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2019年12月 2日 (月)

慶應大学伊藤裕教授の大ウソ (三)

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 前回の記事で,ヒト属には,脳の大きさ (ニューロンの新生,増加) を制御しているらしい遺伝子MCPHがあると述べた.
 MCPHはサルにも存在するようで,中国の研究者は,アカゲザルを実験動物として研究を進めている.中国は,この種の研究に関してはナンデモアリで倫理規範もへったくれもない国だから,現代人を対象にしてゲノム編集なんかを平気で行う.
 *「世界初のゲノム編集赤ちゃん」の正当性主張 中国科学者 (HUFFP0ST,2018年11月29日)
 * ゲノム編集サルでクローン 中国で5匹誕生 (日経新聞,2019年1月24日)
 
 MCPHに関してもアカゲザルのゲノム編集を行ったと報道された.
 * ヒトの脳を発達させる遺伝子、サルへの移植に成功。「非常に危険な道」と物議 (HUFFPOST,2019年4月15日)
 
 脳を制御している遺伝子はMCPHだけではないようで,新井先生の総説も少し,脳の機能に関わるDNAのことに触れている.それらの脳の遺伝をつかさどる遺伝子の全体像が分明でないのにMCPHの動物実験だけが先行し,やがてヒトMCPHバンクなんぞができて,MCPHビジネスが起業されるというおぞましい未来が私たちを待っているかも知れない.
 それはともかく,脳科学は時代の脚光を浴びている学問ジャンルだ.いずれヒトの進化におけるMCPHの意味が明らかにされるだろう.そのような状況下,伊藤教授は医学部の教授であるから,ヒトの脳の発達に関わる遺伝子のことを知らないはずがない.
 しかるに伊藤教授は,NHK『食の起源』の放送では遺伝子のことを視聴者に隠し,炭水化物を多食すると脳が大きくなるというトンデモな方向に暴走したのである.そして興味深いことに,伊藤教授が暴走した部分は,NスペPlusの記述にはほとんど記載されていないのである.そこで,かろうじて書かれている部分を下に引用する.
 
20191201e
 
 農学部や生活科学系学部などで栄養学を学んだ学生は皆承知しているように,上の引用文中の《加熱されたでんぷんは体内でブドウ糖に分解され、腸で吸収。その多くが脳へと向かう 》の《その多くが 》は嘘八百である.実際の放送では,もっと詳しいナレーションが行われ,もっともらしい動画が映し出されたので,テキストに起こして《 》内に紹介する.
 
加熱されたデンプンは,体内で糖に分解されます.(画面19) そして腸から吸収され,ある場所へと向かうんです.
 
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(画面19) 

 その場所はどこなのか.人体にブドウ糖を注射して確かめた貴重な映像です
 
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(画面20)
 
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(画面21)
 
  
 赤や黄色で示されているのが,ブドウ糖がたくさん集まっている場所.(画面21)
 ほとんどが脳に集中していることがわかります(画面20)
 脳は体の中で最もエネルギーを必要とする臓器だからです.デンプンを加熱して食べ始めた祖先の脳にもブドウ糖が大量に届き始めたと考えられます.
 
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(画面22)
 
 木の実などを生で食べていた頃は,得られるブドウ糖の量は少なく,脳の神経細胞はそれを細々と吸収するだけでした(画面22)
 

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(画面23)
 
 でも加熱調理によって大量のブドウ糖が送られてくるようになると,余すところなく吸収しようと,神経細胞は増殖を始めたと考えられます(画面23)
 そして,脳に何が起きたか
 
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(画面24)
 
 左が初期の人類,右がその後火を使い始めたホモ・エレクトスの頭蓋骨(画面24)
 
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(画面25)
 
 ホモ・エレクトスの脳は,なんと2倍以上に巨大化したのです(画面25)
 
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(画面26)
 
伊藤教授……肉はやっぱり栄養分がたくさんあるじゃないですか.だから脳が大きくなったって言うんですけれども,それだけではなくって,きっと毎日根っことか取れますよね(画面26) それを調理することで,たくさん糖分が入って,そして脳が大きくなった.脳が大きくなってから狩りができるようになったと.(画面27)

20191204k
(画面27)
 
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(画面28)
 
TOKIO長瀬……他の動物でも脳みそが大きくなるってことはあり得るんですか? 
(画面28)

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(画面29)
 
伊藤教授……人間だけが特徴的に大きいんですね.考えてみると人間しか調理しないんです.
TOKIO長瀬……確かにそうですね.
 

