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2019年9月28日 (土)

立ち食い蕎麦 三百円の壁の嘘

 ITmedia ビジネスオンラインの記事《消費増税で「1杯のかけそば」の価格はどうなる? ゆで太郎、小諸そば、富士そばの対応 》(掲載 2019/09/27 15:44) を読んで,疑問に思ったことがある.
 同記事は,来月実施される消費税増税に伴って,大手の蕎麦屋チェーン (「名代 富士そば」「ゆで太郎」はほぼ全店が椅子に腰かける席であり,「小諸そば」も多くが椅子のある店なので,これらを「立ち食い蕎麦屋チェーン」と呼ぶのは実情と合わないため,ここでは「蕎麦屋チェーン」としておく) が価格をどうするかについて書いたものである.
 テレビの情報番組は消費税の増税のことよりも,キャッシュレス・ポイント還元事業のことばかり放送しているが,同事業は中小・小規模事業者が対象なので,大手の蕎麦屋チェーンの利用者には恩恵がない.
 そもそも蕎麦屋チェーンは,「名代 富士そば」が辛うじて交通系電子マネーに対応の食券自販機を有しているが,「ゆで太郎」はキャッシュレス決済に食券自販機が非対応で,「小諸そば」はエキナカの店舗を除いて非対応らしい.(公表データがない) キャッシュレス・ポイント還元事業に参加する以前の状況であるようだ.
 ちなみに牛丼チェーンは,「吉野家」「松屋」「すき屋」はキャッシュレス決済 (クレジットカード,電子マネー,各種QRコード決済) に対応しているが,「なか卯」は現金のみ.「吉野家」「松屋」「すき屋」はキャッシュレス・ポイント還元事業に不参加だが,「吉野家」は独自の消費者還元を検討するという.(テレ朝news, 2019/9/6)
 さてITmedia ビジネスオンラインの記事によると,蕎麦屋チェーンの十月以降の価格は次の通りだ.
 
[1]
値上げに踏み切るのは、富士そばとゆで太郎だ。富士そばは「かけそば」(税込300円、以下同)を310円に値上げする。また、ゆで太郎は「かけ」(320円)を340円に値上げする。消費増税や原材料費の高騰が理由だという。ゆで太郎は、「ゆで太郎システム」(東京都品川区)が運営する店舗と、信越食品(東京都大田区)が運営する店舗がある。後者のゆで太郎の場合、「ダブルかつ丼」(800円)やトッピングの「海老天」(150円)などは据え置くが、セットメニューや丼物などは10~20円程度値上げを行う。また、これまで無料だった追加ネギを50円(30グラム)で提供するという。
 小諸そばはメインとなる「かけ」や「もり」(いずれも290円)の価格を据え置く。一方で「たぬき」(340円)を350円に値上げするなど、メリハリをつける。また、持ち帰り商品については、店内価格と同一価格にする。
[2]
ゆで太郎システムの池田智昭社長は、数年前にもりそばを290円から320円に値上げした際、売り上げへの影響が1年近く続いたと東洋経済オンラインの対談で語っている。260円から290円に値上げした際には大きな影響がなかったため、「正直、泣きそうになりました」と述べている。立ち食いそばチェーンにとって、「300円」の壁は大きいようだ(参考記事:「30円の値上げが立ち食いそばの死活問題なワケ」)。
 
 上記引用の[1]では「名代 富士そば」は「かけそば」(税込三百円) を三百十円に,「ゆで太郎」は「かけ」(三百二十円) を三百四十円に,それぞれ値上げするとある.店舗数一位の「ゆで太郎」は元々「かけ」が三百円以上だったし,二位「名代 富士そば」は今回の値上げで三百円以上となる.
 それなのにITmedia ビジネスオンラインの記事[2]は,不思議なことに《立ち食いそばチェーンにとって、「300円」の壁は大きいようだ 》としている.業界のトップ二社の最低価格が三百円以上であるのに,三位の「小諸そば」が最低価格を二百九十円に据え置くことをもってして,立ち食いそばには三百円の壁があると主張しているわけだ.正しくは,『「小諸そば」にとって、「300円」の壁は大きいようだ』としなければいけない.
 こういう矛盾したことを書いて平気なライターの頭の中には「かけそばは三百円以下」というドグマがあって,それに合致しない現実は無視するのである.
 この不思議頭のライターが参考にしたという《30円の値上げが立ち食いそばの死活問題なワケ ゆで太郎・富士そば社長対談(上)》と《店舗数を急激に増やす飲食店はだいたい危ない ゆで太郎・富士そば社長対談(下)》を読んでみると,「ゆで太郎」が前回の値上げ後に売り上げが低迷したのは,自社の都合 (採算性の改善を意図したのだろう) による値上げが,顧客の支持を失ったかららしい.しかし今回,「ゆで太郎」「名代 富士そば」の両社長は,増税という大義名分がプラスに働き,値上げが通るとみている.両チェーンとも,増税のドサクサに紛 増税分以上の値上げを行うわけだ.当事者たちは,かけ蕎麦に三百円の壁があるなんて思っていないのに,部外者のライターが独断を述べたのが《消費増税で「1杯のかけそば」の価格はどうなる? ゆで太郎、小諸そば、富士そばの対応》という記事の中身なのであった.
 実はネット記事には,この手の独断が多い.その文章中に既に矛盾があるようなものは調べれば馬脚があらわれるから,だまされないようにしたいものだ.

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