コロナウイルス騒動の前は安価に (メーカー希望小売価格は九百五十円) 売られていたものが,現在はAmazonで,二個抱き合わせの単価千四百円にまで高騰している.
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 従って通販で購入するのは,価格が落ち着くまでやめたほうがいい.もしドラッグストア店頭で,妥当な価格で販売されているのを見つけたら,買って損はない.インフルエンザ対策も含めて,ハンドソープでおすすめは「イソジン薬用泡ハンドウォッシュF」である.(Meiji Seica ファルマ(株) から,やはりポビドンヨードを有効成分とする第3類医薬品「明治ハンドウォッシュ」が出ているが,指定医薬部外品イソジンとの違いを私は知らない.価格も高い)
 
 ところで私が思うには,外出から帰宅した時に,ハンドソープで手洗いする前にせにゃならんことがある.玄関ドアを開けて靴を脱ぐ前に手をとりあえず消毒するのだ.
 私が実行しているのは,(1) 靴を脱ぐ前に,エタノール含浸不織布で二度手を拭う,(2) 洗面台で,手指洗浄剤を用いて手をよく洗う,(3) 再びエタノール含浸不織布で消毒する,の三ステップである.(2) で使用する手指洗浄剤は,イソジンがベストだが,なければ普通の浴用石鹸でも構わない.なぜなら浴用石鹸でも一部のウイルスは不活化できるし,ステップ (3) でもう一度エタノール消毒するからである.
 玄関で靴を脱ぐ前にエタノール含浸不織布で手を拭うのは,玄関から洗面台までの動線上の家具等をできるだけ汚染しないようにするためである.二回消毒するのは,手指が皮脂などで汚れていると,エタノールの効果が低下するからである.
 次に手指に付着している汚れをよく落としてから,再度エタノール消毒するわけだ.
 別の話になるが,ノロウイルスの場合はエタノールに抵抗性を有するので,洗浄を何度も繰り返すとよい.内閣府食品安全委員会は次のように説いている
 
石けん (ハンドソープ) を使った手洗いでは、30秒間のもみ洗いと15秒間の流水でのすすぎを複数回繰り返すことが効果的です。2回繰り返すと、ノロウイルスの残存率を約0.0001%まで減らすことができたとする実験結果があります。
 
 以上のようにすれば,家庭内に外部からウイルスを持ち込む可能性を低くすることができると考えられる.
 そのために私がストックしているアイテムを紹介する.
 実はエタノール含浸不織布は,「消毒用エタノール (アルコール) を噴霧ノズルの付いたボトルに入れて使う」ことでも全く同様の効果が得られるので代替できるが,現在店頭はもちろん通販でも,噴霧ノズルが付いたボトルは異常に高価になっているし,消毒用エタノール (アルコール) も入手困難になりつつある.加えてエタノール含浸不織布は使い道が広いので,災害等の緊急時のために家庭でストックしておくべきアイテムでもある.
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〈エタノール含浸不織布〉
[1] エリエール (大王製紙);
  除菌できるアルコールタオル ウイルス除去用 本体
  アルコールとポリアミノプロピルビグアニド配合
   サイズ 140mm×200mm
   入数  80枚
   成分  エタノール,水,プロピレングリコール,
       ポリアミノプロピルビグアニド,
       ポリオキシエチレンアルキルアミン,
       塩化ベンザルコニウム,グリシン,塩化Na,
       水酸化Na,アロエエキス
   原産国 日本
[2] 同上,詰め替え用および携帯用
 
[3] エリエール;
  除菌できるアルコールタオル 本体
   サイズ 140mm×200mm
   入数  100枚
   成分  エタノール,水,プロピレングリコール,
       ポリオキシエチレンアルキルアミン,
       塩化ベンザルコニウム,アロエエキス
   原産国 日本
[4] 同上,詰め替え用および携帯用
 
[5] エリエール
  薬用消毒できるアルコールタオル
   指定医薬部外品 (用途;外皮消毒剤)
   寸法 150mm×200mm
   入数 70枚
   液量 311ml
   成分・分量 有効成分:ベンザルコニウム塩化物 0.05%
       その他の成分:エタノール,プロピレングリコール,精製水
   効能・効果 手指・皮膚の洗浄・消毒
   用法・用量 用時不織布シートを取り出し,手指又は皮膚に薬液を塗布する.
   原産国 日本  
[6] 同上,詰め替え用 (携帯用はない)
 