20191204n
(画面30)

伊藤教授……調理をする動物っていませんよ.だからそう思うとやっぱり我々がやっぱりデンプンを調理したってことが,脳が大きくなった原因です.
(画面30;伊藤教授は,放送時収録の音声では「原因です」と断定したが,放送時の字幕では「原因ではないか」と修正されていた.こういうやり方で情報操作が行われるのだなと,細かいテクニックに感心した)
TOKIO長瀬……空腹時にイライラするってのは,やはりそういうことと現象的に近いものがあるんですか?
伊藤教授……やっぱり脳ってのは基本的にはブドウ糖しか使えないです.ですからやっぱり脳にとってブドウ糖がないってことは,ものすごく困るんですね.
TOKIO長瀬,国分……なるほど.おもしろい.
近江アナ……進化の過程を見ていくと,人間と糖の関係って切っても切り離せない.だからこそ現代の私たちの健康にも糖質が重要な役割を果たしているという事実がわかってきたんです.
 
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20191204p
(画面31) 》
 
とまぁ,このような進行を番組前半に行い,続いてNHK『食の起源』はアンチ糖質制限キャンペーンを展開したの
である.(画面31)
 この連載の最初に,NHK『食の起源』はツッコミどころ満載だと書いた.そのツッコミどころを一つ一つ説明していく.
 
〈ナレーション1〉
加熱されたデンプンは,体内で糖に分解されます.そして腸から吸収され,ある場所へと向かうんです.その場所はどこなのか.人体にブドウ糖を注射して確かめた貴重な映像です.ほとんどが脳に集中していることがわかります.
 
 (画面20と21) が掲載されている論文 (著者は福井大学高エネルギー医学研究センターの岡沢秀彦先生) を探したのだが見つけることができていない.岡沢先生によるこの画像は,脳のどの部位が活発にグルコース (ブドウ糖) を代謝しているかを示している.論文を読んでいないのだが,標識したグルコースを物理化学的方法で検出し,それをCGで表現しようとしたものだろう.その目的のためには,脳にグルコースが集中するような条件で測定を行う必要がある.そのためには,脳以外の臓器や骨格筋にグルコースが行かないようにしなければいけない.例えば予め骨格筋に貯蔵されているグリコーゲンをMAXにしておき,グルコースが骨格筋に蓄積しないような条件を工夫したのではないか.食べ物の成分として炭水化物が糖に分解され,小腸で吸収され,そのうちのグルコースが血糖として全身に行きわたるというプロセスでは困るわけだ.標識したグルコースを,消化吸収のプロセスではなく,血管に注射したのはそのためだろう.つまり,(画面20と21) は「脳にグルコースが行くようにして測定された」のであり,「人体に吸収されたグルコースがどこに行くか」とは意味が違うデータだと考えられる.
 放送では「腸から吸収されたブドウ糖は,ほとんどが脳に集中している」という伊藤教授説をナレーションしたのだが,これは嘘である.血糖は全身に送られるのである.その大部分は脳以外に送られて消費 (下記) される.それは,グルコースを血管に注射するのではなく,消化吸収されたグルコースが体のどの部位で代謝されるかを測定することで理解される.一般向けの定性的概論としては,この総説 を参照されたい.肝臓での代謝,解糖系,筋組織における代謝,脳での代謝に分けて解説されている.
 定量的な話は,独立行政法人国立健康・栄養研究所の田中茂穂先生の総説「総論 エネルギー消費量とその測定方法」(静脈経腸栄養,Vol.24 No.5,2009) が参考になる.この総説の表1を下に引用する.
20191204j
 表1の「安静時」とは,
・約12時間以上の絶食
・安静仰臥位で筋の緊張を最小限にした状態
・快適な室温で心身ともにストレスの少ない覚醒状態
であり,基礎代謝量を100とした時の,各臓器が消費するエネルギーの割合を示している.(出典;Elia M. Organ and tissue contribution to metabolic rate. Edited by Kinney JM and Tucker HN. Energy Metabolism. Tissue Determinants and Cellular Corrolaries. Raven Press, New York, 1992, p.61-77. )
 この表の数値は,安静時であっても体格によって異なるし,また身体が活動している時には骨格筋のエネルギー消費の割合が高くなるだろう.しかし一般的に言えば,放送時のナレーション《脳は体の中で最もエネルギーを必要とする臓器だからです》は嘘である.肝臓と脳が必要とするエネルギーはほぼ同程度だ.臓器ではないが,個々の筋肉ではなく全身の筋肉が必要とするエネルギーの合計も,肝臓に匹敵する.
 腸から吸収されたグルコースが体のどこに運ばれて消費されるかの割合は,体格や活動状態によるから一概には言えないのだが,少なくともNHK『食の起源』が放送した「ブドウ糖は脳に集中する」が虚偽であることは明らかである.脳は吸収されたグルコースの20%程度を消費するに過ぎない
 こんな事実は管理栄養士には常識だし,栄養学とは無縁の若い女性でも知っている.彼女らは,小山内あやさんのような美しい体を手に入れるために筋トレをする.脳トレに励むお嬢さんはいない.
 それはともかく,伊藤教授は「体に消化吸収されるグルコースが増えたためにヒトの脳は大きくなる方向に進化した」という奇説を正当化するために「脳の大きさは遺伝的にプログラムされているのであり,すなわち生殖細胞に起きた突然変異こそが〈ヒトの脳が大きくなる方向に進化した原因〉である」ということをひた隠しにした.それが (画面22と23) である.
 
