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2019年12月 5日 (木)

東京都美術館のケーキ

 私は長いこと関東地方に住んでいるが,今年の秋ほど悪い秋はなかった.
 台風のことだ.
 いのちを失った方々,果樹園や田畑が泥に埋まって離農に追い込まれた人たち.家を失い,あるいは職を失った被災者.
 自分が直接被害に遭ったわけではないが,千葉県南部や長野県,福島県など大被害を被った地方は今も災害から立ち直ったとは言い難く,それはテレビでも時折報道されている.
 実は台風15号の来襲する前に,私は北陸旅行の計画を立てていた.しかし北陸新幹線にのって旅に出る予定の日あたりに台風が来そうだということで急遽,宿をキャンセルしたのだった.
 
 それからあと,北陸新幹線が営業できなくなったりで,すっかり旅の意欲を失ったままになった.
 旅行のことはそれとして前々から秋になったら東京都美術館の「コートールド美術館展 魅惑の印象派」にも出かけるつもりだったのが,それもなんとなく行きそびれたままになっていた.
 それが十二月の声を聞いて,少し慌てた.このままではせっかくの美術展が終わってしまう.それで昨日,腰を上げた.
 たいていの美術展は,開催期間の途中で来館者が少し減って,終わりが近くなるとまた混雑するようになるものだ.
 だから九時半の開館に合わせて自宅を出た.上野駅の公園口を出たのは予定の九時半を少し過ぎた頃だった.
 改札口のすぐ前が東京文化会館だが,ここで唐突に昔の記憶が立ち戻ってきた.
 中学の同級生で,○井素子さんという女の子がいた.彼女は音楽大学に進んだのだが,ある年の秋,彼女がオケのメンバーとしてステージに上がる音楽会に誘われたことがある.それが東京文化会館だった.
 そのコンサートの演目が何だったか全く覚えていないが,彼女のかわいらしかった顔立ちを思い出して,少しセンチメンタルになった.
 
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 この美術展の目玉は上の写真にある通り,マネの『フォリー・ベルジェールのバー』だ.それとルノワールの『桟敷席』,ゴーガンの『ネヴァーモア』,セザンヌの油彩画多数など.
『フォリー・ベルジェールのバー』は私が若かった時に,デパートで開催されたコートールド・コレクション展で観て,それ以来だが,調べたらそれは1997年のことだった.
 
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(フォリー・ベルジェールのバー;パブリックドメイン,File:Edouard Manet 004.jpg from Wikimedia)
 
 主要作品には,大きな解説パネルが設けられていて,鑑賞のポイントが書かれている.こういう試みは初めて見た.
 これについて美術展の公式サイトには次のように書かれている.
 
名画を読み解く
 コートールド美術館の研究所の展示施設という側面に着目し、名画を「読み解く」方法を紹介します。画家の語った言葉や同時代の状況、制作の背景、科学調査により明らかになった制作の過程などを知ることで、新たな見方を楽しむことができるかもしれません。
 
 中野京子先生の著書を読み慣れたファンとしては,『フォリー・ベルジェールのバー』のパネル解説はジュニア向けというか,いささか物足りないと言わざるを得ない.(近刊としては『中野京子と読み解く 運命の絵 もう逃れられない』にこの作品が取り上げられている)
 しかし『桟敷席』とモディリアーニ『裸婦』の解説には「ほお」と思うところがあった.例えば『桟敷席』で,後ろの紳士と着飾った女性との境に描かれているものが何だかわからないままでいたのだが,それが解説に書かれていて,ようやくわかったのである.
 
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(桟敷席;パブリックドメイン,File:Pierre-Auguste Renoir, La loge (The Theater Box).jpg from Wikimedia)
 
 全体的に見応えのある美術展だった.展示会場を出たのが十二時だったから,たっぷり二時間も楽しんだわけである.
 展示会場出口の特設グッズ売り場でマグネットを二個買い,さて昼飯はどうしようと少し考えて,一階にあるカフェ,cafe Art で「紅茶のシフォンケーキ キャラメルアイスを添えて」を食べることにした.これは今回の美術展とのコラボメニューだとのこと.
 
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 おいしかったけれど,これのどこが魅惑の印象派なのかというと,コートールド美術館は英国だから「紅茶つながり」ということらしい.
 カフェを出て公園の中を散策したら,大道芸の若者がパフォーマンスをしていた.二十人くらいの観衆がいて,私が後ろのほうに立ったら,彼 (自分ではパフォーマーだと言っていた) が前の方に詰めて欲しいと言った.言われるままに前に出たら,帽子を取り出して見物料の話をし始めた.どうやら彼のショーは終わりらしい.私は彼の芸を全然見ていないのだから,そそくさと逃げ出した.
 そのあと,公園の中をぶらぶらと歩いてはみたが,樹々はあまりきれいに色づいてはいなかった.
 お昼御飯にケーキというのもいいけれど,すぐ小腹がすくかも知れない.東京駅のグランスタで松露サンドでも買って帰ろうかと思った.
 
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