[7] 白十字
  ショードックスーパー 消毒アルコールタオル 厚手 ボトル
   サイズ 140mm×200mm
   入数  100枚
   成分  76.9~81.4vol%エタノール
   原産国 不明
[8] 同上,詰め替え用
 
[9] 信和アルコール産業
  業務用除菌ウェットワイパー
   サイズ 290mm×300cm
   成分  エタノール,食品用PH調整剤,天然抗菌成分,精製水
       (アルコール濃度40vol%)
   原産国 日本
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 ウイルスはエンベロープを持つタイプと持たないタイプに分類できる.エンベロープ (envelope) は,一部のウイルス粒子に見られる膜状の構造のこと.Wikipedia【エンベロープ (ウイルス)】から下に引用する.
 
エンベロープはその大部分が脂質から成るためエタノールや有機溶媒、石けんなどで処理すると容易に破壊することができる。このため一般にエンベロープを持つウイルスは、消毒用アルコールでの不活化が、エンベロープを持たないウイルスに比べると容易である》(引用文中の文字の着色は当ブログの筆者が行った)
 
 エタノールや石鹸で不活化できるウイルスには,帯状疱疹ウイルス,C型肝炎ウイルス,風疹ウイルス,コロナウイルスインフルエンザウイルスなどがある.
 ノロウイルスはエンベロープを持たないため,不活化しにくいが,[1]に配合されているポリアミノプロピルビグアニドは,ノロウイルスに有効であると考えられている.(資料;大王製紙株式会社 NEWS RELEASE, 2016年1月12日)
 従って[1]が消毒用資材としては汎用性が高いが,現時点で問題となっている新型コロナウイルス,そして毎年たくさんの人が亡くなっているインフルエンザの対策としては,[3][5][7]でも有用であることになる.
 上に挙げた資材のうち,[9]は震災などで水道がストップした際に,食器等の洗浄の代わりに使用するものであり,私はストックはしているが,ウイルス対策用ではない.
 
 ところで,感染症の専門家ではない知名度の高い学者が最近,新型コロナウイルスについて無責任なことを書いているのを目にした.
 心理学者の香山リカ氏がハーバー・ビジネス・オンラインに《ワクチンも治療法もない新型肺炎。一般人ができる最大の「防衛策」は?》(掲載日,2020/02/09 15:31) を書いているが,その中に次の一節がある.(香山氏は,感染症を専門とする内科医から聞いた話だとしているが,ソースをなぜ匿名にするのか)
 
では、マスクの効果も限定的、ワクチンや治療法もないとなれば、日本にいる私たちができる対策は何か。イギリス国民保健サービス(NHS)がウイルス感染を防ぐ方法として推奨している以下の3つが、結局、いちばん効果的といえる。すなわち、「ぬるま湯と石けんで定期的に手を洗う」「なるべく目や鼻を触らない」「健康的な生活を維持する」。》(引用文中の文字の着色は当ブログの筆者が行った)
 
 象牙の塔に住んでいる人はこれだから困る.会社員は,営業の外回りにしろ内勤にしろ,《ぬるま湯と石けんで定期的に手を洗 》える環境にない人たちがたくさんいる.そういう人たちはどうすりゃいいのか.それを示さないのは無責任の極みである.
 そこで私が勧めるのは,エタノールのジェルである.テレビCMを打っているのは「手ピカジェル」だが,Amazonでは既に転売のターゲット (特に携帯用) になってしまっている.しかし百均ショップを探せば,同等品が見つかるかも知れない.
 先日のテレビで,女優さんが「女子の必須アイテムです」と言っていた.何に使うのかよくわからぬが,ゲル化剤のヒアルロン酸と関係があるのだろうか.とにかくこれは優れものである.
 
 話を元に戻すと,女史は《健康的な生活を維持する 》と書いているが,わが国には,既にして基礎疾患を持っている人や,健康的な生活を送りたくても,孤独,低収入,劣悪な住環境 etc.etc…厳しい環境にいる人々がゴマンといる.そういう人たちはどうすりゃいいのか,教えてくれ.

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