〈ナレーション2〉
木の実などを生で食べていた頃は,得られるブドウ糖の量は少なく,脳の神経細胞はそれを細々と吸収するだけでした.でも加熱調理によって大量のブドウ糖が送られてくるようになると,余すところなく吸収しようと,神経細胞は増殖を始めたと考えられます.
 
 芋や球根にはデンプンなどの分子量の大きい多糖類が貯蔵されているが,それら貯蔵器官以外の根や地下茎は強靭な繊維質が多く,そのままでは人間には食べることも困難だ.貯蔵器官に含まれる多糖類も多くは結晶状態であり極めて難消化性である.堅果のデンプンも同様で,そのまま多食すれば下痢をする.また植物の地上部 (茎,葉) には結晶性のセルロースが多く,非常に難消化性である.
 樹上生活から地上に降りた初期の人類は,現代人と同様に,芋や堅果を食べてもほとんど消化できなかったはずである.なぜなら,そもそも人間の消化器官は生のデンプンを消化可能にはできていないのである.下表に草食動物とヒト,肉食動物の腸の長さを示す.(資料から抜粋)
----------------------------------
動物  腸の長さ(m)   腸/体長
----------------------------------
ウマ    30       12
ウシ    50       22~29
ヒツジ   31       27

ヒト     7        4.5
ライオン   7        3.9
オオカミ   6        4
----------------------------------
 上表を見ると,ヒトの腸は肉食動物並みの長さしかないことがわかる.こんな短い腸でも初期の人類が樹上で生きていられたのは,軟らかい果肉にショ糖や果糖を含む果実を食べていたからだと考えられる.ところがアフリカは,気候変動のために熱帯性森林は疎らになり,彼らは樹上生活を追われた.地上における競争者である草食動物ほどの長い腸を持たなかった初期人類は,デンプンやセルロースを消化できなかったに違いない.地下茎も根も堅果も彼らの食料にはならなかったのだ.そこで彼らは捕獲しやすい小爬虫類や魚,昆虫などを食べて生き延びたと思われる.肉食獣の食い残しを漁ったとする仮説もある.(Wikipedia【腐肉食】の「古人類は屍肉食いであったか」を参照)
 それらの動物性の食料は短い消化管でも消化吸収できるから有用だったが,脳と赤血球のエネルギー源であるグルコースをほとんど含んでいない.ヒトの臓器や筋肉などは,安静時であってもエネルギーを消費する.これが基礎代謝だ.生きているだけで必要な最小コストである.
 初期人類の誕生,すなわちヒトの系統がチンパンジーから分岐したのが約700万年前だとして,ホモ・エレクトスが火を扱えるようになった約75万年前 (この推定年代の考古学的証拠はゲシャー遺跡から得られた) まで,人類はデンプン質の食べ物を食べて消化吸収することができなかった.つまり脳やミトコンドリアを持たない細胞 (赤血球など) のエネルギー源であるゴルコースを,日常的に継続して食べ物から経腸的に得ることができなかった.(ロビン・ダンバーは,ヒトが「調理をできる」程度に火を扱い,グルコースを安定的に食べ物から得ることができたのは,さらに時代を下って約50万年前だと推定している)
