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2020年1月15日 (水)

鉄の道

 NHKスペシャル《アイアンロード ~知られざる古代文明の道~》がおもしろかった.
 遥かな古代,シルクロードの北側に,西アジアと極東を結ぶもう一つの「文明の道」があったという内容だ.
 私が高校生の頃に勉強した世界史では,鉄器文化 (Wikipedia【鉄器時代】) の発祥はヒッタイトだということになっていたと思う.
 
20200115b
(ヒッタイトの位置)
 
 文化というレベルの話としては,現在でもその認識でよいと思われるが,製鉄法そのものはヒッタイトが興る遥か以前から知られていたというのが現在の定説だろう.Wikipedia【鉄器時代】から下に引用する.
 
鉄の利用は鉄器時代の開幕よりもはるかに古く、紀元前3000年ごろにはすでにメソポタミアで鉄は知られていた。ただしもっとも初期には融点が高いために鉄鉱石から鉄を精錬することはできず、もっぱら隕鉄を鉄の材料としていた。その後、エジプトなどでも出土例がみられるが、精錬の難しさや隕鉄の希少性などから利用は多くなく、武器や農具としての利用は青銅を主としていた。
最初の鉄器文化は紀元前15世紀ごろにあらわれたヒッタイトとされている。ヒッタイトの存在したアナトリア高原においては鉄鉱石からの製鉄法がすでに開発されていたが、ヒッタイトは紀元前1400年ごろに炭を使って鉄を鍛造することによって鋼を開発し、鉄を主力とした最初の文化を作り上げた。ヒッタイトはその高度な製鉄技術を強力な武器にし、オリエントの強国としてエジプトなどと対峙する大国となった。その鉄の製法は国家機密として厳重に秘匿されており、周辺民族に伝わる事が無かった。しかし前1200年のカタストロフが起き、ヒッタイトが紀元前1190年頃に海の民の襲撃により滅亡するとその製鉄の秘密は周辺民族に知れ渡る事になり、エジプト・メソポタミア地方で鉄器時代が始まる事になる。》(文字の着色は当ブログの筆者が行った)
 
 引用文中の着色箇所「海の民の襲撃によってヒッタイトが滅亡した」というのは信憑性がないようだ.というのは,Wikipedia【ヒッタイト】には
 
紀元前1190年頃、通説では、民族分類が不明の地中海諸地域の諸種族混成集団と見られる「海の民」によって滅ぼされたとされているが、最近の研究で王国の末期に起こった3代におよぶ内紛が深刻な食糧難などを招き、国を維持するだけの力自体が既に失われていたことが明らかになった。
 
と書かれていて,これが最近の説であるらしい.
 ともあれヒッタイトによって高度に洗練された製鉄技術は,王国の滅亡後,スキタイ (紀元前七世紀~前二世紀) の東端の地方に伝えられた.
 
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(スキタイの版図)
 
 スキタイの東端から製鉄の遺跡を辿ってユーラシア大陸を横断していくと,アルタイ地方に至る.
 スキタイは文字を持たなかったため,従来は謎に包まれていたが,現在は版図の精力的な発掘が行われており,かなり詳しいことがわかってきたらしい.同時代のギリシャの記録などから著しく野蛮な民族だと思われてきたが,非常に高度な金属文化を持っていたようだ.
 このスキタイからさらに東方へは二手に分かれて製鉄技術が伝播したという.番組放送では駆け足になってしまったが,中国大陸で鉄の農機具が開発普及し,その結果として農業の生産性が極めて高くなった.そこら辺のところをもっと詳しく知りたかったが,この放送は続編が『歴史秘話ヒストリア』で二月に放送されるらしい.これは是非とも見逃さぬようにしなければ,と思った.
[鉄の道 (補遺) に続く]

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