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2019年9月27日 (金)

キャッシュレス決済

 テレビの情報番組は今,キャッシュレス・ポイント還元の話で持ち切りだ.「どうすればお得か」という方法を解説してくれるわけだが,必ずしも解説者によって意見が一致しているのではないから,視聴者は困っているのではないか.(*追記あり)
 文藝春秋の十月号に成毛眞氏が「Suicaが最強のキャッシュレス決済だ」を書いている.特に専門知識がないと理解できない話ではなく,一般人読者の私にもよくわかる.氏の見解にほとんど同感だが,それはどうかな,と思うこともあるので以下に雑感を.
 成毛氏は,以前から現金を使うのは地方の土産物屋くらいのもので,普段は現金をほとんど使わない.買い物には主にSuicaを使用し,高額商品の購入にはクレジッカードを使っているという.
 買い物の決済に何を使うかは,世代によってかなり違うだろう.住んでいる環境によっても違うだろう.
「Suicaが最強のキャッシュレス決済だ」は誤りだと断言するつもりはないのだが,首都圏に住んでいるとSuicaが強力な決済手段であるが,地方へ行くととたんにSuicaが無力になって驚くことがある.
 例えば,少し前に徳島県の大塚国際美術館に出かけたとき,美術館までの路線バス料金の支払いは,現金と紙の回数券だけだった.私はほんの少しの小銭しか持たずに乗ってしまったのでかなり慌てた.それで,この時は途中でバスを降りて土産物屋で鳴門名産のワカメなんかを買って千円札を崩した.この時のバスドライバーさんがとてもいい人で,私が札を崩してバスに戻るまで待っていてくれた.徳島は,電子マネーは通用しないが人柄のよい土地なのであった.(2019年5月31日から徳島駅前の案内所では乗車券と回数券をクレジットカードまたは電子マネーで購入できるようになったが,依然としてバス内では現金のみ)
 また例えば,長野市の善光寺へお詣りした時のこと.長野市は大きな地方都市だと思っていたのに,Suicaが普及していないので心底驚いた.バス運賃は,現金または長野市内でのみ通用するバス専用のICカード「KURURU」でしか支払えないのだ.商店街でもコンビニ以外ではSuicaは使えない.それなのに街を歩いてもコンビニがあまり見当たらない.w
 後で調べると,長野市当局が作成した「ICカード導入に向けた検討」という資料が見つかった.この資料中に「想定されるICカードシステムのケース比較」という表がある.この資料は,交通機関にICカードシステムを導入するに際して,ユーザーにとっての利便性の点ではSuicaとの完全互換が圧倒的に優れている (地域住民◎,観光客◎) としておきながら,交通機関側の都合 (システム開発が楽チン,導入コストが安い) で,互換性ゼロの独自仕様を採用した経緯を説明している.市当局の,地域住民や観光客のことなんぞ頭にない思考方法がよくわかるので,なかなかおもしろい資料だ.行政がこんな状態だから,田舎だとブロガーが嘆いている.(←ブログ記事《SuicaエリアとバスのICカード》)
 長野県内自治体の交通機関がガラパゴス化したのには,長野県内の駅改札でSuicaが使えないから,という理由があるらしい.Suicaの利便性自体が高くないというのだ.しかしまあ,それは遅かれ早かれ自動改札になるのだから,先を見越してSuica互換にしておけばいいだけの話だ.要するに地方はクルマ社会で,交通機関にICカードを導入しても乗客が増えるわけではないから,そのような利益の出ないコストを負担したくないというのがホンネなんだろう.(Suica自体が日本独自のガラパゴス仕様〈=Felica〉だという人もいるが,それならばKURURUはガラパゴスの自乗だろう)
 似たことは米原市に行った際にも経験した.米原駅周辺にはセブン-イレブンが一つあるだけで,商店街すらない.お隣の観光地,長浜も似たようなもんだ.このようなさびれた地方都市では,現金が最強の決済手段であり,キャッシュレス決済なんてのは絵空事だろうと思う.
 絵空事といえば,JCBカードのテレビCM「第3弾 キャッシュレス定食」篇だ.大都市のオフィス街にある定食屋風内装のレストランならともかく,下町の大衆的価格の定食屋でJCBカード (QUICPAY) が使えるようになる時代は永劫こないと私は思う.客層が違うから.
 