 それでは,約200万年前から約75万年前までの間,ヒトの脳の最小コストはどのように賄われていたのか.
 それが「糖新生」である.
 肉食動物や雑食性動物 (これに加えて反芻を行う草食動物も) は血糖値が低下して脳や赤血球が必要とするエネルギーを供給できない状態になると,血糖値を制御するホルモンの一つであるグルカゴンが分泌される.グルカゴンによって活性化した酵素が,肝臓に貯蔵されているグリコーゲンの分解,およびアミノ酸等からの糖新生を促進し,血糖値が上昇する.この反応は,腸からグルコースが吸収されない状態でも,生体が致命的なダメージを受けるのを防ぐ仕組みである.少し詳しい説明は《糖新生とは 》に譲る.(Wikipedia【糖新生】は説明に不充分な点がある)
 伊藤教授は《木の実などを生で食べていた頃は,得られるブドウ糖の量は少なく,脳の神経細胞はそれを細々と吸収するだけでした(画面22) としているが,《細々と吸収するだけ》で脳などが必要とするエネルギーを確保できていたとする根拠の説明がなされていない.
 肉食獣のような狩りの能力も,草食動物のような長い消化器も持たない初期人類は慢性的に食料不足だったろう.不足どころか飢餓状態になっても脳を維持できたのは糖新生という生体反応が存在したからである.『食の起源』の放送で伊藤教授が糖新生の重要性に触れなかったのは,著しくアンフェアである.
 次に《でも加熱調理によって大量のブドウ糖が送られてくるようになると,余すところなく吸収しようと,神経細胞は増殖を始めたと考えられます(画面23) が意味不明だ.脳とは別のことになるが,筋肉の場合は運動することで筋繊維の損傷が起きると,損傷から回復する生体反応が始まるが,その回復に必要な食べ物はタンパク質やペプチド,アミノ酸である.そして損傷して失われた筋
繊維以上に回復が行われ,結果的に筋肉が増強する.この過程は運動生理学の研究者が確かめ,またボディビルダーたちが,運動の前に糖質を摂取し,運動後には筋肉の増強のためにプロテイン飲料を摂取することで実践的に確認した.
 脳はどうなのか.伊藤教授は,大量のグルコース (ブドウ糖) が脳に供給されると神経細胞が増殖すると主張している.しかし筋肉の場合,大量のグルコースを供給しても細胞の増殖は起きない.筋肉内にグリコーゲンとして蓄積されるだけである.
 なぜ脳の神経細胞は,筋肉細胞の増殖とは異なり,グルコースを与えると増殖するのか,伊藤教授はそれを説明せねばならない.もし伊藤説が正しいならば,狩猟で得た生肉を主食としてきた伝統的なエスキモーよりも,ほぼトウモロコシとわずかなトウガラシのみを食べてきた伝統的な南米高地の先住民 (以前はインディオと呼ぶのが普通だった彼らの食生活については,四十年ほど前に当時の文部省の研究プロジェクトチームが調査した結果がある) の脳は大きくて然るべきだが,私はそんな話を聞いたことがない.
 余談だが,(画面23) でナレーションが《
余すところなく吸収しよう》としたのは文学的な擬人化表現である.細胞レベルの事象は生命科学の言葉で説明されねばならない.科学に文学的表現を持ち込むのはペテンだ. 
 
〈ナレーション3〉
左が初期の人類,右がその後火を使い始めたホモ・エレクトスの頭蓋骨.ホモ・エレクトスの脳は,なんと2倍以上に巨大化したのです. 
 
