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2019年11月 1日 (金)

日ノ出町のカレー

 何やらテレビを観ているとやたらに食い物のことが取り上げられる.私は食品会社一筋に勤め上げた会社員だったので,食い物の話は好きだし,そこそこの専門知識もある.
 しかし最近の話題でついていけないことがある.スパイスカレーだ.
 市販の即席カレールーを使う家庭料理のカレーや,蕎麦屋の鰹出し風味のカレーは別として,街中の洋食屋のカレーもインド料理店のカレーもスパイシーだ.というか,カレーは本来がスパイシーだ.
 そこへもってきて,スパイシーカレーならぬスパイスカレーとはなんぞや.それじゃあまるで,従来のカレーがスパイスを使っていないみたいじゃないか.それはいったいなんだ.どうにもわからぬ.
 何を食っても「あま~い」としか言えぬ バカ女が 食レポタレントがテレビで「これこそスパイスカレーってかんじですよね! あま~い!」とか言うのを聞くと,日本の料理界における一大トレンド「あま~い」についていけない老人 σ(--) はしみじみと老いた我が身が情けない.
 そこでネットを調べてみた.「スパイスカレーとは」で検索するとトップにヒットする《2017年のカレートレンドは「スパイスカレー」で決定らしい 》(掲載日付 2017年9月19日) によると「定義はない」のだという.とはいうものの何でもアリではなくて,スパイスカレーと呼ばれるに必要な条件は「映える (ばえる) 」ということらしい.なるほど.ということなら私には無縁のことである.どうぞお好きなように.
 
 昨日,横浜市立中央図書館に出かけた.ドストエフスキーの生活に関する文献書籍を調べているのだが,ドストエフスキーの最期を看取ったアンナ・ドストエフスカヤが遺した日記と回想録を借りにいったのである.
 アンナの回想録は何度も邦訳されたのだが,松下裕訳『回想のドストエフスキー 1』(みすず書房,1999年9月10日発行) 以外はすべて手に入れた.これが残ったのは,古書の価格が高かったからである.
 彼女の日記の翻訳書『ドストエーフスキイ夫人 アンナの日記』(河出書房新社,1979年9月28日初版発行) も同じ理由で,図書館で借りて読むことにした.
 私は横浜市民であるが,幸いなことに横浜市図書館と川崎市図書館と協力関係にあるので,私が資料調べに利用するのは神奈川県立図書館と横浜市立図書館,それと川崎市立図書館である.ま,古書が手に入らないときは,だいたいこの三つの図書館の蔵書を借りて用は足りている.これらに蔵書がないものは,よくしたもので国会図書館にデジタルコレクションされていたりする.
 
 数多い横浜市立図書館のうちでは,やはり中央図書館が充実しているようだ.それはありがたいのであるが,この図書館は立地がよくない.
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 上の写真は野毛坂交差点からの遠景だ.奥に見える建物が中央図書館で,手前のレンガ外壁のビルは横浜マンダリンホテルである.
 野毛坂交差点のすぐ近くに横浜市営バス停「野毛坂」 (103,292系統)と同バス停「中央図書館」(89系統) があり,このバス路線付近に住んでいる人は,バスで行くのがよい.
 また横浜駅で京浜急行に乗り換えて来る利用者は日ノ出町駅で降りて五分ほど歩くことになる.改札口を出て大通りを道なりに行くと,マンションの手前に図書館への近道がある.しかしこのショートカットは階段で,腰や脚に障碍がある人は登れない.階段の両側にスロープはあるが,これは二輪車用で,車椅子では登れない.そこで近道をしない人は,そのまま進むと上の写真の野毛坂交差点に達する.
 つまりバスでも京急でも,いずれにせよ図書館へは野毛坂交差点からスロープを上がる必要があるのだ.健常者にはどうってこともない坂だが,障碍者には優しくない.
 桜木町駅からタクシーを利用して坂道をあがったところで降りても,中央図書館の敷地にタクシーは入れないので玄関まで歩かねばならないが,御丁寧に玄関の前には,またまた階段が作られているのである.
 この図書館はバリアフリーという概念が世に知られる前に建設されたのであろうが,林横浜市長は,山下埠頭にカジノを誘致する税金の余裕があるなら,障碍者や高齢者に対してもっと優しくできぬものだろうか.将来建設される賭博場は,きっと万全のバリアフリーであるに違いないが.
 とはいえ横浜市が弱者に何の手も講じていないかというと,そうでもない.図書館の公式サイトに《障害のある方へのサービス 》から下に一部引用する.
 
心身に障害があり図書館への来館が困難な方に、図書や雑誌の配送貸出を行います。
配送貸出のご利用には事前の利用登録が必要です。中央図書館で受け付けています。
ご登録いただけるのは、横浜市内に在住もしくは在学、在勤で、身体障害者手帳・療育手帳(愛の手帳)・精神障害者保健福祉手帳のいずれかの交付を受けている方です。
登録の際は、お名前やご住所などのほか、障害者手帳の区分・等級等を確認させていただきます。
各図書館窓口での貸出と併用することはできません(すでに図書館カードをお持ちの方も、窓口で本を借りることはできなくなります)。
 
 だがこの利用規約には問題点が二つある.一つは,他市町村の人はこのサービスの適用外であること.これは上に述べたように,横浜市民以外の人たちを横浜市立図書館から排除しようとする意図が底にある.
 二つ目は,障碍者がこのサービスに登録すると,窓口で貸出サービスを受けることができなくなることだ.いったん障碍者登録すると,介助者の手を借りて来館し,本を借りることができなくなるのである.このように障碍者と健常者との間に明確な線引きをして,その中間を認めないという理由が私にはわからない.底意地が悪いとしか思えぬ.障碍者に,コストがかかるこのサービスの利用を躊躇させようとの意図なのであろうか.障碍者登録した人が窓口でも貸出サービスを受けられるようにすると,きっと健常者から,不公平だ,逆差別だとクレームがつくだろう.長い事生きてくると,日本人がそのような民度の国民であることがわかってくる.
 さて,事前に中央図書館の公式サイトで,借りたい本を検索し,書誌事項を紙に書いてくると貸出手続きが簡単だ.玄関を入ってすぐのヘルプデスクの係員にその紙を見せると番号札を渡される.すると地下の書庫から本を出してきてくれるから,あとは貸出窓口に設置されているディスプレイに自分の番号が表示されるまで待っていればよろしい.
 
