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2020年1月22日 (水)

忘れられた農法 /工事中

 フジテレビ新説!所JAPAN》(2020/01/20 放送) によると,所ジョージはオオクワガタを飼っているという.本格的な趣味ではなく,ビギナーのようだ.
 そこで彼は自分の事務所のスタッフに,オオクワガタの飼育について色々と調べさせたところ,「台場クヌギ」なるものを知った.Wikipedia【オオクワガタ】に次の記述がある.
 
日本列島全般と近縁種が朝鮮半島から中国北東部にかけて生息している。日本国内においては、ほぼ全国的に分布するが、生息地域はブナ帯の原生林やクヌギの台木(台場クヌギ)林に集中し、局所的である。島嶼部では対馬のみに分布していることから、中国大陸・朝鮮半島・対馬・日本本土が陸続きだった最終氷河期の頃に南下分布した可能性が高いと考えられている。》(引用文中の文字の着色は当ブログの筆者が行った)
 
 台場クヌギ,は昆虫の採集・飼育の愛好家には周知のことらしいのだが,幹の中が腐朽して生じた洞 (ウロ) に樹液が滲出することから,色々な昆虫が集まる.Wikipedia【クヌギ】には「虫の集まる木」というタブが作られ,《クヌギは幹の一部から樹液がしみ出ていることがある。カブトムシやクワガタなどの甲虫類やチョウ、オオスズメバチなどの昆虫が樹液を求めて集まる》と書かれている.
 
 それはそれとして,そもそも「台場クヌギ」とは何か,が番組の中で紹介され,これが大変に興味深いことだった.
「台場クヌギ」は,ある目的,用途のために,クヌギの樹に手を加えたものなのである.クヌギの用途は,Wikipediaに次のように記載されている.
 
クヌギは成長が早く植林から10年ほどで木材として利用できるようになる。伐採しても切り株から萌芽更新が発生し、再び数年後には樹勢を回復する。持続的な利用が可能な里山の樹木の一つで、農村に住む人々に利用されてきた。里山は下草刈りや枝打ち、定期的な伐採など人の手が入ることによって維持されていたが、近代化とともに農業や生活様式が変化し放置されることも多くなった。
材質は硬く、建築材や器具材、車両、船舶に使われるほか、薪や椎茸栽培の榾木(ほだぎ)として用いられる。
落葉は腐葉土として作物の肥料に利用される。
実は爪楊枝を刺して独楽にするなど子供の玩具として利用される。また、縄文時代の遺跡からクヌギの実が土器などともに発掘されたことから、灰汁抜きをして食べたと考えられている。
樹皮やドングリの殻は、つるばみ染め(橡染め)の染料として用いられる。つるばみ染めは媒染剤として鉄を加え、染め上がりは黒から紺色になる。
養蚕では、屋内で蚕を飼育する家蚕(かさん)が行われる以前から、野外でクヌギの葉にヤママユガ(天蚕)を付けて飼育する方法が行われていた。
樹皮は樸樕(ボクソク)という生薬であり、十味敗毒湯、治打撲一方(ヂダボクイッポウ)といった漢方薬に配合される。
中華人民共和国四川省では、標高3,500mを超える地域にクヌギ林が成立しており、マツタケ林として利用されている。

 
 クヌギを建築用材として利用するには普通に,幹を太く樹高を高く育てればよい.ところが,上の解説にあるヤママユガの飼育では,低い位置に枝がないと困る.また上の引用文中にはないが,それほど太くない枝を利用する用途もある.例えば,茶室の炉で焚く炭は,クヌギ材の炭で,断面が真円に近くて太くないものが高級品 (断面の様子から「菊炭」と呼ばれる) である.(資料「茶の湯炭について)
 このように,建築用材以外の用途では,クヌギの幹を,地上一メートル少しくらいの高さで切断して「仕立てる」
 こうすると,切断したところから枝が何本も発生 (萌芽更新) して伸びる.つまり樹高を高くすることなく,ずっと何度も枝を伐って使い続けることができる.このようなやり方で「仕立て」たクヌギを台場クヌギという.切断部分が肥大して「台」のように見えることから台場クヌギと言う.その写真は《台場クヌギの林》.
 私は,農学部の学生時代に林学系の講義を聴いたので,台場クヌギの知識はあったが,その主たる用途は茶道用の炭の生産だと理解していた.もう一つの用途,野生種の蛾からの繭糸の生産は,戦後になって完全に衰退していた.日本森林学会の定期刊行物『森林科学』に記事《猪名川上流域の里山(台場クヌギ)について 》が掲載されているが,その中から一部を下に引用する.
 
炭を生産する里山、クヌギ林の状況
 茶道の道具炭を生産することによって、猪名川上流域の一部ではあるが、兵庫県川西市黒川のクヌギ優占の里山は現在も平安時代以来の里山景観 (輪伐によるパッチワーク景観)を維持している。当地域はほぼ10年周期で伐採を繰り返すので、伐採直後から伐採直前までの林齢の異なった10林分がパッチワーク状、モザイク状に配置されている。
 最初はクヌギの植栽によるクヌギ林が作られる。植栽後10~20年後、幹を地上から1~2mの高さで伐って、高い切株を作成する。その切株の上部から萌芽する幹を10年ごとに伐採を繰り返すと、切株は太くなり、直径70~80cmに達するような株が形成される。このような株立ちのクヌギを台場クヌギと当地域ではよんでいる。台場クヌギは樹齢200年に達する個体もあり、また1844年に出版された広益国産考に記述されていることから400年近い歴史を持つと考えられる。
 台木仕立てのクヌギ林は京都府、滋賀県、山梨県などにも見られるが、これらの地域では古文書、古書籍の記録がないだけではなく、現在は放置されており、利用方法も不明である。当地域では現在も台場クヌギが利用されており、かつての里山景観を見ることができる数少ない場所である。
》(引用文中の文字の着色は当ブログの筆者が行った)
 
 上の引用文中の《これらの地域では古文書、古書籍の記録がないだけではなく、現在は放置されており、利用方法も不明である 》は,実は誤りである.《新説!所JAPAN》(2020/01/20 放送) は,各地域の台場クヌギについて地元の人へインタビューを行い,その用途に関する証言と記録写真を明らかにした.学会刊行物に記載された記事の誤りを,テレビ番組が訂正したわけで,これはまことにレアな事例だと思われる.
 さて番組制作スタッフは,台場クヌギがたくさん現存するためにオオクワガタの生息地として知られる山梨県北杜市を訪ね,地元の人にインタビューした.ちなみに北杜市は,1981年7月25日,野生下における最大個体 (76.6mmの雄成虫) が採集された土地である. 
 先に掲げた『森林科学』の記事に書かれているように,北杜市の台場クヌギ林は,現在は放置されている.しかし,高齢者の証言によれば,この台場クヌギ林は「カッチキ」のために作られたものだという.「カッチキ」は山梨県の方言で,本来は「刈敷」と書く.カリシキが訛ってカッチキである.

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