 このナレーションの「なんと2倍以上に巨大した」は,「ホモ・エレクトスの頭蓋骨容積は,初期人類と同じ500ml程度から,1,000ml以上に増加した」という文脈で語られた.これが誤りであることは,この連載の《慶應大学伊藤裕教授の大ウソ (二)》で述べたが,もう一度ロビン・ダンバーが『人類進化の謎を解き明かす』(インターシフト,2016年) の図1-3 (p.23) で解説している箇所を引用する.要点は着色して示す.
 
《図1-3に主要な化石ホミニンすべての脳容量を示す。過去六〇〇万年という長い時間をかけて、ホミニンの脳の大きさは一貫して増え、類人猿に近いアウストラロピテクスの時代の脳から現生人類の脳までで三倍になった。これを見ると、脳には際限なく大きくなるような圧力がたえずかかっていたように思われる。しかし、これは大きな脳に対する淘汰圧がずっとあったことをかならずしも意味するわけではない。事実、地質年代をとおして脳の大きさが継続して増加したというのは、異種の標本をひとまとめにしてしまったことから生じた錯覚だ。異なる種を区別すれば、より継続平衡に近いパターンが見えてくる。つまり、新たな種が生まれるたびに、当初は脳の大きさに急激な増加や移行期らしき兆候が見えるが、しばらくすると脳の大きさは安定するのだ。
 
 ホモ・エレクトス (190万年前~7万年前) は,ホモ・ハビリス (240万年前~140万年前) と共通の祖先から分岐した種であるが,ホモ・ハビリスの脳が500mlくらいだったのに対して,ホモ・エレクトスの脳は900~1,100mlであるとされる.(Wikipedia【人類の誕生】)
 つまりホモ・エレクトスは出現したとき既に大きい脳を持っていた.「約200万年前に火を使うようになったホモ・エレクトスの脳は,調理による栄養改善効果によって巨大化した」(=伊藤教授説) のではなく,「大きい脳を持って出現したホモ・エレクトスは,大きい脳のおかげで,約75万年前に火を使うことができるようになった」(ロビン・ダンバーの解説) のである.
 伊藤教授の説の基礎になっている「200万年前にホモ・エレクトスは火を使うようになった」は,加熱調理したデンプンを食べたことによりホモ・エレクトスの脳が大きくなったという奇説の辻褄合わせをするために行われた捏造である.ゲシャー遺跡の考古学的研究によれば,ホモ・エレクトスが火を使い始めたのは約75万年前だ.このように証拠を無視して論を組み立てるのは,非科学的であること甚だしい.仮説以下の暴論である.
 その暴論を粉砕しかねない質問がTOKIOの長瀬さんから飛び出た.
 
〈出演者の発言〉
TOKIO長瀬……他の動物でも脳みそが大きくなるってことはあり得るんですか?
伊藤教授……人間だけが特徴的に大きいんですね.考えてみると人間しか調理しないんです

TOKIO長瀬……確かにそうですね.
伊藤教授……調理をする動物っていませんよ.だからそう思うとやっぱり我々がやっぱりデンプンを調理したってことが,脳が大きくなった原因です
 
 長瀬さんの質問は,伊藤教授説の致命的な部分を衝いている.これは「ライオンやオオカミなどの肉食獣の仔を,離乳後ずっと,炊いた米飯を主食にして育てたら,脳が巨大化するか?」という内容を含んでいるからだ.
 伊藤説に従えばイエスだが,さすがにそう答える度胸はなかったようだ.学者生命が終わってしまう.
 そこで伊藤教授は,この質問に答えず,逃げることにした.ホモ・エレクトスの脳が巨大化した原因は,グルコースが大量に脳に供給されたことだと言ったばかりなのに,グルコースが原因ではなく調理をするかどうかだと問題をすり替えたのである.ここに至っては,全国の理系のおとうさんたちは,こういう奇説を講義される慶應大学の学生たちに同情しただろう.
 
 番組はこのあと,もっと珍妙な主張を展開したのだが,ここら辺にしておく.次の放送は「塩」がテーマらしい.どんな内容になるか,楽しみである.
[慶應大学伊藤裕教授の大ウソ (補遺) へ続く]
 
[この連載記事の一覧]
慶應大学伊藤裕教授の大ウソ (一)
慶應大学伊藤裕教授の大ウソ (二)
慶應大学伊藤裕教授の大ウソ (三)
慶應大学伊藤裕教授の大ウソ (補遺)

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