 かようにして私が二冊の本を窓口で受け取ったのは十一時少し前だった.
 リュックに本を入れて図書館を出る.前々から中央図書館の近くに評判のカレー屋があることは知っていたので,そこで昼飯を食うことにした.私は毎日,早朝の四時に朝食を作って摂るので,昼飯はこの時間になる.
 カレー屋の場所は野毛坂交差点のすぐ近くである.十一時に交差点で信号待ちしていると,開店と同時に数人の客が店に入っていくのが見えた.数分後に私がドアを押して店に入ると,既に八人の客が席に着いていて,二人掛けのテーブルが一つ空いているだけであった.
 ラッキーな私がそのテーブルに着くと,あとから若い男女二人連れが入ってきた.彼らは店の女性店員さんに「相席になりますけど,いいでしょうか」と言われ,店員さんが,四人掛けテーブルに着いていた若くて美人 (当社比) のママさんと小さな男の子に「相席お願いしてよろしいですか?」と訊くと,どうぞどうぞという具合になった.
 下の写真,植栽で店名が読めないが,Kikuya Curry という.店のウェブサイトはないので,食べログのコンテンツにリンクを張っておく.
 
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 このカレー屋の献立だが,初見だと少々わかりにくい.「カリー」と書いてあるが,実はいわゆる「スープカレー」である.
 スープは,(1) カシミールカリー,(2) スパイシーなスリランカ風,(3) ストレートな辛さに玉葱の甘さをプラスした和風南蛮,(4) 和風南蛮に生クリームでアレンジしたバター・マサラ,の四種類あって,そのうち一つをチョイスする.カシミールは辛口で,スリランカは中辛だという.
 スープの種類とは別に,スープに入れる具による種類別があり,それは以下の通り.
 
* 野菜・チャナ豆カリー
* ローストチキンカリー
* 豚バラカリー
* ハンバーグカリー
* Ebihotatetako kari
** 牛リブ・カリー
** じゃが芋・ローストチキンカリー
** じゃが芋・豚バラカリー
 
 つまり「豚バラカリーのスリランカを」みたいにオーダーすればいいらしい.
 開店と同時に入った客たちのうちで,男女カップル一組を除いて,あとはみんな店員さんからオーダーの仕方の説明を受けていた.つまり私を含め,ほぼ全員が初めての来店なのであった.口コミサイトで評判のよい店は,こういう客層が押し寄せるものなんだろう.σ(^^)モデス
 ただし ** は,品書きには * とは別枠に書かれているので,もしかすると注文の仕方が違うかも知れない.
 
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 暫く待つと,上の写真の「豚バラカリー,スリランカ風」がテーブルに届けられた.ライスは皿盛りで,スープカレーはオーバルで大きめなグラタン皿に盛りつけてあった.
 ライスは「大・中・小」から選択するが,上述の男の子をつれている美人 (当社比) のママさんは「大」を注文して,お子さんとシェアすると店員さんに言った.ということは「ライスなし」ということも可能なのかも知れない.
 私は「中」を頼んだが,盛りは少なめで,小食の女性でも容易に平らげられるほどの量である.
「豚バラカリー」の豚バラ肉は薄切りではなく,スーパーで「カレー用」と書かれているくらいの大きさにカットされていて,柔らかであった.これに野菜として少量のブロッコリとカリフラワー,ニンジンが入っていた.お値段の割には野菜が少ないかなーという印象.ただし,スープに鶏卵を落としてポーチドエッグにしてあり,これがあるので具がさみしいという感じは免れている.
 ちなみに,ハウス食品の公式サイトに《スープカレーとは?》と題した記事がある.これによると,スープカレーの食べかたは《1. 具材はご飯とは別に食べる 2. スプーンにご飯をとって、カレーに浸して食べる 3. 残りが少なくなってきたらご飯をスープ皿に入れて食べる 》である.実際にそうやって食べると,なるほどねーと思う.例の美人 (当社比) のママさんは,お子さんに「御飯はスープに入れて食べるとおいしいんだよー」と言っていた.いいお母さんである.
 ついでに書くと,私の隣のテーブルには,派手な色のウインドブレーカーを着て,椅子にリュックをどかんと置き,四人掛けテーブルを二人で占領しているアラフィフ婦人たちがいた.たまに見かけますな,街歩きなのにトレッキングみたいな恰好している女性たちが.彼女らはライスの「大」を注文したのだが,料理が運ばれてくると,皿のライスにスープをたっぷりかけて,スプーンで間断なくこねくり回し始めた.たまにいますな,カレーを無意味にずーっとかき混ぜずにはいられぬ人が.
 彼女らは,食べ始めから食べ終わりまで,皿にスプーンが当たる「カチャカチャ」音を,けたたましく店内に響きわたらせ続けた.
 カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ…
 首をしめてやろうかと思ったのであります.(了)
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