 話が横道に逸れた.成毛氏は私より少し若い世代だが,Suicaとクレジットカードで買い物の支払いをするあたりは,私たち高齢者と同じだ.年齢よりも爺むさい成毛氏は,乱立しているQRコード決済を使う必要はないと断言する.理由は《支払いが完了するまでに手間と時間がかかりすぎる 》である.まことに同感であるが,しかしこれこそが,この文の冒頭で「それはどうかな,と思うこともある」と書いた,そのことなのである.
 QRコード決済は,かかる手間と時間の点で現金支払いよりも後退しているから普及しないと成毛氏は言う.しかしQRコード決済事業者がターゲットにしているのは,日常いついかなる時も片手にスマホを持って離さない人々である.彼らは若く,人生の残り時間はやたらと長い.それにくらべれば,コンビニのレジでバイトの兄ちゃんにQRコードを読み取ってもらう手間と時間なんか,ほんの一瞬だ.お得なクーポンを探すのだって,我々年寄りはめんどくさがるが,若い人たちは手間を気にしてなんかいないように見える.
 成毛氏は,ビジネス社会の最前線にいる人だから,いつでもどこでもスマホで動画を見ながらノロノロ歩いている若い世代とは,時間の感覚が違うと思う.いわばサイボーグ002が加速装置をオンにしたようなものだ.
 それに加えて,わずかな時間と手間を我慢できずに,短気に癇癪を起すのが爺いというものだ.QRコード決済の手間と所要時間が面倒だと成毛氏は書いているが,加速装置に老人性の短気がブーストをかけているのかも知れない.
 
 成毛氏の記事の見出しは「Suicaが最強のキャッシュレス決済だ」だが,実は中身を読んでみるとホンネは違うようだ.
不思議でならないのは、これほどの優位性を持つ決済手段があるにもかかわらず、JR東日本は積極的にSuicaのシェア拡大に取り組んでいるようには見えません。
《(Suicaがシェアを拡大するために) どうすればいいのでしょうか。答えは一つしかありません。Suica払いできるお店の数を増やすために、小売店に読み取り端末を無料で配るのです。
 
 まさしくSuicaの致命的に近い欠点は,Suicaの使える店が限られていることだ.(Suicaの使える店)
 私の生活圏である藤沢駅周辺でも,商店街のおいしい飲食店とか鮮度のいい魚屋などの小事業者では使えない.成毛氏が言うようにJR東日本が読み取り端末を無料で商店街にバラ撒いてくれれば,その時こそSuicaが最強のキャッシュレス決済手段になるだろう.しかしJR東日本の関心は都市部のエキナカ開発に向いているようで,地方の街ナカには無関心のように見える.JR東日本が街ナカでのSuica普及に力を入れない限り,いつまで経っても地方では現金が最強だろう.
 私たちがキャッシュレスで生活したければ,少額でもクレジットカードを使うしかないように思われる.しかしスーパーやデパ地下ではクレジットカードは使えるが,街の魚屋さんでは現金オンリーなのが現実である.人気のあるよい商店は,わざわざクレジットカードを導入しなくても客が来てくれるからだ.
  
(追記)
 日本テレビの朝の情報番組「スッキリ」で,「情報キャスター」が各種のキャッシュレス決済について説明した.MCの加藤浩次がSuicaを多用していると言うと,「情報キャスター」はSuicaはダメだと言った.Suicaは買い物でポイントを貯めても自動的にSuicaにチャージされないから,その手間が面倒で結局ポイントを捨てることになってしまうという.そこで加藤浩次が「買い物はスマホのアプリで,電車に乗るのはSuicaでと,分けたほうがいいのかな?」と言うと,「そうです」という結論で終わった.これを見ていた私は,情報番組のスタッフたちは文藝春秋くらい読めと言いたくなった.




 

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